特集「研究評価の方法論」の編集にあたって |
我が国の研究評価について,現在政府・民間とも指針・政策,取り組みが活発になってきています。たとえば,平成9年8月7日に「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」が科学技術会議の意見具申に基づいて内閣総理大臣によって決定され,これを基に各省庁で厳正な評価を実施する体制整備が進展中です。科学技術庁による平成10年版「科学技術白書」にも研究評価の強化について記載されています。文部省では,平成9年12月9日に学術審議会が「学術研究における評価の在り方について」の建議を行っています。また広島大学大学教育研究センターが文部省の委託を受けて「大学の評価システムに関する全国調査」を平成10年に実施しています。この調査結果を参考に大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」の中で,大学の自己点検・評価の充実,第三者評価の導入などが改革方策として挙げられています。さらにまた平成10年には,「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」も成立し,「研究交流促進法」の改正も行われるなど,研究成果の社会還元を支援するための制度作りも進んでいます。 本特集では,こうした研究評価の取り組みについて,それぞれ異なる立場から方法論を中心に紹介する企画としました。研究評価の方法論といっても,それはいろいろな分類のもとにいろいろな方法が存在しています。例えば,評価者としての自己評価,外部評価,相互評価という分類,評価時期としての事前評価,中間評価,事後評価という分類,評価対象としての個人,組織,機関という分類,評価指標としての客観的評価と主観的評価という分類,評価貢献としての学問的意義と社会・経済への貢献という分類,などがあります。また,客観的評価指標としては著作数や論文数,研究発表数,学会活動,官公庁活動,受賞,特許,あるいは外部の公的研究費の導入状況,などが従来取り挙げられています。また,この際にはビブリオメトリックスという分析方法もよく使われます。ビブリオメトリックスは図書館情報学の一手法でもあり,論文,引用,研究費などに関する研究活動情報を定量的に分析しようとする手法です。本誌の性格上,ビブリオメトリックスは関心の高い領域であることから,本号ではまず最初にビブリオメトリックスからみた研究評価についてまとめていただき,次に行政機関,企業,大学におけるそれぞれの機関における研究評価についてまとめていただきました。また文部省が参考にしている英国の政府評価機関における研究評価についても現状の様子も踏まえてまとめていただきました。さらに学術文献の引用データをまとめビブリオメトリックスの手法で分析しやすくしたISIの評価分析ツールについても紹介していただきました。分析の目的に応じて様々な種類がありますが,中でも大学・企業の機関内で出版された文献をもとに作成される分析レポート Institutional Citation Report を中心に解説がなされます。 本特集が図書館や情報部門等の担当者が研究評価を理解し,どのような形で研究評価を支援できるかということを考える参考になれば幸いです。 |
(編集担当委員 村上篤太郎,小陳左和子,棚橋佳子,豊田雄司,藤本一光,米澤 稔) |
研究評価とビブリオメトリックス |
根岸正光 (ねぎし まさみつ) 学術情報センター |
昨今,研究評価に対する一般の関心が高まり,この中で,研究評価における客観的手法として,発表論文数,引用度数等を用いた分析手法,すなわちビブリオメトリックス(計量書誌学,計量文献学)へも強い関心が寄せられているかにみえる。しかし,実際にはインパクト・ファクターの安易な利用なども多く,ビブリオメトリックスへの理解は皮相的なものにとどまっている。本稿では,研究評価の枠組みとビブリオメトリックスの関連を検討した上,筆者らにおけるビブリオメトリックス的統計調査の経験を紹介しつつ,その研究評価への適用性を論じる。 |
キーワード:ビブリオメトリックス,計量書誌学,研究評価,引用索引,データベース |