「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 61 (2011), No.11

特集=「典拠・識別子の可能性:ウェブ・オントロジーとの関わりの中で」

特集 : 「典拠・識別子の可能性:ウェブ・オントロジーとの関わりの中で」の編集にあたって

 今号は「典拠」と「識別子」をテーマとした特集です。図書館をはじめとする,情報を扱う機関では,以前から情報の同定や識別,検索精度の向上等を目的に何らかの典拠や識別子を維持管理・活用してきました。典拠や識別子はこれまで一定の役割を果たしてきたものの,維持管理コストの高さが課題として指摘され,検索エンジンの普及も相まって,その役割やあり方が問われているところです。
 その一方,近頃ウェブとの関わりの中で典拠や識別子が注目を集めつつあります。ウェブ上で情報爆発が起きる中で,情報の確実な同定や識別,情報の関係性を利用した検索精度の向上等に典拠や識別子が活用できるのではないかと,現在さまざまな模索が行われています。その一つとして,データを共通の枠組みで公開し,それらを関係性に基づいてリンクさせることでデータのウェブを構築しようとするLinked Dataという取り組みが国際的に行われています。図書館界でも,米国議会図書館(LC)や国立国会図書館等各国の国立図書館が,人名典拠データや件名典拠データをLinked Dataに適した形式で公開を始めています。学術情報の世界でも,Linked Dataの流れの中で「その人物が同一人物なのか別の人物なのか」を,人物に識別子を付与して確実に識別できるよう,取り組みが行われています。
 そこで本特集では,「典拠」と「識別子」について,主にウェブへの活用可能性という観点から,現状と今後の展望等について解説をいただきました。
 帝塚山学院大学の渡邊隆弘氏からは,主に図書館の観点から,典拠の位置づけや典拠に関する最新の動向,セマンティックウェブにおいて重視されているオントロジーと典拠の関係性等について論じていただきました。
 国立情報学研究所の武田英明氏からは,一方でウェブの観点から論じていただきました。ウェブにおける情報の識別や構造化について,個別の情報の識別に用いる識別子と,キーワードや統制語彙のような,個別の情報をまとめ上げたうえで情報のまとまりや構造を記述するために用いる「概念システム」について,現状や課題等について解説をいただきました。
 一方,国立情報学研究所の蔵川圭氏からは,人名情報に焦点を当て,現在ウェブ上に公開されている著者データベースや識別子を概観・整理したうえで,人名識別子のリンケージに関する取り組み等について論じていただきました。
 ゼノン・リミテッド・パートナーズの神崎正英氏,国立国会図書館の佐藤良氏からは,「典拠」と「識別子」に関する具体的な取り組みとして,2011年7月に公開された「国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities)開発版」について,そのサービスの概要やシステムの構造,データモデル等について解説をいただきました。
 具体的な取り組みのもう一つの事例として,国文学研究資料館の相田満氏からは,古典籍における分類・主題検索について,これまでの歴史や現状と,オントロジーとの関わりといった今後の展開について解説をいただきました。
 図書館をはじめとする,情報を扱う機関が長年維持管理をしてきた典拠や分類,統制語彙,識別子といった情報は,今後はオープンなウェブという環境の上で,重要な役割を果たしていく可能性があります。本特集号が,典拠や識別子の重要性の再認識や,今後の情報サービスの検討の一助となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:白石啓(主査),齊藤泰雄,高久雅生,權田真幸)

典拠コントロールとオントロジー:
豊かな情報アクセスのための基盤

渡邊 隆弘
わたなべ たかひろ 帝塚山学院大学人間科学部
〒590-0113 堺市南区晴美台4-2-2 帝塚山学院大学
Tel.072-296-1331(代)(原稿受領 2011.9.5)

 図書館目録の集中機能を保障する典拠コントロールは,書誌コントロールの枠組みの見直しをはかる近年の議論の中でも,今後維持・強化していくべき機能としてとらえられている。また,次世代のウェブとして研究開発が続く「セマンティックウェブ」において,意味情報の共有を実現する「オントロジー」が重要な要素技術となっており,これには目録における典拠コントロールと相通じるところがある。本稿では,典拠コントロールの今日的位置づけ,名称典拠,主題典拠(および統制語彙)それぞれの最近の動向について整理するとともに,オントロジーについて典拠コントロールとの関わりも含めて述べる。

キーワード: 典拠コントロール,名称典拠,主題典拠,統制語彙,オントロジー,セマンティックウェブ,Linked Open Data

Web時代の識別子と典拠を考える

武田 英明
たけだ ひであき 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2543 (原稿受領 2011.9.5)

 インターネット時代において情報の同定のために識別子や典拠といったメタデータが重要になっている。本稿ではWebにおける情報の識別,構造化という問題を概観する。まず情報の識別にはWebで利用できる識別子が必要である。Webでの識別子はURIを持ち,関連情報を提供する仕組みが必要である。既存の識別子ではISBNはWeb上の識別子にならないが,DOIは該当する。情報の構造化には,キーワード・用語,統制語彙・典拠,タキソノミー,シソーラス,オントロジーと構造化の程度の違う仕組み(概念のシステム)が現在用いられている。統制語彙・典拠のレベルでは図書館からの件名標目や典拠の公開が盛んになっている。タキソノミーの例としては生物分類を挙げ,Webに適応する部分としない部分があることを指摘した。オントロジーとしては汎用な上位オントロジーや分子生物学で用いられるGene Ontologyなどを挙げた。全体的にはより構造化を強める方法へ進んでいる。今後は,識別子も概念のシステムもよりいっそう進み,競争が激しくなるであろう。

キーワード: Web,識別子,Linked Data,LOD,統制語彙,典拠,タキソノミー,シソーラス,オントロジー

Web上に公開される著者のデータベースと識別子

蔵川 圭
くらかわ けい 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2372(原稿受領 2011.8.31)

 様々な学術情報がWeb上に展開されるようになって以来,著者に対する典拠の重要性は,昨今増しているように思われる。少なくとも著者や機関の識別子が重要視され,様々なデータベースを背景としたそれら識別子がWeb上に展開されるようになってきている。本稿では,こういった著者のデータベースと識別子に焦点を当て,どのようなデータベースと識別子がWeb上に公開されているのかを整理して概観する。まず,著者データベースの類型について述べる。そして,それらのデータベースからWeb上に著者識別子が公開され,Web上の著者識別子のリンケージをとり,コミュニティ形成によってリンケージ精度を向上していく展開となることを述べる。さらに,様々な人名検索サービスを眺めながら,著者データベースの位置づけを明確化する。最後に学術情報基盤としての重要性を指摘する。

キーワード: 著者データベース,著者識別子,名称典拠,研究者ディレクトリ,Web,リンケージ

国立国会図書館の典拠データ提供におけるセマンティックウェブ対応について

神崎 正英*1, 佐藤 良*2
*1かんざき まさひで ゼノン・リミテッド・パートナーズ
*2さとう りょう 国立国会図書館 収集書誌部 収集・書誌調整課(2011年10月から電子情報部電子情報流通課)
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331(原稿受領 2011.8.19)

 国立国会図書館(NDL)は,書誌データの開放性・利用可能性を向上させる取り組みの1つとして,書誌データ提供におけるセマンティックウェブ技術への対応を進めている。この一環として,2010年6月には「ウェブ版国立国会図書館件名標目表(Web NDLSH)」,2011年7月には提供範囲を全典拠レコードに拡大し,システムの機能を拡張した「国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities)」の開発版をリリースした。「国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities)」の開発版では,典拠データをRDFモデルにより表現し,Linked Dataのスキームに準拠する等,セマンティックウェブ技術に対応した形式により提供している。本稿では,当サービスの概要,提供する典拠データの内容,RDFモデルの設計等について紹介をする。

キーワード: 典拠レコード,名称典拠,Linked Data,セマンティックウェブ,RDF,URI,メタデータ,典拠コントロール,件名標目,NDLSH

古典籍における典拠情報と分類

相田 満
あいだ みつる 国文学研究資料館
〒190-0014 東京都立川市緑町10-3
Tel. 050-5533-2900 (原稿受領 2011.9.26)

 多くの古典籍を擁する国文学研究資料館において,分類・主題検索の実現は,長い間の課題となっている。特に,極めて早い時期にコンピュータを実現した当館において,汎用機時代から取り組まれてきたユニオンカタログとも称するべき『日本古典籍総合目録』データベースの存在は,分類に対する関心を,常に喚起する存在でもあった。その分類・主題検索を実現する道のりは遠いが,その実現のためのインフラと取り組みは少しずつ進んではいる。本稿では,どのような取り組みが行われているか,その一端を紹介する。

キーワード: 日本古典籍総合目録,ユニオンカタログ,主題・分類索引,データベース,オントロジー,UI

連載:たまに使う各国特許庁Webサイトの紹介(2)
たまに使う各国特許庁Webサイトの紹介:ブラジル編

寺岡 岳夫
てらおか たけお 富士通(株)
〒105-7123 東京都港区東新橋1-5-2
Tel. 03-6252-2283(原稿受領 2011.8.22)

 利用している商用データベースに収録されていない国の特許を調べるときは,各国特許庁サイトなどを使うことになる。しかし,使ったことのないウェブサイトや,非英語圏の国だったりすると,検索の方法や,どのような情報が収録されているのかもわからないことが多いと思う。本稿では,非英語圏でもあるブラジル特許庁のウェブサイトを取り上げ,特許情報へのアクセス手順や検索項目,検索方法を紹介する。ブラジル特許庁ウェブサイトは,ポルトガル語による表記であるため,図による説明を多くしている。

キーワード: ブラジル特許,Potal INPI,特許検索,検索項目,特許統計データ,ポルトガル語

プロダクト・レビュー:合成研究者のためのデータベースReaxysの進化

佐川 亜矢子
さがわ あやこ エルゼビア・ジャパン(株)
〒106-0044 東京都港区東麻布1-9-15 東麻布一丁目ビル4階
Tel. 03-5561-5034(原稿受領 2011.8.25)

 Reaxysは,エルゼビア社が提供する世界最大規模の合成反応データベースである。有機化学,無機化学,有機金属化学の化合物に関し,その合成反応や実測物性値を収録している。合成化学者のワークフローを考えて開発された使いやすいインターフェースを採用したことにより,多くの企業での導入が進んでいる。Reaxysは発売以来,コンテンツの追加だけでなく機能の強化も重ねてきた。本稿では数多くあるReaxysの新機能のうち,検索機能の強化,表示項目の追加,合成計画ツールの追加機能,Application Programming Interface(API)について紹介する。

キーワード: Reaxys,反応検索,互変異性体検索,部分構造検索,実験項表示,市販化合物情報,逆合成,合成計画,API
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