Vol. 62(2012), No.4
特許情報の調査と聞くと,なんとなく難しい,敷居が高いと思われる方がおられるのではないでしょうか。しかし,企業活動において知的財産権は重要な経営資源であり,事業戦略,研究開発戦略,知財戦略が三位一体に構築される際に,特許情報は重要な位置を占めるということが広く言われています。従って,この特許情報を適宜収集し解析できる人材は企業にとって必須であるといって差し支えないでしょう。そしてこのような特許情報を具体的に扱い,新たな情報を創造する担い手は,従来は調査を専門に行う専任者でした。しかしながら,安価な特許情報データベースが供給されるようになり,自分の席で誰でもが容易にこのようなデータベースにアクセスできるような環境が整ってきたことによって,特許情報を扱う担い手は,研究・開発者や技術者等のエンドユーザーにまで広がってきています。もちろん専任者とエンドユーザーによる調査はある程度棲み分けがあるものと思われます。このような担い手の変化とこれに対してどのように対応していくのかといった点にも,おおいに興味があるところです。しかしながら,いずれにしても,このようなエンドユーザーを含めた特許情報を扱う人材の育成は,今や最重要課題といっても過言ではないでしょう。
そこで,本特集では特許情報を扱う人材の育成に焦点を当てて特許情報を扱う人材への教育について,各企業ではどのように考えてどのように実施しているのか,また特許情報調査のプロとしてどのように考えて自己のスキルを高めていくかについても論じていただきました。
臼井氏からは,全般的に特許情報調査を担う人材とその教育について論じていただき,昭和電工の武田氏,高氏,それから住友電工知財テクノセンターの佐藤氏,キャノン技術情報サービスの竹原氏からは,それぞれの企業内における特許情報教育についてご報告いただきました。昭和電工では,知的財産室の情報グループと図書・情報グループとが協力してエンドユーザーへの教育を行っており,研修を通じて「知財マインド」の向上を目指しておられます。住友電工知財テクノセンターでは,分社が本体のエンドユーザー教育に携わっており,キャノン技術情報サービスでは,特許調査担当者への教育ということで,それぞれスタンスは異なりますが,試行錯誤で教育に取り組んでいる様子がよく見て取れます。またオーチャード・オフィスの長澤氏からは,ご自身のご経験を踏まえて,調査担当者として自己研鑽のモチベーションをいかに高めるかについてご報告いただきました。本特集が皆様方の特許情報への取り組み方に対してなんらかのご参考になれば幸いです。
なお本特集は,情報科学技術協会パテントドキュメンテーション委員会と会誌編集委員会とのコラボレーション事業として企画いたしましたことを最後に付け加えておきます。
(会誌編集担当:パテントドキュメンテーション委員会(主査),野田英明,松下豊)
臼井 裕一*
*うすい ゆういち (社)情報科学技術協会 理事
〒236-0005 横浜市金沢区並木1-14-18-101
Tel. 045-771-2352(原稿受領 2012.2.1)
特許調査の重要性がいわれて久しい。また安価なデータベースが普及してエンドユーザーによる調査の環境が整い,特許調査の一部をそれらエンドユーザーに委ねるケースも増えてきている。その一方で特許調査専任者の重要性も増してきている。これら特許調査を担う人材への特許情報教育の重要性はいうまでもあるまい。ここでは特許調査の担い手に必要なスキルやそのレベルを考慮し,調査の担い手への教育はいかにあるべきかについて述べる。また教育カリキュラムの作成の方法についても示唆した
キーワード: 特許調査,特許調査専任者,エンドユーザー,エンドユーザーサーチ,調査スキル,技術スキル,知財スキル,知財人材スキル標準,特許情報教育
竹原 信善*
*たけはら のぶよし キヤノン技術情報サービス(株)
〒146-8501 東京都大田区下丸子3-30-2
Tel. 03-3757-9286(原稿受領 2012.1.20)
特許の調査について,キヤノン技術情報サービス(株)内で実施されている教育課程について紹介する。
当社の教育課程は,入社時に実質2週間かけて実施される「導入教育」,その後半年程度の「OJT」,入社半年後に1日かけて実施される「フォローアップ教育」の3段階から構成されている。導入教育で教えられたことをOJTの中で実感し,問題意識を持たせ,フォローアップではそれらを解決するための具体的な方法論と詳細な検索技術教育を実施していく。また,フォローアップ研修後に小集団活動として,互いの事例を持ち寄り,検索式の改良について議論する場を設け,他人の検索式を研究し,検索技術を向上させる機会を与えている。
キーワード: 特許,調査,教育,導入,OJT,フォロー,段階,研修
佐藤 久雄*
*さとう ひさお 住友電工知財テクノセンター(株)横浜技術センター
〒244-8588 神奈川県横浜市栄区田谷町1
Tel. 045-853-7160(原稿受領 2012.2.10)
エンドユーザ向け特許検索システムが普及してきているが,日々開発業務に追われるエンドユーザが単独で使いこなすのはそう簡単なものではない。そのため検索システムを有効活用するにはサーチャーとの協業が不可欠であると考えられる。そこで,住友電工知財テクノセンター(株)では,専門知識を有するエンドユーザと検索テクニックを有するサーチャーの融合を実現させるべく,まず,協業しやすい検索システムを種々検討の上導入した。次に,導入システムにて共同でテーマごとにデータベースの構築に努め,共有機能を十分活用して関係者間での特許情報共有を推進し,維持,活用していくことで,協業体制を構築し,知財活動の活性化を推進した。このようなデータベース構築を横展開,普及していくことをエンドユーザ教育と位置づけている。
キーワード: 特許情報,エンドユーザー,特許検索システム,エンドユーザ教育,データベース,特許情報リテラシー
武田 領子*1, 高 仁子*2
*1たけだ えりこ 昭和電工(株) 研究開発本部 知的財産室 情報グループ
〒105-8518 東京都港区芝大門1-13-9
Tel. 03-5470-3427
*2たかし ひろこ 昭和電工(株) 研究開発本部 研究開発センター 図書・情報グループ 同 知的財産室 情報グループ
〒267-0056 千葉県千葉市緑区大野台1-1-1
Tel. 043-226-5229
(原稿受領 2012.1.27)
昭和電工(株)では,開発ステージ前期の先行技術・技術動向調査を技術者自身が行えるようになることを目的とし,情報調査教育の充実に取り組んでいる。研修ワーキンググループによる知財知識教育と情報調査教育の融合と,特許と非特許文献情報の相互補完教育により,従来は情報調査ツールの操作方法が中心となる傾向にあった情報調査教育から,技術者自身が入手した情報を評価・解析し,活用していくための教育内容に向けて拡充しつつある。知財戦略推進のために情報を活用できるような技術者への育成と,知財マインドの一層の向上を図ることが今後の課題として見えてきている。
キーワード: エンドユーザー教育,先行技術調査,技術動向調査,技術者,知財知識教育,情報調査教育,特許情報,非特許文献情報,知財戦略
長澤 洋*
*ながさわ ひろし (株)オーチャード・オフィス
〒136-0071 東京都江東区亀戸6-35-10 コスモプレイス亀戸901号室
(原稿受領 2012.1.30)
調査担当者は調査を行う対象である情報に関連してさまざまな知識を習得し,また検索のスキルを磨かねばならない。しかし,これを単に自分自身のためとだけ考えてしまうと,つい後回しになりがちで効率も良くないのではないか。目の前にいる調査を依頼してくれるお客さんに感謝されるためにがんばる,と考えたらどうだろうか。本稿では自己研鑽にあたりどのようなところに自己研鑽のモチベーションを求めていくか,またどのような場でさまざまな研鑽を積むことができ,また強いモチベーションを得ることができるのか。自分の経験を踏まえながら紹介したい。
キーワード: 研鑽,調査担当,特許情報,コミュニケーション,OUG特許分科会,EPI協議会,モチベーション
井上 直子*
*いのうえ なおこ 田辺三菱製薬(株)
〒103-8405 東京都中央区日本橋本町2-2-6
Tel.03-3241-4738(原稿受領 2012.2.16)
最近では,各国特許庁のWebサイトから特許情報を入手する機会が増えている。しかし,中東諸国においては,言語の問題もあって,十分な情報が得られないことがある。イスラエル特許庁は,英語とヘブライ語の両方の特許データベースを提供している。本稿では,イスラエル特許庁の特許検索データベースの概要について紹介する。残念ながら,フルテキストデータでの検索はできないが,出願人,発明の名称,国際特許分類,ステータスでの検索が可能である。さらに,明細書を表示やダウンロードしたり,詳細なステータスを表示することもできるようになっている。
キーワード: イスラエル特許庁,ウェブサイト,特許情報,データベース,検索,権利状況,ステータス