「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 63(2013), No.2

特集=「ログの活用」

特集 : 「ログの活用」の編集にあたって

 本特集ではログの活用について各論者の方々にご執筆いただきました。
 私たちの身の回りには多くのログが残り,様々な形でログは活用されています。例えば小売店において消費税者の行動履歴を商品の陳列に活かすことで売り上げが左右されることは周知のことと思います。インターネットではボタン一つの配置が大きく売り上げに影響してきます。サービスを向上するためにはログを把握し,分析,活用することは欠かせないことになっています。記録を意味するログは,そもそも航海等において距離を測るうえで使われ,今では上述のように利用者の行動履歴やデジタルメディアのアクセスログとして,さらにはブログやSNSを活用し自身の活動記録を残すライフログなど幅広く使われています。
 デジタル環境が発展することで様々な場面でログを得られやすくなる一方,ログ情報が氾濫し精査しきれなくなることやプライバシー保護に問題が生じるなど課題も多く出てきています。
 本特集はいくつかのケースにおいてログの取り扱いについてそれぞれの視点で論考いただきました。
 青山学院大学の野末氏より,大学図書館における情報リテラシー教育の評価について統計や文書におけるログの利用可能性について論じていただきました。
 筑波大学の佐藤氏より,電子リソースの利用の観点からアクセスログの分析について論じていただきました。
 京都大学の中村氏より,一般的な行動や環境において重要な情報を得るために映像によるライフログの取得と利用について紹介および論じていただきました。
 神奈川工科大学の大塚氏より,メディアミックスの観点からフリーマガジンと連動するWEBサイトのログ分析事例について論じていただきました。
 日本電信電話株式会社NTTセキュアプラットフォーム研究所の菊池氏,高橋氏より,健全なログ活用を目的にプライバシーリスクに対する技術的措置について論じていただきました。
 読者の皆様にとってログを活用されるシーンは様々かと思いますが,本特集が少しでも皆様方にとってお役に立てば幸いです。
(会誌編集担当委員:松下豊(主査),齊藤泰雄,高久雅生,森嶋桃子)

評価データとしての「ログ」活用の可能性
〜大学図書館における情報リテラシー教育を中心に〜

野末 俊比古
のずえ としひこ 青山学院大学教育人間科学部教育学科
〒150-8366 渋谷区渋谷4-4-25
Tel. 03-3409-8111(代) (原稿受領 2012.12.26)

 本稿では,大学図書館における情報リテラシー教育の評価にあたって,統計や文書などの「ログ」を活用する可能性について検討する。図書館には,評価データとして効率的・効果的に利用できる多種多様なログが日常業務のなかで蓄積されているが,利用に伴うコストも考慮しつつ,アウトプット評価に偏らず,アウトカム評価を充実させる方向性が期待され,定量的評価に加えて定性的評価を重視する取り組みなどが求められる。

キーワード: 情報リテラシー教育,大学図書館,統計,評価,文書,ログ

電子リソースのアクセスログ分析

佐藤 翔
さとう しょう 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
(原稿受領 2012.11.13)

 電子ジャーナル等の電子リソースの普及に伴い,そのアクセスログに基づいた研究が増えている。本文へのアクセス状況を包括的に示すアクセスログの分析は利用者行動を知る際に役立つものであるが,その目的や意図はログからはわからないため,その他の手法と組み合わせることが有益である。また,引用データとは異なる傾向を示すものとしてビブリオメトリクスの中でも注目されているが,研究評価に用いるには水増しが容易である等の問題もある。日本においては,海外で行なわれているような電子ジャーナルの大規模ログ分析が未だ行なわれていないことが課題である。

キーワード: 電子リソース,電子ジャーナル,学術情報流通,ビブリオメトリクス,アクセスログ分析

映像によるライフログ

中村 裕一
なかむら ゆういち 京都大学 学術情報メディアセンター
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
Tel. 075-753-7477 (原稿受領 2012.12.13)

 映像には多くの情報を記録することができ,ライフログのデータとして優れている反面,閲覧に時間がかかり,一覧性も悪いなどの欠点もある。そのため,メディア技術を用いて,ライフログ映像の加工を行うことが必須となる。本稿では,記憶補助から集団活動の解析や補助まで,様々な目的に対して,種々の画像・映像処理を行って,ライフログ映像の活用を支援する手法について紹介する。

キーワード: ライフログ,映像,主観映像,グループのログ,シーンの再構成

フリーマガジンと連動するWebサイトの解析事例

大塚 真吾
おおつか しんご 神奈川工科大学 情報学部 情報工学科
〒243-0292 神奈川県厚木市下荻野1030
Tel. 046-291-3231(原稿受領 2012.11.19)

 本稿ではフリーマガジンと連動するWebサイトの解析例について報告する。今回解析を行ったWebサイトは東京都内の働く女性を対象としたフリーマガジンと連動しており,この解析結果から都内の働く女性のWeb上での行動を推測することができた。アクセスログの分析では一般的にアクセスをしたユーザの性別や年代を特定することは難しいが,今回の解析では働く女性をターゲットにし,コンテンツ提供しているサイトの特徴を活かすことで,特定のユーザ層に関する閲覧行動の抽出を試みた。その解析結果から,ユーザの特徴的な行動パターンを発見することができた。

キーワード: アクセスログ解析,ユーザ行動分析,空間と実世界,フリーマガジン,フリーペーパー,Web解析

ログ情報活用におけるプライバシー保護技術の考察

菊池 亮,高橋 克巳
きくち りょう,たかはし かつみ
日本電信電話(株)NTTセキュアプラットフォーム研究所
〒180-8585 東京都武蔵野市緑町3-9-11
Tel. 0422-59-7829, 3520 (原稿受領 2012.12.12)

 健全なログ情報活用のためには,プライバシー上のリスクに対する正しい理解の上で,最善な技術的措置を講じることが重要である。本稿ではログ情報の活用のために必要と考えられるプライバシー保護の技術的手段に関して考察を行う。本稿ではログ活用のプロセスをログ情報の提供者,処理者,活用者の3主体に分類し,その主体間でそれぞれ,入力プライバシー,処理プライバシー,出力プライバシーを定義する。次にその上でのリスクを定義し,リスクの要因となる処理形式や背景知識について整理し,対策となる技術を紹介する。

キーワード: プライバシー保護,ログ情報処理,匿名データ,統計表,暗号,セキュリティ
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