1999年 7月号抄録

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特集「EUの情報政策」の編集にあたって

 1999年1月1日,欧州統一通貨ユーロが誕生し,ヨーロッパの新時代が幕を開けました。
 歴史も言語も経済レベルも異にする国々が,いったいどのようにその壁を越え,あるいは独自の文化を守りながら,ひとつの経済圏を形成していこうとするのか,EUとしての目標と各国内の課題とをどう調整し,社会的インフラを標準化していこうとするのか,そのとき産業界,図書館界はどういった変化を遂げていくのか? 興味は尽きることがありません。
 本号では,まずEUの情報政策の流れと現状,それが日本にとって示唆するものを廣瀬克哉先生に論じていただき,次に欧州委員会のサイトの案内が続きます。各論として,EUのデータベース保護政策,図書館情報政策,そして業界再編の大波が押し寄せている出版界の動向を,それぞれ第一線で活躍する方々に,歴史的な視点をからませながら報告していただいています。
 EUの壮大な試みと努力は,日本やアジアの将来を考えるとき,また世界の未来像を描こうとするときに,私たちに多くの経験と示唆を与えてくれるに違いありません。これを機に,情報関連の仕事に携わる人々の間でEUに対する興味と理解がいっそう広がり,日本での議論が深まることを期待しています。
 (編集担当委員 豊田恭子,松林正己,米澤 稔)

特集:EUの情報政策
   情報社会へのヨーロッパ的な道すじ

廣瀬克哉(ひろせ かつや) 法政大学法学部
 EUの情報政策の焦点は3段階の展開を遂げてきた。1980年代半ばに始まった官民共同の研究開発プロジェクトに代表される情報技術政策の時代が,1990年代半ばには,市場の自由化と競争条件の整備などによって市場における民間の投資活動を刺激して情報化を推進する情報市場政策の時期へと展開し,1990年代末にかけて社会・文化への情報化の影響に焦点を合わせた諸政策の体系化を図る情報社会政策の時代が始まりつつある。
 政府の役割と社会文化的な視点の重視,歴史や文化に根ざしたコンテントの重視などが,情報社会へのヨーロッパ的な道すじを特徴づけている。多様性を維持しながら標準化と協力を推進してきたEUの経験に学ぶべき点は多い。
 キーワード:情報社会,国際協力,社会資本,規制改革,自由化,標準化,コンテント,文化資産,産業政策,企業家政策

特集:EUの情報政策
   WEB上の欧州諸機関:Europe世界への発信

駐日欧州委員会代表部広報部

  欧州委員会のWebページ「Europe」の紹介。Europeは1995年の開設され,現在は欧州連合諸機関の機関間サーバーとして条約がカバーするあらゆる課題に関する情報を提供している。目的は,欧州委員会と政府部局,報道関係者,専門家集団,一般市民との対話の促進にある。Europeの開発には,DG Xを中心に各種の作業グループが活動している。約40ある部局は,編集委員会のガイドラインに沿いながら,独自のページを維持する責務をもち,11の言語による情報サービスを行っている。また,駐日欧州委員会は独自のWebサイトをもち,日本語での情報提供活動を行っている。予算とスタッフの確保が今後の課題といえる。
 キーワード:欧州委員会,欧州連合,Webサイト,Europe,DG X,多国言語,情報提供活動

特集:EUの情報政策
   EUのデータベース保護政策

長塚 隆(ながつか たかし) (株)KMKデジテックス
  インターネットの急速な普及により,データの編集物としてのデータベースのコンテンツが不正抽出されたり,再利用される恐れが広がった。このような中で,1991年のFeist判決は,従来米国の著作権法ではデータベースは「額に汗」論により保護されるとの考えを覆したので,ヨーロッパ諸国に著作権でデータベースの保護が十分できないのではないかとの大きな関心を引き起こした。EC委員会は,1996年に加盟国にデータベースの法的保護であるEUデータベース指令を発した。著作権を補うデータベースのコンテンツ保護である新たな権利(sui generis)を盛り込んだ本指令は,1998年までに加盟国での法制化を指示している。著作権によるデータベースの保護に加えてファクトの編集物の保護ための著作隣接権としての新たな権利(sui generis)はわが国における法制化の際にモデルのひとつとなっている。
 キーワード:EUデータベース指令,Feist判決,データベースの法的保護,ファクト(事実)の保護,データの不正使用,著作権,著作権で保護されないデータベース,新たな(sui generis)権利

特集:EUの情報政策
   Telematics for LibrariesとEU諸国の図書館協力

蓮沼龍子(はすぬま りゅうこ) ケルン日本文化会館 

アニヤ・ラーデガスト ヨーロッパ日本研究協会

1990年に登場したEC諸国図書館協力計画Telematics for Librariesは,EU誕生以降,更に具体化され,そのプロジェクト数は114に上る。CD-ROMやインターネットを媒体としてヨーロッパ・レベルでの情報コミュニケーション・ネットワークを目的とするプロジェクトには,各国図書館以外にも国立図書館司書会議,図書館・情報・ドキュメンテーション協会が参加協力している。
 キーワード:EU,Telematics for Libraries,CDBIB,ELVIL,NEDLIB,ヨーロッパ国立図書館司書会議(CENL),図書館・情報・ドキュメンテーション協会ヨーロッパ支部(EBLIDA)

特集:EUの情報政策
   EU時代を迎えたヨーロッパの出版業界

竹内和芳(たけうち かずよし) 株式会社祥伝社
  単一通貨ユーロがスタートし,ヨーロッパの出版界においてもさまざまな変化が始まっている。本稿ではまず,各国の書籍販売における再販制の状況とその論議を追い,次に,世界的なメディア企業の再編の波と,国境を越えてコングロマリット化する大手出版社の動向を俯瞰する。そしてますます競争の激化する書籍小売りの最前線をドイツ,フランス,イギリスを例に見,最後に,新時代が引き起こす知的所有権の問題について触れる。EU時代を迎えたヨーロッパ出版業界の現在と課題を論じたい。
 キーワード:ユーロ,EU委員会,再販制,メディアのM&A,コングロマリット,チェーン書店,オンライン書店,知的所有権


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