Vol. 61 (2011), No.12
近年,学生におけるレポート作成スキル,若手社員の研究スキル低下などがフォーカスされている。事実,インターネット上の情報を自身のレポートに無断引用するなどの事件もよく耳にする。一方で,デジタルメディアとインターネットに精通し,新しいコミュニケーションスタイルを身に付けた若者が次々と生まれている。
このような背景の中,ライブラリーは利用者環境の変化に適応したサポートが求められている。物理的に蔵書を蓄積・提供するという役目だけでなく,ライティングやプレゼンテーションなどをライブラリ・スタッフが指導するような学習支援としてのあり方について注目し「ラーニングコモンズと利用者サポート」について特集した。
本特集では,多くの実例をまじえて日本の大学・機関におけるラーニングコモンズや利用者サポートを中心に論じていただいた。
今号の総論に位置づけられる東京大学大学院の山内祐平氏には日本型ラーニングコモンズと学習支援について論じていただいた。日米の大学における学習支援の位置づけの違いを明らかにし,その差が日本においてラーニングコモンズの展開にどのような影響を与えているかについて考察いただいている。
大学図書館の具体的な実例として,国際基督教大学図書館の畠山珠美氏よりラーニングコモンズの機能の1つとしてライティング・センターの構想から実現について解説いただいた。また,お茶の水女子大学図書館の廣田未来氏より学生と図書館職員の協働プログラム「LiSA」について解説いただいた。
公共図書館の具体的な実例として,都立中央図書館の青野正太氏,余野桃子氏より利用者サポートの実践についてインターネット検索講習会やEメールを活用したレファレンス事例等について解説いただいた。
大学図書館とデータベース提供元企業の取り組みとして,トムソン・ロイターの矢田俊文氏,広島大学図書館の庄ゆかり氏,九州大学図書館の野原ゆかり氏よりデジタルネイティブ世代の利用者サポートについてウェビナーを使った講習会の実例を解説いただいた。
Web2.0と呼ばれた時代からWeb3.0に,ブロードバンドネットワークやクラウドサービスの普及など急速に利用者環境は発展し,利用者のニーズやスキルも多種多様となりつつある。いかにライブラリーやスタッフの方々が利用者に対し適材適所に情報を提供できるか,本特集号が今後の参考となれば幸いである。
(会誌編集担当委員:松下豊(主査),小山信弥,立石亜紀子,森嶋桃子)
山内 祐平*
*やまうち ゆうへい 東京大学大学院情報学環
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-0321(原稿受領 2011.10.3)
本稿では,米国の大学図書館における学習支援の系譜と大学の学習支援組織をレビューした上で,日米の大学における学習支援の位置づけの違いを明らかにし,その差がラーニングコモンズの展開に与えている影響について考察を行う。結果として,大学進学率と中退率の差,大学に設置されている学習支援組織の差,学習支援組織を支える仕組みの差,インフォメーションコモンズの不在という4つの相違点が明らかになり,相違を前提とした日本型ラーニングコモンズの学習支援について提案する。
キーワード: ラーニングコモンズ,学習支援,情報リテラシー,インフォメーションコモンズ,ラーニングセンター,チュータリング
畠山 珠美*
*はたけやま たまみ 国際基督教大学図書館
〒181-8585 東京都三鷹市大沢3-10-2
Tel. 0422-33-3301 (原稿受領 2011.9.5)
国際基督教大学図書館では,ラーニングコモンズにおける新しいサービスとしてライティングサポートデスクをスタートさせた。ライティングサポートデスクはライティング・センターのパイロット版という位置づけで,学生のニーズの把握,運営方法とチューターの研修制度の確立を目的としている。開設してまだ日は浅いが,利用は少しずつ高まっており,利用者の満足度も大変高い。将来的には,ライティング・センターをラーニングコモンズの機能の1つとして定着させ,大学の情報基盤というだけでなく,教育支援機関として活動していくことが図書館の発展につながっていくと考える。
キーワード: 国際基督教大学,図書館,ラーニングコモンズ,ライティングセンター,ライティングサポートデスク
廣田 未来*
*ひろた みき 国立大学法人お茶の水女子大学図書・情報チーム
〒112-8610 東京都文京区大塚2-1-1
Tel. 03-5978-5834(原稿受領 2011.10.7)
お茶の水女子大学附属図書館では,2007年から「ラーニング・コモンズ」「キャリアカフェ」といった学生のための学習空間の創出に取り組んできた。全学的な教育改革の動きに連動したこの取り組みにより,学生支援のための学内の各部署の連携が促進されている。また,学生と図書館職員の協働「LiSA(リサ):Library Student Assistantプログラム」を通して,学生の「学習支援」「キャリア形成支援」にも取り組んでいる。小規模図書館であるお茶の水女子大学図書館が学内の他の部署との連携や学生との協働によって,どのように学習空間と学生支援の充実に取り組んできたかを報告する。
キーワード: ラーニング・コモンズ,キャリアカフェ,学習・教育支援,学生支援,学生協働,Library Student Assistant(LiSA),お茶の水女子大学附属図書館,学内連携ラーニング・コモンズ,キャリアカフェ,学習・教育支援,学生支援,学生協働,Library Student Assistant(LiSA),お茶の水女子大学附属図書館,学内連携
青野 正太,余野 桃子*
*あおの しょうた,よの ももこ 東京都立中央図書館 サービス部 情報サービス課
〒106-8575 東京都港区南麻布5-7-13
Tel. 03-3442-8451(原稿受領 2011.9.22)
都立中央図書館で行っている,オンラインデータベースやインターネットを活用した利用者へのサポート事業として,1)オンラインデータベースの提供と検索講習会による利用者サービス,2)Eメールを活用したレファレンス事例,3)都・区市町村立図書館間協力レファレンス担当者会およびその担当者会でのアンケート集計結果である「都内公立図書館インターネット等サービス状況」を紹介する。さらに,「都内公立図書館インターネット等サービス状況」については,各自治体の導入するオンラインデータベースを中心に現状分析を行う。
キーワード: 公立図書館,オンラインデータベース,情報リテラシー,Eメールレファレンス,協力レファレンスサービス
矢田 俊文*1, 庄 ゆかり*2, 野原 ゆかり*3
*1やた としふみ トムソン・ロイター カスタマートレーニング
〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1パレスサイドビル5F
Tel. 03-5218-6539
*2しょう ゆかり 広島大学 図書学術情報普及グループ
〒739-8512 広島県東広島市鏡山1-2-2
Tel. 082-424-5631
*3のはら ゆかり 九州大学 eリソースサービス室
〒812-8581 福岡県福岡市東区箱崎6-10-1
Tel. 092-642-2342(原稿受領 2011.9.26)
デジタルネイティブ世代が増加している現在,外国語文献データベースと文献管理ソフトについて,伝統的訪問講習会への参加者は減少傾向にある。しかし,講習会参加者に対するアンケート結果には,依然として講習会が有意義であることが示されている。ウェブで開催するセミナーであるウェビナーを使って,大学に潜在的に存在する多くの利用者が参加できる新しい講習会のスタイルとして,広島大学の「図書館を活用した音声対話式ウェビナーの事例」と九州大学の「分野ごとに的を絞った内容をシリーズで提供した事例」を報告する。
キーワード: 利用者教育,図書館講習会,インターネット講習会,ウェビナー,外国文献データベース,文献管理ソフト,Web of Science,Web of Knowledge,EndNote Web,CISCO WebEx
井上 直子*
*いのうえ なおこ 田辺三菱製薬(株)
〒103-8405 東京都中央区日本橋本町2-2-6
Tel. 03-3241-4738(原稿受領 2011.10.3)
本稿では,トルコ特許庁の特許検索データベースの概要について紹介する。トルコ特許庁Webサイトには,2つの特許検索データベースがある。片方はキーワード,出願人,IPC(国際特許分類)などから特許を検索するための“SEARCH”データベースで,もう1つは,番号から特許状況を確認するための“FILE TRACKING”データベースである。どちらのデータベースも,データは全てトルコ語で入力されているが,ユーザーインターフェース言語をトルコ語と英語から選択することができる。英語のインターフェースが使えるので便利である。
キーワード: トルコ特許庁,ウェブサイト,データベース,特許検索,特許状況
畑林 一太郎*1, 新井 紀子*2
*1はたばやし いちたろう 富士通(株)
〒261-0023 千葉市美浜区中瀬1-9-3 幕張システムラボラトリ
Tel. 043-299-3049
*2あらい のりこ 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2551 (原稿受領 2011.9.1)
学校教育法施行規則等の省令改正を背景に,研究機関毎での研究者総覧構築のニーズが高まっている。研究者向けサイエンス基盤サービスResearchmapには,外部システムに対してデータ提供する機能が用意されている。この機能を利用することで,各研究機関は機関毎の研究者総覧を低コストかつ,短期間で公開することが可能になった。また,研究者は自身の研究活動における情報を高品質でかつ,長期間にわたって安定的に公開することが可能になった。本論文では,同機能を使った研究機関の研究者総覧をクラウド上に構築した際のメリットを提示する。
キーワード: ResearchMap,研究者,API,業績管理,READ,クラウド