特集「論文抄録 意義と役割」の編集にあたって |
本年1月より,本誌「情報の科学と技術」では,論文には必ず英文抄録を付与するものとし,同時にアメリカの抄録データベースであるInformation
Science Abstractsにその英文抄録が索引されるようになりました。日本から世界への情報発信を担う新たな可能性に身の引き締まる思いです。 そこで本特集では論文抄録の意義と役割を考察いたしました。私たちは文献情報収集の過程で常日頃抄録を利用しますがそれはどう作成され,どういうルールがあって成り立つものなのでしょうか。まず最初に,データベース作成側から見た第三者抄録の意義と役割を述べていただきます。 次に著者として抄録を作成するための指針を求めました。抄録や要旨を付与することを,二次資料製作者側に任せるだけでなく,著者が質の良い抄録を書くことを目指せばさらに日本の論文をより多く世界へ発信できるという期待があります。しかし日本では論文の書き方,ましてや抄録の書き方を教えられる機会はきわめて少ないのが現状です。ここでは雑誌の投稿規定から著者抄録のあり方,現状を考察します。 また,世界への情報発信を意識するには欠かせない,英文抄録作成のための重要ポイントをまとめていただけたのは貴重です。さらに,今後も興味深い機械自動抄録の動向についても述べていただきました。 フルペーパーの入手をせず,抄録だけを読んで情報収集を完結することは望ましくはなく,抄録に頼り切るわけにはいきません。しかし抄録の善し悪しが,今後の情報収集,情報発信に影響しつづけることは間違いありません。本特集で抄録の意義と重要性を問いつつ,良い抄録とはどうあるべきかを考える機会として役立てていただければ幸いです。 |
(編集担当委員:棚橋佳子,豊田雄司,長谷川正好,藤本一光) |
特集:論文抄録 意義と役割
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時実象一(ときざね そういち)科学技術振興事業団,日科情報(株) |
化学分野の抄録誌Chemical Abstractsは1907年に創刊され,現在は世界第一の抄録誌となっている。その生い立ち,Crane編集長を中心とする初期の歴史,日本におけるボランティアによる抄録作成協力,国際協力,機械化の努力とCBACやPharmPat/AgPatなどの新抄録サービスの試み,現在の抄録作成方針,今後の方向について解説した。 |
キーワード:抄録,化学,Chemical Abstracts,抄録作成,抄録作成方針,国際協力,二次情報誌 |
特集:論文抄録 意義と役割
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マイケル・オキーフ |
現在では,多くの国々の特許明細書の全文テキストがインターネット上で利用できます。ただ,残念なことに全文テキストは検索機能という面では十分ではありません。本稿では,ダウエント・インフォメーションがどのようにして,全文テキストの検索からでは得られないような高い再現性と適合性を備えたサーチャーの方々のための抄録を作成しているかをご紹介します。 |
キーワード:インターネット,特許検索,全文テキスト,抄録,再現性,適合性 |
特集:論文抄録 意義と役割
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棚橋佳子(たなはし よしこ) ISIジャパン/トムソンコーポレーション株式会社 |
背景:インターネットの出現で速報性,生産性の高まる論文の世界では,より充実した著者抄録が求められる。日本の著者抄録は記録としての要約の側面が強いので,読み手を十分に納得させるためのより効果的な抄録を目指す必要がある。 目的/方法:論文作成の指南書から抄録の定義を整理し,和雑誌の投稿規定の抄録に関する記述を比較し,抄録改善を目指す構造化抄録の動向に着目した。 結果:和雑誌では要旨,抄録,要約など言葉の定義が曖昧であり,9種の類似した表現が見られた。投稿規定には抄録の指示は少なく,79%が抄録のスタイルと字数制限を記述するのみであった。そこで優れた執筆要項から求められる抄録作成のための要件を抜粋し参照リストを示した。構造化抄録は医学雑誌を中心に増加しつつあり,臨床系欧文誌の3分の1以上にまで掲載が広がる傾向がわかった。 |
キーワード:著者抄録,投稿規定,執筆要項,構造化抄録,学術論文誌 |
特集:論文抄録 意義と役割
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成田 滋(なりた しげる) 兵庫教育大学 |
論文内容の簡潔なまとめである抄録を書くには、その技術的な修辞上の手法を理解する必要がある。読者は、二次情報である抄録を読むことによって一次情報にあたることになる。二次情報が不十分な内容であれば、いかに一次情報である研究論文がすぐれたものであっても、読まれることはない。英語の抄録は、基本的には日本語の抄録の書き方と違わない。英語は、論理性や一貫性を強調する欧米の思考方法を反映する。整合性と一貫性を踏まえて、論理的な表記を基本にするのが英語である。 |
キーワード:抄録、整合性、一貫性 |
特集:論文抄録 意義と役割
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谷口敏夫(たにぐち としお) 光華女子大学文学部人間関係学科助教授 |
本論は、自動抄録の研究を、現代の電子図書館構築の立場から論評したものである。そのために、まず自動抄録研究の源流を1958年米国の、H. P. Luhnの研究に求めた。次に日本の自動抄録研究史を概観した。最後に現代の先端的研究をとりあげ、これを論評した。 |
キーワード:自動抄録、電子図書館、ルーン、自然言語処理、重要語、重要文 |