1999年 4月号抄録

prev10s.gif


特集「レファレンス業務の基本」の編集にあたって

  レファレンスは,図書館サービスの柱のひとつであることは言うまでもありませんが,個人的な資質や経験の積み上げが重視されるあまり,教育・研修,蓄積された財産の共有化,そしてそれらの評価,といった業務の体系化が意外とおろそかにされてきたのではないでしょうか?
  また,ここ数年のインターネットの進展に伴い,レファレンス業務の何が変わり,何が変わらずにある(あるいは変えてはいけない)のでしょうか?
  今回の企画は,このような疑問からスタートし,注目すべき事例・活動をご紹介いただくことで,これらに対する答えが見つけられたら,と考えました。
  気持ちも新たになる4月を迎え,レファレンス・ライブラリアン一年生の方にもそうでない方にも,レファレンス・サービスの心について改めて考え,元気がわいてくるような一冊になれば,と願っています。
 (編集担当委員:小陳左和子,大原寿人,重田有美,豊田恭子)

特集:レファレンス業務の基本
         レファレンス業務の基本

村橋勝子(むらはし かつこ)(社)経済団体連合会 社会本部情報メディアグループ(経団連レファレンスライブラリー)
 
専門図書館のレファレンス業務は,「組織のため」「仕事のため」という明確な目的を持っている。 特定分野に高いニーズを持った専門家が利用者であるから,積極的・専門的なサービスを提供しなければならない。
  優れたレファレンス業務を行うには,多様かつ高度な能力を備えたライブラリアンが不可欠である。 レファレンスは,不確実性が高く,マニュアル化も困難ではあるが,専門図書館の中枢をなす業務で,ライブラリアンにとっては,充実感とやりがいのある,豊かで楽しい仕事である。
 キーワード:レファレンス業務,ライブラリアン,情報源,専門図書館

特集:レファレンス業務の基本
   レファレンス・インタビューの技術:事例から

島田たかし(しまだ たかし)慶應義塾大学湘南藤沢メディアセンター
  利用者から質問があった時,その利用者(と情報要求)を知るために行うのがレファレンス・インタビューである。レフャレンス・インタビューの技術とは,広義な意味では資料を探し出す能力のことである。この部分は「経験」が大きな比重を占める。一方,実際に行う「インタビューの方法」の部分はマニュアル化しやすい。これが狭義の意味でのレファレンス・インタビューの「技術」である。本稿では,どこまでが「技術」であり,どこからが「経験」であるかを,事例を参考に考察する。
 キーワード:レファレンス・インタビュー,事例研究,パターン,インタビューの技術,経験

特集:レファレンス業務の基本
  レファレンス事例による研鑚と経験の蓄積・共有化
  ―三多摩レファレンス探検隊の活動とその意義―

斎藤文男(さいとう ふみお) 東京都立中央図書館 資料部 新聞雑誌課
  三多摩レファレンス探検隊の活動を例に,現場に役立つ実際的なレファレンス研鑽の意義と方法を明らかにした。
  次に,公共図書館のレファレンス・サービス現況のもとで,実践的レファレンス技能の向上のためには,集団による事例検討方式(調査プロセス比較法)が有効であることを論証した。また,そのための基本技術である,@レファレンス記録(メモ)の取り方の実際,Aそれを蓄積し共有化したツールの運用法,Bレファレンス事例集の効用についても論及した。
 キーワード:三多摩レファレンス探検隊,レファレンス・サービス,自己研鑽,グループ学習,レファレンス記録,レファレンス・プロセス,レファレンス事例集

特集:レファレンス業務の基本
    人的ネットワークによるレファレンス業務支援
    「レファレンス・メーリングリスト」の活動

池田剛透(いけだ よしゆき)多摩大学附属図書館
  メーリングリストは,ポストされた1通の電子メールを,予め登録してあるメンバー全員に配送する仕組みである。国内において公開しているメーリングリストの数は数千にも及び,非公開のものも合わせれば数万はくだらないだろう。このような状況をみてもメーリングリストの利用価値は大きいといえる。
  本稿では,メーリングリストの概要を述べた後,レファレンスを主題として開設した「レファレンス・メーリングリスト(Reference-ML)」について紹介したい。そして,新たな人的ネットワークによるレファレンス業務支援が,実際にどのように行われ,レファレンス・ライブラリアンにどのような影響を与えたのかを考察する。
 キーワード:メーリングリスト,電子メール,参考業務(レファレンス・サービス),インターネット,ネットワーキング,相互協力

特集:レファレンス業務の基本
インターネット時代のレファレンス業務
   ―アジア経済研究所の 事例と
      役立つインターネット・サイトの見つけ方―

園部益子(そのべ ますこ)日本貿易振興会アジア経済研究所 図書館資料・情報相談室
  アジア経済研究所は,発展途上国・地域を主な対象とした社会科学分野の研究所である。図書館は一般にも公開され,OPACもインターネット上に公開されている。本稿では,研究所のホームページから得られるデータについて詳述し,アジ研図書館でのインターネット利用のレファレンス事例4件を手順を含めて解説した。次に,レファレンスに役立つサイトの集め方として,雑誌などの印刷媒体とネット上のサイト集を紹介する。さらに,新しい学術情報が定期的に得られるインターネット・レビュー誌 “Scout Report",“Asian Studies WWW Monitor" についてふれる。最後にインターネット導入後のアジ研図書館のレファレンス業務の変化を述べた。
 キーワード:アジア経済研究所,発展途上国,社会科学,図書館,OPAC,インターネット,レファレンス業務,インターネット・サイト

特集:レファレンス業務の基本
レファレンス評価の手法:ALAレファレンスと 成人サービス評価委員会編集の『マニュアル』紹介とその部分訳

松林正己(まつばやし まさき)中部大学附属三浦記念図書館
  三浦逸雄が指摘しているように日本のレファレンスは,一見定着しているように見えるが,現実はほど遠いのが実際だろう。いわゆるresearch consultantレヴェルのサービスが肝要なのは大串の指摘するところでもある。先行研究から得た見解は決してネガティヴなものばかりではないが,蓄積が少ないし,評価基準が確立されていない。アメリカの蓄積を省みながら評価基準の構築と評価の蓄積がレファレンスサービスの向上に資する方向性のオーソライズがなされる契機を得るために評価マニュアルの紹介を試みた。
 キーワード:レファレンス・サービス評価,レファレンス評価マニュアル

投稿 (翻訳文献)

ARLはSPARCプロジェクトを通して 学術出版における競争を促進する

時実象一(ときざね そういち)科学技術振興事業団 客員情報員,(株)日科情報
  学術雑誌出版において,大手出版社の寡占状態により価格の高騰,図書館・教育における公正利用の制限の恐れなどが生じている。これに対抗するため北米の大学図書館を中心とする研究図書館協会(Association Research Libraries : ARL)はSPARCプロジェクトを発足した。これは既存の高価格の雑誌に代わる新規の雑誌出版を学会・出版社等に呼びかけ,そのベンチャーを支援するものである。
 キーワード:雑誌出版,雑誌購読価格,寡占,出版社,図書館,公正利用,著作権,ARL,SPARC


prev10s.gif