Vol. 63(2013), No.1
今月の特集は,「『検索』のゆくえ」です。Webと検索エンジンが普及した現代社会において,情報検索は日常生活の一部として浸透しています。その反面,「Google的な検索でヒットしない情報は,もはや『情報』ではない」という認識を生みかねない危険もまた懸念されるところです。
一方,画像情報や動画情報,音声情報など,従来型の「言葉」に依存する検索が困難な情報も増加し,これに対処するためのマルチメディア検索技術が飛躍的な進展を見せつつあります。また,ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアの普及により,人々の情報収集行動に変化が訪れているという指摘もあります。
本特集では,多面的な発展を見せる情報検索技術がこれからどこへ向かうのか,情報検索技術の進化はインフォプロの情報検索にどのような影響を与えるのか,「検索」という行為の意義にさかのぼって検討していただきました。
総論では放送大学・三輪眞木子氏に,「『検索』のゆくえ」を考える前提として,「情報を探す」とはどういった行為なのかという定義を下敷きに,情報検索の歴史的概略から,WWW登場以降の検索エンジンによる全文検索が主流となりつつある現在までを概説していただきました。続いて,有限会社未来検索ブラジル・森大二郎氏には,今や生活に必要不可欠なツールとなりつつある検索エンジンについて,その歴史・仕組みの概略を解説していただくとともに,今後の検索エンジンとの上手な付き合い方についてご教示いただいています。
京都大学・中村聡史氏には,従来の検索エンジンではたどり着けない情報にユーザーがたどり着くための支援技術を検討する新たな手法について,ご自身の研究を中心にご紹介いただいています。マルチメディア検索の動向としては,目覚ましい発展を遂げる音声検索技術の近年の研究動向とその技術課題について,豊橋技術科学大学の秋葉友良氏に論じていただきました。
最後に今や検索エンジン以上に人々のWeb利用時間を占めているといわれるソーシャルメディアを利用した情報収集を,受動的な情報利用行動と位置づけ,和歌山大学の風間一洋氏に,人とのつながりが重要な役割を果たす情報探索行動の意義を,能動的な情報検索との対比により論じていただきました。
本特集が読者の皆様にとって,「検索」という行為について改めて再考する一助になれば幸いです。
(会誌編集担当委員:立石亜紀子(主査),齊藤泰雄,白石啓,高久雅生)
三輪 眞木子*
*みわ まきこ 放送大学 ICT活用・遠隔教育センター
〒261-8586 千葉市美浜区若葉2-11
Tel. 043-298-3208 (原稿受領 2012.10.22)
検索の歴史を振り返り将来を展望した。システム志向とユーザ志向のアプローチの立脚点を概観し,研究開発の歴史を両者のせめぎあいから歩み寄りに至るプロセスと位置づけ,両アプローチの概念モデルを紹介した。検索システムの進化を捉える軸として,適合性,情報探索プロセスモデル群,コストと時間削減のあゆみ,および学習や調査のための探索型検索への対応を取り上げた。あらゆるタスクやゴールを目指すユーザがいつでもどこにいても制約なく楽しみながら求める情報を入手することを検索の目標と位置づけ,その実現のために,適合性に代わる検索システム評価基準として知識の変化を測定する尺度の必要性に言及した。
キーワード: 検索,探索プロセス,適合性,不確定性,評価尺度,システム志向アプローチ,ユーザ志向アプローチ
森 大二郎*
*もり だいじろう 有限会社未来検索ブラジル
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-16-1宮坂甲斐路ビル6F
Tel. 03-6300-9781(原稿受領 2012.10.26)
検索エンジンが次の数十年で社会にもたらす変革について予想する。情報端末とヒューマンインタフェースの進歩は,検索エンジンの利便性を飛躍的に高め,人間の記憶と意志決定を強力に支援するようになる。検索サービスを利用する契機が拡大することにより,より多くのユーザデータのフィードバックが得られるようになり,検索精度の大幅な向上も期待できる。一方で,情報取得に対する能動的な態度が損なわれ,類型的で偏向した情報にユーザが満足する危険性についても指摘する。
キーワード: 検索エンジン,情報検索,レファレンスサービス,ベクトル空間モデル,社会的ジレンマ,セレンディピティ,潜在意味解析,情報要求
中村 聡史*
*なかむら さとし 京都大学大学院 情報学研究科
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
Tel. 090-8377-8285(原稿受領 2012.11.13)
本稿では,現在のGoogle型のWeb検索サービスを利用して検索することが困難な理由を「検索ユーザとWeb検索サービス間のギャップ」「検索ユーザと情報発信者間のギャップ」「目的とする情報が単一Webページ上に存在しない」という3つの問題で整理する。また,そのそれぞれの問題を解決するために取り組まれている検索意図を考慮したインタラクティブな検索手法や,ソーシャルアノテーションを利用した検索手法,Web上の情報を集約,分析および可視化することによって目的とする情報を作り出す手法などの様々な情報検索支援技術に関する研究について紹介を行う。
キーワード: 情報検索,検索意図,サーチインタラクション,ソーシャルアノテーション,可視化
秋葉 友良*
*あきば ともよし 豊橋技術科学大学
〒441-8580 愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
Tel. 0532-44-6758 (原稿受領 2012.11.05)
情報通信網の発展とデータ記録コストの低減により,テキストデータに加えてマルチメディアコンテンツの増大が加速している。音声ドキュメント検索は,音声データに含まれる言語情報を利用した検索技術であり,今後マルチメディアコンテンツの情報爆発時代に必要不可欠な技術になると考えられる。本稿では,音声ドキュメント検索の諸相について論じる。まず,音声ドキュメント検索の問題設定と,現在技術目標として評価が行われている2つのタスク設定である音声中の検索語検出(STD)と音声ドキュメントの内容検索(SCR)について述べる。また,音声ドキュメント検索に必要な技術課題を整理し,研究動向を紹介する。最後に,音声ドキュメント検索手法の性能評価に不可欠なテストコレクションの整備状況と,現在評価が進行しつつあるNTCIR SpokenDocタスクについて紹介する。
キーワード: 音声ドキュメント,マルチメディアコンテンツ,音声中の検索語検索,内容検索,音声認識,認識語彙外語,認識誤り,索引付け,テストコレクション
風間 一洋*
*かざま かずひろ 和歌山大学システム工学部
〒640-8510 和歌山県和歌山市栄谷930
Tel. 073-457-8077 (原稿受領 2012.10.29)
近年のブログ,Facebook,Twitterなどのソーシャルメディアの普及により,ソーシャルネットワークを介した口コミで情報を収集できるようになった。このようなソーシャルネットワークによる情報収集は,Webサーチエンジンを用いた情報検索と比較すると受動的であるが,情報源や仲介者となる隣接ユーザを適切に選択することで,自分が興味を持つような情報を効率的に入手することができる。本稿では,ソーシャルネットワークにおけるユーザ間の繋がりが,情報探索行動に対して果たす意義と役割,さらにサービスによる違いについて解説する。
キーワード: SNS,ソーシャルメディア,ソーシャルネットワーク,ネットワーク分析,mixi,Twitter,Facebook
戸塚 隆哉*
*とつか たかや ttotsuka9@ybb.ne.jp
(原稿受領 2012.10.29)