1999年2月号抄録

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特集「図書館のマーケティング」の編集にあたって

  マーケティングは営利組織において発達したものですが,近年,非営利組織でもその理論の適用が検討され始めています。欧米では既に実践されているようですが,日本においてはまだ検討段階のように見受けられます。
  マーケティングの基本思想は「サービスを生産することではなく,顧客を得ることである」といわれるように,顧客(利用者)の満足度を優先して組織の活動を進めるものであると考えています。
  図書館のマーケティングにおいても,国内でここ数年いくつかの論文はあるものの,まだ本格的な実例は少なく,理論的な段階であると推測されます。しかし,このテーマは着実に図書館関係者の注目を獲得しつつあります。それは昨今の図書館を取り巻く環境がいろいろな意味で急激に変化してきており,図書館を運営する立場の人にとっても,今後何をどのようにしていけば良いのか迷いかねない現状があるからではないでしょうか。
  そこで今回の特集は,まだ日本の図書館にとっては経験の少ないと考えられるこのテーマを取り上げ,今後の図書館活動の方向性を模索しようと考えました。
  内容は始めに総論として,一般にマーケティングとはどのようなものかを説明しています。次に今回の中心的な内容である図書館のマーケティングについて,理論的な面や先行しているアメリカの状況等を紹介し,最後に日本における事例報告を配しています。
  今回の特集内容が今後,電子図書館の話題と同じくらい活発に論じられる起爆剤になればと願っています。
 (編集担当委員:豊田雄司,山地康志,村上篤太郎)


特集:図書館のマーケティング
    図書館のマーケティング ―顧客満足の視座―

斉藤通貴(さいとう みちたか) 慶應義塾大学 商学部
  本論文では図書館の効果的な戦略を考えるに当たって,マーケティング戦略の視点を導入し,非営利組織のマーケティング,マーケティング戦略プロセス,サービス・マーケティング,消費者情報処理行動の研究成果を援用することを試みた。図書館運営におけるマーケティングの有用性は,顧客満足の視座からそれぞれの業務をとらえ,戦略的発想を得ることであると考える。市場,公衆,製品ミックス,接客員へのエンパワーメント,関係性のマネジメント,データベース・マーケティング,顧客分類と情報提供などの議論を通じて,いかにして図書館のミッションを有効かつ効率的に達成するかが議論される。
 キーワード:非営利組織のマーケティング,交換概念,マーケティング戦略プロセス,公衆,サービス・マーケティング,生産と消費の不可分性,エンパワーメント,関係性のマネジメント,消費者情報処理,情報の量と質,購買関与,品質判断力

特集:図書館のマーケティング
       図書館のマーケティング

永田治樹(ながた はるき) 図書館情報大学 図書館情報学部
  昨今,図書館には,貧しいコレクション,予算不足,少ない人員などの制約だけでなく,新たに大型書店や,商用のドキュメント・デリバリー・サービスあるいは情報サービスとの競争といった条件が加わった。このような状況下における図書館の経営戦略はどのようなものになるのであろうか。本論では,それをマーケティング問題において論じる。最初に,なぜ図書館のマーケティングが進展しなかったのか,そして1990年代においてはどのような展開になっているかをとらえ,図書館にとって重要なサービスのマーケティングとは何か,またサービス・マーケティングについてはどのような点を考慮しなければならないかについて述べる。
 キーワード:図書館経営,サービス・マーケティング,サービス品質,マーケティング・ミックス

特集:図書館のマーケティング
   ウラ・ダストリカー氏による 「経営戦略的マーケティング」

豊田恭子(とよだ きょうこ)JPモルガン ビジネス・リサーチ・センター
  ウラ・ダストリカー女史がSLA機関誌「Information Outlook」(98年2月号)に発表した論文の紹介。情報技術の進歩によって,今や企業の情報センターは経営戦略的マーケティングを採り入れなければ生き残っていけないと主張する。経営者が株主利益の追求を第一義におくように,情報センターもまた,情報センターの株主―利用者と経営者―の意向を反映させた商品づくりが肝要である。とりわけ組織の経営戦略に連動した運営と,情報関連部門との協力関係の樹立,そして利用者に対するアピールがマーケティングを成功させ,情報センターを組織のナレッジセンターへと発展させる鍵である。
 キーワード:マーケティング,企業戦略,株主利益,販売促進,情報センター,図書館,商品開発,ナレッジセンター

特集:図書館のマーケティング
    公共図書館とマーケティング ―浦安市立図書館の例―

常世田 良(とこよだ りょう) 浦安市立図書館
  アメリカなどにおいては,産業界のみならず,行政機関,NPOなど,いわゆる非営利組織の運営に関しても,マーケティング理論が導入されつつある。
  日本の公共図書館における,マーケティングの実践例として,浦安市立図書館をとりあげる。
  同図書館では,図書館としてのサービスのコンセプトに,統一性と一貫性をもたせるよう努めている。また,各種のリサーチを頻繁に行うことにより,利用者のニーズを調査分析するとともに,プロモーションとしての多様なPRを実施している。
 キーワード:公共図書館,マーケティング,浦安市,PR

特集:図書館のマーケティング
  大学図書館の新たなサービスのための マーケティングについて

金子康樹(かねこ やすき) 慶應義塾大学三田メディアセンター
  大学図書館が新たなサービスを展開する上での計画について,マーケティング理論を応用することを考察する。大学図書館を取り巻く情報環境の変化に注目した上で,大学図書館における新たなサービスにはどのようなものがあるか,またそれを評価するための理論基盤としての,マーケティングミクスにおける製品ミクス,製品アイテム,製品の付随機能の面からの検討を行った。
 キーワード:大学図書館,マーケティング,製品ミクス,製品アイテム,サービス戦略

序説:企業図書館のガバナンスとリレーションシップ・マーケティング        ―21世紀の企業図書館に向けて―

高森 要(たかもり かなめ),山田 奨(やまだ まさし),三好俊一(みよし しゅんいち) (株)野村総合研究所 情報リソース部ナレッジマネジメント推進室
  情報技術の進展に伴い,インターネットやイントラネットの情報ネットワーク環境が普及し,企業図書館は大きな転換期を迎えている。欧米の企業図書館では,ナレッジマネジメントや顧客学習マーケティング等の枠組みで,既に改革が着手されている。野村総合研究所においても,昨年ナレッジマネジメント推進室を設置してから,図書館機能の抜本的な改革に着手している。本稿の目的は,その改革の経過を一部の成果としてまとめ,試論として企業図書館におけるガバナンスとリレーションシップ・マーケティングを提示することである。
 キーワード:ガバナンス,リレーションシップ・マーケティング,企業図書館,ナレッジマネジメント


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