「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 61 (2011), No.2

特集=「ソーシャルサービス活用指南」

特集 : 「ソーシャルサービス活用指南」の編集にあたって

 今月の特集では「ソーシャルサービス」を取り上げます。ソーシャルメディア,利用者参加型サービスなどとも呼ばれ,ウェブ上で展開されるサービスの典型として2004年以降のいわゆる「Web 2.0ブーム」の中でもそのひとつの特長とされました。利用者参加型サービスは注目を集めただけでなく,ウィキペディアやソーシャルネットワークサービスなどを筆頭に広く普及が進み,いまでは重要な情報源,コミュニケーションツールとなっています。たとえば,ウィキペディアやネット書店アマゾンによる書評レビューなど,図書館・情報センターの情報提供のあり方に強い影響力をもつものも少なくありません。一方で,従来からの情報専門職の視点は,ややもすれば一方通行的な情報サービスの形にとどまりがちで,これらのサービスを自らのサービスのなかでどのように位置づければよいか,率直なところ戸惑いを感じる方も多いことと思います。新しい情報環境と調和した情報提供や学習の場をどうやって作ればよいのか,頭を悩ませることもあるかと思います。
本特集では「活用指南」と銘打ち,ソーシャルサービスとはどのような特徴をもつのか,どのように付き合っていけばよいのか,そういった観点から現在のソーシャルサービスの現状や動向を紹介する論考を各分野の第一人者に執筆いただきました。
 岡本真氏は,本特集「活用指南」の総論として,これまでの動向を踏まえたうえで,なぜソーシャルサービスを活用すべきか,いやむしろ積極的に活用すべきだと明快に説いています。藤代裕之氏は,ソーシャルメディアに取り組むジャーナリズムの視点を紹介しながら情報発信の心構えを説いています。情報専門家としても示唆に富んだ内容と思います。また,渡辺智暁氏は百科事典サイト・ウィキペディアを例に,折田明子氏はソーシャルネットワークサービスを例に,それぞれの経験および研究事例を紹介しながら,これらのソーシャルサービスと付き合うためにどのようなリテラシーが必要とされるか論じています。一方,渡辺ゆきの氏からは,ネット上で展開されるサービスにとどまらない,リアルな場としての図書館をまきこんで展開されているサービスkumoriを例として,リアルな図書館での利用者参加を考える事例を紹介していただきます。
 ブームとしてのWeb 2.0をきっかけに脚光を浴びた各種ソーシャルサービスを現在の視点からみたとき,利用者が求める情報を提供するにふさわしいプラットフォームはどのようなものか,それを支えるリテラシーをどのように構築していけばよいか,本当の議論はここから始まっている気がしています。幸運なことに,本特集ではソーシャルサービスを考えるためのリテラシーとして優れた論考を集めることができました。読者・発信者・参加者という多様な立場を持ちうる,新しいメディア(ソーシャルメディア)に対して,どのようなリテラシーが求められるのかを理解することは,情報専門家にこそ求められていることと思います。読者にとっての本特集が,今後のインターネット上のサービスや,利用者参加型サービスを考える一助となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:高久雅生(主査),小山信弥,野田英明,矢田俊文)

総論:ソーシャルサービス活用:これまでとこれから

岡本 真
おかもと まこと アカデミック・リソース・ガイド(株)
〒231-0011 神奈川県横浜市中区相生町3-61 泰生ビル201
(原稿受領 2010.12.3)

 本特集の総論として,主に日本における図書館・情報センター,博物館・美術館,文書館等におけるソーシャルサービス活用の歴史の回顧と展望を行う。同時にこれからのソーシャルサービス活用において超えるべき課題について,1.ソーシャルサービス,ひいてはウェブのサービスを活用する意義の理解不足,2.希薄な費用対効果の意識,3.職員のスキル不足と組織の理解不足の3点を指摘し,最後に今後のさらなる活用が望まれるソーシャルサービスを10点紹介している。

キーワード: ソーシャルメディア,Web 2.0,Government 2.0,オープンガバメント,Gov 2.0,Yahoo!知恵袋,Twitter,The Commons,Flickr

情報発信する私たちの役割とは何か。
 ジャーナリズムの視点から見たソーシャルメディア

藤代 裕之
ふじしろ ひろゆき NTTレゾナント/学習院大学
〒108-0023 東京都港区芝浦3-4-1 グランパークタワー8階
Tel. 03-6703-6212 (原稿受領 2010.11.24)

 ソーシャルメディアの登場は,ジャーナリズムに大きな影響を与えている。ソーシャルメディアを利用することで,新聞やテレビといったマスメディアを介さずに多くの人々に対して情報発信することが可能になった。本稿では,海外と日本においてソーシャルメディアがジャーナリズムに与えた影響や課題についての事例を紹介し,まず,記者だけでなく個人もジャーナリズム活動に関与するようになっていることを明らかにする。次いで,情報発信者も,メディアスクラムやプライバシー侵害,倫理問題に直面していることに触れ,情報発信者である「私たち」がどのような役割や責任を担っていくかを考察する。

キーワード: ソーシャルメディア,ジャーナリズム,ジャーナリスト,メディアリテラシー,マスメディア,情報倫理,市民メディア

われわれはウィキペディアとどうつきあうべきか:
 メディア・リテラシーの視点から

渡辺 智暁
わたなべ ともあき 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM);クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
〒106-0032 東京都港区六本木6-15-21ハークス六本木ビル2F
Tel. 03-5411-6693(原稿受領 2010.11.29)

 本稿ではウィキペディアを使う上で重要となるメディア・リテラシーを論じている。具体的には,ウィキペディアの運営・品質管理体制や方針,参加者の動機,利害関係者の動機や影響力などを解説し,ウィキペディアの特定の項目の信頼性を見積もる上でそれらがどのように手がかりとなるかを論じる。また,ウィキペディアの信頼性・品質に関する既存の調査の傾向に触れつつ,限界を指摘する。他の資料との併用が有益であること,ウィキペディアは他の資料への入口としても有用性を増しつつあることを述べる。最後に,中長期的な視点に立つと,ウィキペディアへの貢献も,信頼性の問題への有意義な解決方法であり,直接的な貢献の他にも多様な間接的貢献法があることを説明する。

キーワード: ウィキペディア,メディア・リテラシー,集合知,信頼性,透明性

SNSに集約する情報:ネットワーキングからライフログへ

折田 明子
おりた あきこ 慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科
〒221-0882 神奈川県藤沢市遠藤5322
Tel. 0466-49-3557(原稿受領 2010.12.3)

 現実世界の人間関係を,インターネット上に再構築するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は,参加者がそれぞれ自分に関する情報を提示しつつ,現実に存在する人間同士がつながりを広げていくものとして始まったが,いまや人間関係にとどまらず様々な行動や情報が集約されるプラットフォームになりつつある。本稿では,国内外のSNSを紹介しながら,実名志向や匿名志向という違いとIDの構造,利用者の意図の有無による情報の種類について考察し,安全を確保しつつ可能性を広げる利用について考える。

キーワード: ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS),ID,ライフログ,匿名性,プライバシ,モバイル利用

参加型のしおり「kumori」−本との出会いを提供する試み−

渡辺 ゆきの
わたなべ ゆきの 千葉大学
〒263-0022 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33
Email. yukino@kumori.inf(原稿受領 2010.11.24)

 参加型サービス「kumori」の紹介を行なう。kumoriとは,本の紹介を投稿するとそれがしおりになり,図書館で配布されるサービスである。しおりには,投稿者からの本の紹介と所蔵情報等が載っている。しおりを投稿者と協同で作成している点が特徴である。  本稿ではまず,kumoriの目的・形状・システム・作成方法・特徴等を紹介する。次にkumoriへの意見,そして課題について述べる。

キーワード: kumori,参加型サービス,コラボレーション,しおり,デザイン,User-Created-Content
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