Vol. 62(2012), No.10
2011年4月に公文書管理法が施行されてから約1年半たった現在,「アーカイブズの現在」という特集を企画した。
本特集では,公文書館の役割や問題点,対象となる機関の取り組みを概観し,現在の公文書館・アーカイブズの抱える課題について整理し,その重要性について詳論頂き,認識を深めるものとしたいと考え企画した。また,公的機関だけではなく,私企業でもコンプライアンスの観点から公文書が重視されており,いわゆる企業アーカイブの運営が積極的に行われている組織もある。
それを取り上げることで組織の種別を越えてより良い公文書管理やアーカイブズの運営について考えるきっかけとなる特集を目指した。
本特集の総論にあたる古賀氏の論考では,日本のアーカイブズの現状や問題点について論じていただいた。
三輪氏には実際に公文書を利用する立場から,公文書の重要性について論じていただいた。松崎氏からビジネスアーカイブズは「多様な価値を持つ経営資産」であるという観点より企業アーカイブズについて論じていただいた。
高山氏には国立公文書館の現状と今後の課題について論じていただいた。藤田氏には日本のアーカイブズの一つに数えられる国立国会図書館憲政資料室の現在について論じていただいた。また,西川氏より企業アーカイブズの先進的な取り組みとして資生堂企業資料館を取り上げ、ご報告をいただいた。本特集はこのように多面的にアーカイブスを捉える特集となっている。今後のアーカイブズを考える契機になれば幸いである。
最後になるが,本特集の企画を検討するにあたり記録管理学会事務局長,荒俊樹様にご協力をいただいた。記して感謝を申し上げる。
(会誌編集担当委員:小山信弥(主査),中村美里,立石亜紀子,松林正己)
古賀 崇*
*こが たかし 天理大学人間学部総合教育研究センター
〒632-8510 奈良県天理市杣之内町1050
(原稿受領 2012.7.27)
本稿は日本のアーカイブズの現状や,アーカイブズの位置づけを考えるのに有益と思われる点に関し,概観を試みた。主な論点は以下の通りである。(1)日本では公文書管理・公文書館の制度をめぐる課題に直面する一方で,多様な「アーカイブ」に関する取り組みが進みつつあるが,それは「文書主義」「体系性」という「アーカイブズの本質」には必ずしも基づかない場合がある。(2)「組織アーカイブズ」「収集アーカイブズ」の区分と,これらを包括的に捉える枠組みが有益である。(3)政策の検証などに関して「証拠(エビデンス)をもって判断する」という,「実証的な思考法」を実現するための場として,「アーカイブズ」を位置づけることが可能である。
キーワード: アーカイブズ,アーカイブ,文書館,文書主義,組織アーカイブズ,収集アーカイブズ,エビデンス
三輪 宗弘*
*みわ むねひろ 九州大学 記録資料館 産業経済資料部門
〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1
Tel. 092-642-2506(原稿受領 2012.7.30)
本稿では米国国立公文書館を利用する一人として,資料特に真珠湾攻撃直後に押収された日本商社資料の閲覧を通して,企業の日々の活動の資料が徹底的に分析され,日本の空襲ターゲット選定や日本に関する様々な情報収集にまで利用された実態を知ることができた筆者の経験を記述した。これらのことから,米国国立公文書館を利用すると,資料を収集して,分析して活用し,さらにそれを今日まで記録として残し,公開しているという点で,米国の資料管理の素晴らしさを実感できる。日米の資料公開の違いを痛感するのが軍事関係情報の公開の在り方である。シビリアンコントロールの観点からも情報公開の大切さを学ばなければならない。
海外文書館での資料や情報の公開のあり方を学び,優れた制度を取り入れ,根付くように微力を尽くしたい。
キーワード: 米国国立公文書館,司法省戦時経済局,米国戦略爆撃調査団,シビリアンコントロール,アーキビスト,接収商社資料,RG131,RG243,米海軍武官報告,RG38,空襲
松崎 裕子*
*まつざき ゆうこ 公益財団法人渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター
〒114-0024 東京都北区西ヶ原2-16-1
Tel: 03-3910-0029(原稿受領 2012.7.24)
組織アーカイブズとしてのビジネス(企業)アーカイブズは「多様な価値を持つ経営資産」である。現在国内外では,組織内アーカイブズの価値を高め,それを通じた親組織の経営の質の向上に寄与するアーカイブズの活用が進められつつある。一方,記録管理(レコードマネジメント)とアーカイブズを結び付けるレコードキーピングの未確立,組織内アーカイブズへのアクセスに関する相反する考え方の存在,アーカイブズ理念とそれに連動する評価選別に関する考え方の未整理,アーカイブズ担当者(アーキビスト)が業務に精通し付加価値を生み出すための教育研修のあり方,海外現地法人のアーカイブズ管理の困難さ,といった課題が存在している。
キーワード: ビジネスアーカイブズ,企業アーカイブズ,付加価値,アクセス,レコードキーピング,レコードマネジメント,記録管理,アーキビスト,評価選別,社史
高山 正也*
*たかやま まさや 独立行政法人 国立公文書館
〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園3-2
Tel. 03-3214-0621(原稿受領 2012.7.20)
2011年4月1日を期して公文書管理法が施行された。この法律がつくられたのは年金記録や自衛艦航海日誌などの杜撰な扱いが社会の注目を集め,長年にわたり関係者からの公文書管理体制の整備の声を無視し続けた行政当局も何らかの対応の必要性に迫られた結果であった。しかし公文書の管理という事象は日本の行政面を中心とする文化を集約している。一つの法律で長年にわたり培われた文化が変わるものではない。そこで,本稿では日本の公文書管理体制,公文書の実態,公文書による行政情報の管理等の諸問題についてその従来の状況と法律による是正策と現状での業務紹介の一端として東日本大震災における水損公文書の復旧支援活動のあらましを概観する。
キーワード: 国立公文書館,公文書管理法,公文書管理,被災公文書復旧支援,説明責任
藤田 壮介*
*ふじた そうすけ 国立国会図書館利用者サービス部政治史料課
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331(内線:25712)(原稿受領 2012.8.13)
国立国会図書館憲政資料室は,「憲政資料」「日本占領関係資料」「日系移民関係資料」という三つのコレクションを有している。それらの資料の収集を始めた時期,きっかけはそれぞれ異なるが,現在まで継続的に収集・整理を進めてきている。所蔵資料の中身を一括して検索する手段は整っていないが,徐々に目録のweb公開数を増やすなど,憲政資料室外からの検索手段の充実にもつとめている。検索のための目録だけでなく,それぞれの資料群の概要もできる限り公開し,直接当室に来なくとも参考情報を得られるようにもしている。今後は,検索手段のさらなる充実と,資料のデジタル公開が課題となっている。
キーワード: 文書館,資料収集,目録作成,検索手段,デジタル化画像
西川 康男*
*にしかわ やすお ARMA International東京支部,記録管理学会,日本アーカイブズ学会
〒101-0048 東京都千代田区神田司町2-2(ARMA東京支部)
(原稿受領 2012.7.30)
資生堂企業資料館は企業博物館としての新しい方向性を示している。すなわち,従来からの展示中心の一般的企業博物館ではなく,社会に対し,企業文化のあり方を示すと同時に自社の組織内部に対し,企業活動を支援するさまざまな役割を果たしている。収蔵する膨大な企業資料や収蔵物を活用し,商品開発やマーケティング担当など様々な部門に対し,戦略上のヒントを与え,方向性を指し示し,「本物」にこだわる資生堂の企業文化の形成と継承に役立っている。本稿ではこうした資生堂企業資料館の戦略的な企業アーカイブズの姿を紹介する。
キーワード: 資生堂,企業文化,メセナ,企業博物館,経営資産,付加価値
佐川 亜矢子*1, 海附 玄龍*2
*1さがわ あやこ, *2うみつき げんりょう
エルゼビア・ジャパン
〒106-0044 東京都港区東麻布1-9-15 東麻布一丁目ビル4階
Tel. 03-5561-5034(原稿受領 2012.8.22)
Reaxysは,エルゼビア社が提供する世界最大規模の化合物の合成反応および実測物性値のデータベースである。使いやすさとコンテンツの信頼性から,近年では医薬・農薬(創薬・プロセス),ファインケミカル,機能性材料などの化学関連分野にとどまらず,より幅広い研究分野で利用されている。さらに教育機関での導入も進んでいる。本稿では最近のReaxys追加機能のうち,検索機能の拡充,構造式描画機能の拡充,合成計画ツールの機能追加および,ReaxysのプレミアムバージョンReaxys Xcelerateについて紹介する。
キーワード: Reaxys,PubChem,構造類似検索,反応類似検索,合成計画ツール,逆合成,Reaxys Xcelerate,Dotmatics Elemental
時実 象一*
*ときざね そういち 愛知大学文学部(図書館情報学専攻)
〒441-8522 豊橋市町畑町1-1 (原稿受領 2012.8.21)