Vol. 62(2012), No.7
本特集ではナレッジマネジメントに焦点をあてる。弊誌では1999年9月号においてナレッジマネジメントの特集を組んだ。以降,Webを取り巻く環境は急速に変化を遂げている。ブロードバンドが主流となり,Webのアクセスが非常に簡便となった。携帯電話やスマートフォンなど各種デバイスの誕生によりどこでもWebを利用できるようになり,クラウドやビッグデータの活用によりインフラ面の管理が軽減された。そしてmixiやFacebookを代表とするソーシャルメディアの普及によりWeb上でのコミュニケーション手段も多様になっている。
Webを取り巻く環境の変化においてナレッジマネジメントの実現はどのような変化が起きているのだろうか。本特集では,ナレッジマネジメントの普及を振り返りつつ,高度化するWeb技術やツールを活用することで,効果的なナレッジマネジメントの実現をいかに導くことができるか考察していきたい。
総論として北陸先端科学技術大学院大学の梅本勝博先生にナレッジマネジメントの一般的動向と情報技術,ウェブの役割について論じていただいた。
関西電力の池田利夫氏には,エンタープライズサーチのツール導入における事例報告とともに,導入に関する評価手法や投資効率の観点を中心に論じていただいた。
国立国会図書館の兼松芳之氏には,この10年前後のナレッジマネジメントと図書館の動きを振り返り,国立国会図書館のナレッジ公開について具体的なレファレンスサービス関連情報に触れつつ,図書館のナレッジマネジメントについて論じていただいた。
株式会社ガイアックス佐別当隆志氏ならびに小谷美佳氏には,社内コミュニケーションツールとして複数の具体事例に触れつつソーシャルメディアの活用方法を論じていただいた。
そして,岡山大学の犬塚篤先生には,知識と情報の違いについて再検討いただきナレッジマネジメントの実現について理解を深めつつ,ビッグデータ活用の観点からWeb技術をナレッジマネジメントに活かす方法について論じていただいた。
ナレッジマネジメントを実現する補助的なツールとしてWebの活用は欠かせないものとなっている。しかし,あくまで補助的なツールということを忘れてはならないと思う。本特集を通してナレッジマネジメント実現の意義を再確認しつつ,Webを活用することで発展的なナレッジマネジメント実現の一助となれば幸いである。
(会誌編集担当委員:松下豊(主査),松林正己,高久雅生,野田英明)
梅本 勝博*
*うめもと かつひろ 北陸先端科学技術大学院大学・知識科学研究科
〒923-1292 石川県能美市旭台1-1
Tel. 0761-51-1711(原稿受領 2012.5.28)
21世紀知識社会の経営パラダイムとしてのナレッジマネジメントは,二人の日本人研究者が英語で書いて1995年に出版したThe Knowledge-Creating Companyというベストセラーをきっかけに始まったとされ,それ以降,ビジネス企業のみならず,行政や教育,医療などの非営利公共セクターにも拡がってきた。その普及の大きな推進力となったのが,グループウェアやイントラネット,データベース技術,テレビ会議システム,インターネット,ウェブ技術などの情報通信技術である。本論文では,特集テーマの総論として,ナレッジマネジメントの最近の理解と動向,ウェブの役割について論じる。
キーワード: ナレッジマネジメント,ウェブ,知,情報,知識,知識創造,パーソナル・ナレッジマネジメント,ソーシャル・ナレッジマネジメント
池田 利夫*
*いけだ としお 関西電力(株)
〒661-0974 尼崎市若王寺3丁目11番20号
Tel. 070-6508-0864 (原稿受領 2012.4.10)
近年,企業内の情報化の進展に伴い,エンタープライズサーチと言われる企業内検索システムの導入が進んでいる。このエンタープライズサーチを導入する上で,さまざまな観点から評価を実施しなければならない。
特に大企業においては,大量の文書が保管されており,検索精度や検索レスポンスなどに与える影響は大きいと考えられ,適切な評価手法が求められる。さらに投資効率と言った企業戦略の面からの評価も必要となってくる。多くの社員が検索に頼るようになり,業務において必須のツールとなった現在,検索における投資効率の検討は重要となってくる。
今回,これらについて,実際に関西電力で実施したエンタープライズサーチ導入事例を交えて報告を行なう。
キーワード: エンタープライズサーチ,ナレッジマネジメント,検索精度,検索レスポンス,投資効率
兼松 芳之*
*かねまつ よしゆき 国立国会図書館 関西館 図書館協力課
〒619-0238 京都府相楽郡精華町精華台8丁目1-3
Tel. 03-3581-2331(原稿受領 2012.5.17)
情報が集まる図書館は,資料管理等の面で自然と情報の管理を行ってきた。一方,情報サービスの面では情報および知識の管理はこれからという状況である。そこで,この10年前後におけるナレッジマネジメントと図書館の動きを振り返ると共に,図書館の情報サービスにおけるナレッジマネジメントの一例として,国立国会図書館のレファレンスサービスにおけるナレッジマネジメントとツールを紹介する。
具体的には,国立国会図書館の近年のレファレンスサービスに関連する知識のマネジメントについて,共同化,表出化,連結化,内面化の4ステップと照らし合わせながら,インフォメーションカード,FAQ機能,REX,リサーチ・ナビ,レファレンス受理処理,レファレンス協同データベースというツールを提示したい。
キーワード: ナレッジマネジメント,知識創造,レファレンスサービス,情報サービス,リサーチ・ナビ,レファレンス協同データベース,国立国会図書館
佐別当 隆志*1, 小谷 美佳*2
*1さべっとう たかし, *2こたに みか
(株)ガイアックス コーポレートコミュニケーション推進部
〒141-0031 東京都品川区西五反田1-21-8 KSS五反田ビル7F・8F
Tel. 03-5759-0332 (原稿受領 2012.5.2)
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下,SNS)をナレッジマネジメントに活用しようという動きは,今に始まったことではない。mixiやGREEが流行した6年前,企業においても,その仕組みを社内へ持ち込もうと多くの企業が社内SNSを導入した。しかし,多くの企業が失敗に終わっている。どうすればを社内SNSをナレッジマネジメントに活用し,成果を残すことができるのか,事例を交えながら選定のポイントや活用方法をご紹介したい。またこれからの社内向けナレッジマネジメントのツールであるESNの可能性についても触れていく。
キーワード: SNS,ガイアックス,エンタープライズソーシャルネットワーク,企業事例,コミュニケーション
犬塚 篤*
*いぬづか あつし 岡山大学大学院 社会文化科学研究科
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1
Tel. 086-251-7556(原稿受領 2012.4.23)
今こそ,知識と情報の違いを再検討すべき時である。知識貯蔵庫を作って知識共有を図ろうとした多くの試みの失敗は,この違いを正しく認識しようとしなかったことに起因する。一方で,ビッグデータは,効果的な知識共有を行う環境作りに貢献する可能性を高めつつあるように思える。本小論では,知識を蓄積するという発想ではなく,個人空間をいかに再現するかといった観点からビッグデータを利用し,得られた知識をビジネスの場に活かしていく方法論について,検討を重ねる。
キーワード: 知識共有,知識貯蔵庫,ビッグデータ,メディアリッチネス,個人空間,学習する組織
芳賀 恵*
*はが めぐみ 旭化成(株)
〒101-0051 千代田区神田神保町1-105
Tel.03-3296-3058 (原稿受領 2012.4.18)
本稿では,サウジアラビア特許庁Webサイトの特許検索データベースについて,検索項目や検索方法を簡単に紹介する。サウジアラビア特許データベースのインターフェースはアラビア語と英語があるため,アラビア語がわからない場合でも検索可能である。検索結果は書誌情報と簡単なステータス情報が英語で得られるが,英語の抄録は収録されていないなど得られる情報はかなり限られている点に注意が必要である。その他はアラビア語のガゼット(書誌事項と抄録)が発行日毎に閲覧のみ可能である。
キーワード: サウジアラビア特許,KACST,特許検索,データベース,検索項目,ガゼット