Vol. 61 (2011), No.5
今号では「図書館システム」を特集します。図書館システムと言えば,貸出返却処理や目録作成・公開などの機能がイメージしやすいと思いますが,これらにとどまらず,今日では図書館サービスの大部分が何かしらのシステムによって支えられており,「図書館システム」の意味するところは多様化しているように思われます。いわゆる図書館の基幹システム(ILS:Integrated Library System)を中心にその他のシステムも含め,現状・問題点・将来像などを探ってみます。
同志社大学の原田氏からは,巻頭の論文として,多様化する図書館システムを概説していただきました。伝統的な業務(目録等)を支えるシステムから利用者サービス中心のシステムへと変わりつつある現状をシステムの構築や運用,そしてシステム間連携といった側面から説いていただきました。
国立国会図書館の堤氏・佐藤氏・牧野氏からは,「レファレンス協働データベース事業」について事業の立ち上げから今後の展望・課題などをお書きいただきました。単館レベルではなく多数の館による協働のシステムの事例,そしてレファレンスというシステム化が遅れていた業務の事例として貴重な報告になったのではないでしょうか。
国際基督教大学の黒澤氏からは,日本の図書館システムの現状について,1980年代からのいわゆる「電算化」の時代から今日までの状況を主に館種別に解説していただき,システム仕様書の重要性やパッケージシステムに関する論考をいただきました。
慶應義塾大学の佐藤氏からは,同大学における海外パッケージシステムの採用という,国内では数少ない事例を報告していただきました。これは大変貴重な事例報告になったと思っております。
そもそも「システム」の意味するところは広く,今回の特集号でカバーしきれていない部分も多く残っているかとは思いますが,本特集号が読者皆様のお役に立てば幸いです。
<補記>
本特集号の制作過程であの東日本大震災が起きました。著者,編集担当者,協会事務局,そして本誌読者の皆様にも様々な困難が降りかかったのではと推察いたします。また実際に被害に遭われた方も少なからずおられるでしょう。かける言葉が見つかりません。甚大な被害と対応すべき課題の数々を前にして,われわれインフォプロにはいったい何ができるのかと,言い表しがたい「無力感」のようなものに苛まれている方も多いのではないでしょうか?本特集では主に平常時の「システム」にフォーカスを当てていますが,図書館・情報館における有事の際の「システム」についても,今回の震災を教訓として真剣に考えておくことがわれわれインフォプロの1つの使命ではないかと思いました。
また,このような状況ではありますが,本号が無事に皆様のお手元に届いたならば,それは平素あまり意識していませんでしたが,1つの「幸せ」です。
(会誌編集担当委員:鈴木努(主査),白石啓,高久雅生,矢田俊文)
原田 隆史*
*はらだ たかし 同志社大学社会学部
〒602-8580 京都市上京区新町通今出川上ル
(原稿受領 2011.3.30)
日本における図書館システムは1980年代から導入が進められ,主として図書館のハウスキーピング業務の効率化に大きく寄与してきた。しかし,その後の図書館システムの進歩は遅く,特に利用者サービスの中核をなすオンライン閲覧目録(OPAC)については,他のWebサービスと比較して時代遅れであるとも言われてきた。近年,このような状況が少しずつ変化してきている。たとえば,クラウド・コンピューティングを利用した図書館システムやオープンソース・ソフトウェアとして開発されたシステムの出現,ディスカバリ・インタフェースと呼ばれる新しいOPACの提供などはその代表である。また,図書館が取り扱う資料自体も従来の紙媒体の資料だけではなく,電子ジャーナルや電子書籍など多様なものとなってきている。本稿では,このような多様化してきた図書館システムの状況について概説する。
キーワード: 図書館システム,ディスカバリ・インタフェース,クラウド・コンピューティング,オープンソース図書館システム
堤 恵,佐藤 久美子,牧野 めぐみ*
*つつみ めぐみ,さとう くみこ,まきの めぐみ
国立国会図書館関西館図書館協力課
〒619-0287 京都府相楽郡精華町精華台8-1-3
Tel. 0774-98-1475(原稿受領 2011.2.21)
レファレンス協同データベース事業(以下,レファ協)は,国立国会図書館が,全国の公共図書館・大学図書館・専門図書館等と協同でレファレンスに関する大規模なデータベースを構築し,それをインターネットを通じて提供することにより,図書館でのレファレンスサービスや一般の人々の調べ物に役立てることを目的とする事業である。本稿では,まずレファ協の概要と現況を紹介する。そして2010年3月に行ったシステム改修等最近の取り組みや,レファ協によってどのような変化が生まれたのかについて述べ,最後に今後の展望と課題について述べる。
キーワード: レファレンス協同データベース事業,レファ協,協同,レファレンスサービス,API
黒澤 公人*
*くろさわ きみと 国際基督教大学図書館
〒181-8585 三鷹市大沢3-10-2
Tel. 0422-33-3306(原稿受領 2011.2.24)
日本の図書館システムの発展に,国立国会図書館,国立情報学研究所がどのような影響を与えてきたのか概観し,大学図書館システム,公共図書館システム,学校図書館システムの現状を考察した。大学図書館システムと公共図書館システムは別々に発展してきた。現在,ほとんどの図書館は,業者の作成した図書館システムパッケージソフトを使用しているが,定期的に更新していく必要がある。図書館サービスの継続には,システム仕様書が重要である。オープンソース図書館システムの登場や書館員による図書館システムの研究も活発になりつつある。
キーワード: 国立国会図書館,国立情報学研究所,大学図書館,公共図書館,システム仕様書,MARC,パッケージソフト
佐藤 康之*
*さとう やすゆき 慶應義塾大学メディアセンター本部
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5427-1649 (原稿受領 2011.3.3)
2010年3月,慶應義塾大学メディアセンターは,最初の導入から3世代目となる新図書館システムKOSMOSVを導入し,ディスカバリー・インターフェースKOSMOSの利用者への提供を開始した。これらのシステムは,イスラエルのEx Libris社が開発した統合型図書館システムAlephとディスカバリー・インターフェースPrimoで構成されている。2004年に開始された選定作業は約4年に及んだ。背景には,中期計画における次世代サービスの検討,MARC21書誌レコードの継承,書誌ユーティリティの動向,トロント大学図書館の事例などがある。本稿では,システム選定の過程を振り返り,その選定の背景を紹介する。
キーワード: 海外パッケージシステム,統合型図書館システム,ディスカバリー・インターフェース,図書館中期計画,MARC21,書誌ユーティリティ,トロント大学図書館
石神 祥子*
*いしがみ さちこ (社)化学情報協会 情報事業部
〒113-0021 東京都文京区本駒込6-25-4
Tel. 03-5978-3601(原稿受領 2011.2.18)
SciFinderは,Chemical Abstracts Service(CAS)が開発したオンライン検索サービスである。化学関連分野を中心に幅広い科学情報を提供しており,現在世界中の企業および教育機関の研究者に利用されている。SciFinderは機能強化およびシステムの改良を重ね,現在ではWeb版の利用が主流になりつつある。本稿では, SciFinder Web版の最近の強化点として,MARPATファイルを対象としたマルクーシュ構造検索と反応情報検索の回答画面における実験項情報の表示について紹介する。
キーワード: SciFinder,SciFinder Web版,マルクーシュ構造検索,反応検索,実験項表示