Vol. 62(2012), No.9
9月1日の防災の日,「災害と情報」特集をお届けします。
災害と一口に言っても多種多様ですが,平成23年3月11日,近年まれにみる規模で発生した東日本大震災では,地震に端を発して,津波による被害,火災,原子力事故など,様々な災害が同時かつ広域的に発生し,情報伝達や情報流通にも多大な影響を及ぼしました。読者の多くが所属する図書館も大きな被害を受けるとともに,災害に対する備えや災害時の対応について再考せざるを得ない状況にあるものと推察されます。
その再考にあたっては,災害時の情報伝達や情報流通について,その特性や特徴を,これまでの学術的研究と今回の東日本大震災の経験,両方の側面から複合的に捉えることが必要と考え,本特集を企画しました。
東日本大震災では,災害時におけるソーシャルメディアなどの新しいメディアの活躍がクローズアップされましたが,後藤嘉宏氏には,こうした情報技術が向上した現在と過去で,災害時の情報伝達がどのように変わったのか,変わっていないのか,多角的に検討していただきました。つづいて,関谷直也氏には,物理的被害は比較的軽微であったものの,心理的影響が大きかった首都圏における調査結果をもとに,震災後の人々の「不安」について論じていただくとともに,結果としての社会心理的混乱の様相を素描することで,現状の課題についてまとめていただきました。一方,木村幹夫氏には,東日本大震災直後の被災地のマスメディアの放送状況に加え,被災地における調査の結果から,ラジオを中心とする既存のマスメディアが,新しいメディアに負けず高く評価されたことをご報告いただきました。最後に,熊谷慎一郎氏には,東日本大震災における宮城県内の公共図書館の被災状況と被災後の情報収集や復旧過程について振り返り,そこから得られた教訓をまとめていただきました。
東日本大震災からの復興はまだまだ途上でありますが,その後も各地で台風や竜巻,豪雨など,大きな被害をもたらす災害が続いています。いずれの論考も,今回の東日本大震災に関連してご執筆いただいたものですが,あらゆる「災害と情報」について考えるにあたり,非常に示唆に富んだ内容となっております。本特集が,情報を司る読者の皆様にとって,あらためて「災害と情報」について見つめ直す機会となり,災害に対して我々ができること,すべきことを検討する参考となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:權田真幸(主査),中村美里,森嶋桃子,高久雅生,池嶋千夏)
後藤 嘉宏*
*ごとう よしひろ 筑波大学図書館情報メディア系
〒305-0556 茨城県つくば市春日1-2
Tel. 029-859-1322(原稿受領 2012.6.29)
東日本大震災はソーシャルメディア等新しいメディアの活躍の目立った災害であるとされる。他方,正常化の偏見仮説やオルポート&ポストマンの流言の公式等,災害情報学の従来の知見が当て嵌まる事例が多かったが,そのことへの新聞等での言及は少ない。これは新しいメディアに注目が集まったためであろう。その点から考えると,情報技術の進展が人々の意識や行動を変えるわけではないといえる。
他方,インターネット革命が,相互監視的な情報環境に身を晒すことに馴れさせる等,我々の意識を根底から変える可能性そのものは否定できない。これは個人の自律性の確保の面で問題はあるが,防災の面からいうとメリットも大きい。
今回の震災はソーシャルメディアと既存メディアの連携が注目された災害といわれるが,非常時と平時とをいかに分けるか,さらに連携のなかでどう棲み分けていくかという課題が前面に出た災害であるといえよう。
キーワード: 東日本大震災,オルポート&ポストマン,正常化の偏見,ソーシャルメディア,ツイッター,パノプティコン,相互監視,双方向性,マスメディアとソーシャルメディアの連携
関谷 直也*
*せきや なおや 東洋大学社会学部
〒112-8606 東京都文京区白山5-28-20
Tel. 03-3945-7454(原稿受領 2012.7.26)
東日本大震災において,人々は物理的な被害を受けていなくとも,直接的な地震・余震,津波の映像の視聴,放射性物質の飛散に関する情報などを原因として不安を強く感じた。また被災者への支援について不安を感じ,そのような状況にも関わらず情報が手に入らないことに不安を感じた。
そしてそれらの不安を解消するために,情報を過剰に発信・受信しようとしたり,支援・団結を求めたり,他者への攻撃へと転嫁したりした。ある程度,時間が経過してからはさまざまな活動を自粛し,時間が経つにつれ,不安や震災について考えることなどは忘却され,平時の心理に戻っていった。
キーワード: 社会的混乱,不安,流言,ソーシャルメディア,買いだめ・買い占め,クレーム,ヤシマ作戦
木村 幹夫*
*きむら みきお 一般社団法人日本民間放送連盟 研究所
〒102-8577 東京都千代田区紀尾井町3-23
Tel. 03-5213-7727(原稿受領 2012.7.12)
東日本大震災時にメディアが果たした役割を実証的に検証した。被災3県の地上波テレビ,ラジオは,津波からの避難時には放送の停波がほとんどなく,大津波警報や余震情報をリアルタイムで放送した。震災当日から特番編成を立ち上げ,以後CMなしの24時間放送を数日間継続し,被災状況に加え,ライフライン情報,生活関連情報,安否情報,避難所情報などを放送した。また,被災地では津波からの避難時および直後の時期にラジオを筆頭にマスメディアが大きな存在感を示した。東京など周辺地域ではSNSやストリーミング・サイトなどネット系メディアの役割も注目されたが,被災3県についてはマスメディアの貢献度,評価は,ラジオを筆頭にネット系メディアのそれをはるかに上回っていたことが実証された。
キーワード: 東日本大震災,被災地,避難,マスメディア,ラジオ,テレビ,ネット系メディア,SNS
熊谷 慎一郎*
*くまがい しんいちろう 宮城県図書館
〒981-3205 宮城県仙台市泉区紫山1-1-1
Tel. 022-377-8441(代表)(原稿受領 2012.7.9)
東日本大震災から1年余りが経過した。本稿では,まず,宮城県内の公共図書館を中心に被災状況について,地震とそれに伴う津波による図書館の被災状況を概観する。そして,地震発生直後の行動について,県内の公共図書館等の情報収集行動と図書館情報システムに係る行動の大きく二つの行動を振り返る。宮城県図書館が行った県内公共図書館の被災状況の情報収集には,普段公共図書館等とのコミュニケーションの場として利用しているグループウェアの活用があったことを指摘する。また,図書館情報システムの復旧過程における行動を宮城県情報システムに係る業務継続計画(i-BCP)に沿って振り返る。これら大きく二つの行動は,ICT(情報通信技術)が図書館活動になくてはならないことを確認し,ICTを活用した情報支援の取り組みと今後の災害に備えるための検討を行う。
キーワード: 東日本大震災,県立図書館の役割,図書館活動とICT,図書館協力,図書館ネットワーク
臼井 裕一*
*うすい ゆういち (社)情報科学技術協会 理事
(原稿受領 2012.6.25)
ベトナム特許庁の検索システムIP-Libの特許検索について簡単に紹介する。ベトナム特許の調査については,商用データベースを使用しても充分な調査ができない。IP-Libを利用しての検索は,キーワードとしてベトナム語しか使えないため書誌的事項を中心とした検索とならざるを得ない。また検索結果もベトナム語表示となるため,どうしても敷居が高く感じられるだろう。そのため,本稿では簡易的な翻訳の方法やオフィシャルガゼットの入手方法,統計資料の入手方法についても解説した。
キーワード: ベトナム特許庁,IP-Lib,特許検索,法的状況,オフィシャルガゼット,翻訳,統計資料