特集「ILLの展望」の編集にあたって |
昨今の図書館を取り巻く情報環境は,インターネットの技術的な発展やその普及を始めとした,急速な情報化が進むなど大きく変化しています。各種の有用な情報がインターネット上で発信されるようになり,多くの人が日常的にホームページにアクセスし情報を得ることができるようになってきました。 また資料の爆発的な増加,雑誌価格の高騰,及び資料購入費の削減などの影響で,自館だけでは十分な利用者サービスができなくなってきています。 利用者の多様な情報要求に答えるためには,増加し続ける外部情報資源(図書・雑誌やネットワーク上の情報資源)を共有する図書館間の協力が必要になっています。 このような図書館をめぐる状況にあって,ILL(Interlibrary Loan:図書館間相互貸借)は図書館業務の中で今後ますます重要な位置を占め,活発になっていくのでしょうか?また,ILLの今後の展開は,図書館サービスにどのような影響を与えるでしょうか? 本特集では,まず,資源共有の新展開とILL/DDサービスの展望と題して総論的に述べていただきました。次に,医学図書館における相互協力活動の事例,公共図書館における図書館協力の事例を紹介していただきました。さらに,ILLにかかわる著作権問題についてまとめていただきました。 今回の特集がILLに携わる方たちにとってこれからの指針となればと考えております。 |
(編集担当委員 藤本一光,大原寿人,小陳左和子,重田有美,村上篤太郎) |
特集:ILLの展望
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石井啓豊(いしい ひろとよ) 図書館情報大学図書館情報学部 |
電子文献の増加と図書館経営におけるアクセス・ポリシーの採用等によって,資源共有活動は大きく変化した。近年の資源共有の諸活動は,伝統的資料とともに電子文献も含めた幅広いものを意図している。ILL/DDサービス開発の多くのプロジェクトも進行中である。新しいILL/DDサービスは利用者による直接依頼と利用者への文献直送という特徴を持つ。図書館経営においてILL/DDサービスの重要性が増大しつつあること,ILLサービスの合理性,及びILLネットワークの一貫性について論じた。この議論とILLサービスの機能分析に基づき,わが国の状況を取り上げてサービス開発の方向性について検討し,ILLサービスに関する全国的な戦略的計画の重要性を指摘した。 |
キーワード:資源共有,ILLサービス,ILL/DDサービス,アクセス・ポリシー,ネットワーク・コヒーレンス,機能分析,図書館経営,大学図書館 |
特集:ILLの展望
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山口直比古(やまぐち なおひこ) 東邦大学医学部図書館 |
日本医学図書館協会は,1927年の創設以来,文献複写サービスを中心とする相互協力を事業の中心としてきた。そのためのツールとしての総合目録を編集・刊行している。これら事業の歴史的な経緯や,現状について紹介し,将来の課題について検討する。 |
キーワード:日本医学図書館協会,相互貸借,文献複写サービス |
特集:ILLの展望
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大塚敏高(おおつか としたか) 神奈川県立川崎図書館 |
県立の公共図書館である神奈川県立川崎図書館は,収集資料を科学・産業技術分野に絞ることで「科学と産業の情報ライブラリー」という愛称のもと1998年4月にリニューアルした。川崎図書館は,その特徴的な所蔵資料とサービスをもって,館種を越えた図書館協力に取り組んでいる。県内の市町村図書館への支援はもちろんのこと,県外の公共図書館,試験・研究機関の資料室,企業の資料・情報部門などその対象は多岐にわたり,協力の形態もいろいろな形で行われている。とくに企業の資料・情報部門が参加する神奈川県資料室研究会の事務局を務め,有効なネットワークを支えていることは特筆される。 |
キーワード:図書館協力,神奈川県立川崎図書館,KL-NET,神奈川県資料室研究会,ドキュメントデリバリーサービス,全国総合目録ネットワーク |
特集:ILLの展望
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黒澤節男(くろさわ せつお) 九州芸術工科大学 |
ILLと著作権の問題について,図書館間相互の文献の提供が著作権法31条の許容する図書館における複製の範囲に入るのかという問題,FAXによる文献の送受信の問題,最近のArielに代表されるインターネット利用による文献の送受信などについて,文化庁や学者の見解について考察し,更に,権利者である日本複写権センターと利用者である大学図書館との話し合いの経緯などを踏まえ,よりよい解決策を探る。 |
キーワード:大学図書館,著作権,文献複写,図書館における複製,公衆送信権,日本複写権センター,著作権の集中的処理に関する調査研究協力者会議 |
投稿論文
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蓮沼龍子(はすぬま りゅうこ) ケルン日本文化会館 アニヤ ラーデガスト ヨーロッパ日本研究協会 |
連邦主義をとるドイツでは専門情報センターも主題ごとに分立しており,連邦政府の助成によって工学・自然科学分野には4つの専門情報センターが設立され,独自のデータベースを作成したり,他機関のデータベースを提供している。連邦政府や学術協会は情報インフラストラクチャーを高度化するために全国的な情報整備計画を立案し,様々な電子化プロジェクトを実施している。こうしてヨーロッパでも先進的に各種のデータベースを作成していたドイツの専門情報センターは,EU Telematicsプロジェクトへの参加はほとんどなく,今後,ヨーロッパ及び世界的レベルでの協力関係が望まれる。 |
キーワード:化学専門情報センター,フラウンホーファー建築情報センター,カルスルーエ専門情報センター,工業技術専門情報センター,連邦教育・科学・研究・技術省,ハノーバー大学技術情報図書館,ドイツ研究協会,EU,MIDAS |
連載:統計の読み方(第3回) |
村 田 優美子(むらた ゆみこ) 慶應義塾大学三田メディアセンター |
日本の学校教育及び社会教育に関する統計を取り上げる。文部省が実施する基本的な調査・統計資料を紹介するとともに,関連する資料の探し方にも触れる。最も重要な資料と思われる「学校基本調査」については,その沿革や調査事項の説明に加え,平成10年度調査結果から具体的に長期欠席者数の数値を取り出し,過去10年の推移なども紹介する。 |
キーワード:学校教育,社会教育,教育統計,学校基本調査 |