「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 60 (2010), No.11

特集=「デジタル映像アーカイブ」

特集 : 「デジタル映像アーカイブ」の編集にあたって

 20世紀は「映像の世紀」とも呼ばれます。エジソンによる1893年のキネトスコープ発明,リュミエール兄弟による1895年のシネマトグラフの発明は,映画史の端緒となるものでした。それからわずか100年,映像技術は急激な進化を遂げ,映像は「誰かの作品を見て楽しむ」ものから「誰もが作り,発信できる」ものへと変容しつつあります。
 「映像の世紀」を経て21世紀を迎えた今,映像が有する「史料」としての側面を重視し,映像史料を保存・蓄積・公開する必要性が強く叫ばれるようになりました。特に,アナログ媒体で作成された映像史料は,記録媒体そのものの問題や公開するための技術の問題などから,デジタル情報へと変換して保存・蓄積する動きが広がっています。また公開においても,誰もが情報の発信者になり得るインターネットの特性を利用し,アーカイブされた情報をインターネット上で配信し,多様な利用を促進する新たな試みが活発化してきています。
 本特集では,主に映像アーカイブの構築に焦点を当て,アナログコンテンツをデジタル化する手法やファインダビリティ向上のための取り組み,映像配信による利用促進の取り組みなどを紹介することを目指しました。
 東京国立近代美術館フィルムセンターのとちぎ氏には,映像アーカイブとはいかなる営みであるのか,フィルムアーカイブにおける業務の実際とともに論じていただきました。また,川崎市市民ミュージアムの濱崎氏には,テレビドキュメンタリーアーカイブを構築した実例をもとに,デジタル映像アーカイブの構築手法をご紹介いただきました。
 映像史料のドキュメンテーションでは,明示的な文字情報が豊富に利用できる文献史料とは異なる観点が求められます。また,映像史料を公開する場合には,文献史料とは異なる法的制約に服すことが求められます。映像ドキュメンテーション研究の最前線について,名古屋大学大学院の井手氏に論じていただきました。また,映像アーカイブを公開するにあたっての法的課題について,国立情報学研究所の井上氏に論じていただきました。
 映像史料のもつ魅力の一つに,文献史料とは異なる,圧倒的な「生の迫力」が挙げられます。慶應義塾大学の福原氏には,OCWにおける大学授業の配信についてご紹介いただき,その意義を論じていただきました。大学における授業配信は一つの例ですが,映像情報を配信することによる効果を,読者の皆様にも感じていただけるものと思います。
 本特集が,映像アーカイブの構築に取り組んでいる読者はもちろん,映像アーカイブに関心を有するすべての読者への一助となることを願ってやみません。
(会誌編集担当委員:野田英明委員(主査),小山信弥委員,權田真幸委員,齊藤泰雄委員,吉田幸苗委員)

人智の礎としてのアーカイブ
−映画フィルムのアーカイビングという仕事−

とちぎ あきら
とちぎ あきら 東京国立近代美術館フィルムセンター
〒104-0031 東京都中央区京橋3-7-6
Tel. 03-3561-0823(原稿受領 2010.8.26)

 フィルム・アーカイブの主たる使命は,所蔵品としての映画フィルムと映画関連資料を,収集から保管,公開までを含むアーカイブ活動のサイクルのなかで,取り扱っていくことにある。映画フィルムは,物理的な損傷や化学的な変化に対して脆弱ではあるが,温湿度を制御することによって,デジタルメディアよりも遥かに長い寿命が期待されている。それでもやはり,デジタル技術は,デジタル復元や所蔵品に対するデジタル・アクセスなどを通して,フィルム・アーカイビングのさまざまな領域を変貌させてきており,これにより,来るべき世代の教育や学問的研究に対して,必ずやこれまで以上の貢献をもたらすことになるだろう。

キーワード: フィルム・アーカイブ,映画フィルム,ベース,乳剤層,長期保存,真正性,デジタル復元,媒体変換

デジタルアーカイブのベストプラクティス「川崎市市民ミュージアム」の事例

濱崎 好治
はまさき こうじ 財団法人川崎市生涯学習財団 川崎市市民ミュージアム
〒211-0052 川崎市中原区等々力1-2
Tel.044-754-4500(原稿受領 2010.8.30)

 1988年に開館した川崎市市民ミュージアムにおいて,映像の収集,保存からデジタルアーカイブまでの事例を報告する。低予算で最大効果をあげるベストプラクティスをめざし,映像のデジタルアーカイブ化のプロセスを示し,動画から抽出した静止画像の検索と,映像に関連する情報のマネージメントを FileMaker Proで構築したプロトタイプを提示する。博物館として初めてテレビドキュメンタリー番組の収集と保存に取り組み,牛山純一テレビドキュメンタリーアーカイブの構築に着手し,現在は地域のニュース映画のデジタルアーカイブを構想している。

キーワード: 映像,デジタルアーカイブ,著作権,フィルム,ビデオテープ,テレビ番組,ニュース映画,記録映画

映像アーカイブとファインダビリティ

井手 一郎
いで いちろう 名古屋大学 大学院情報科学研究科
〒464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町
Tel. 052-789-3313(原稿受領 2010.8.30)

 近年,ハードディスクなどの記憶装置の高密度化に伴い,大量の映像を電子的にアーカイブする環境の構築が容易になった。しかし,視聴に時間を要することや,内容の正確かつ網羅的な記述が難しいことから,単純なキーワード検索や画像特徴に基づく検索により,欲しい映像を求めるのは容易ではない。本稿では,筆者らがこれまで取り組んできた,放送映像アーカイブにおける効率的な検索のための研究を中心に,内容解析およびそのための構造化の視点から,さまざまな研究事例について外部情報源との関連づけの有無に分けて,映像ジャンル別に紹介する。

キーワード: 映像アーカイブ,放送映像,映像検索,構造化,内容解析,ニュース映像,料理映像

映像アーカイブの法的課題

井上 理穂子
いのうえ りほこ 国立情報学研究所/ジョージワシントン大学ロースクール
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2655(原稿受領 2010.8.26)

 映像アーカイブを実施するにあたっては,アーカイブをしたい映像,そしてそれに含まれる著作物が何なのかについてまず明らかにし,それらに対して「誰の」「どのような」権利が関係しており,どのような許諾が必要となるのか検討し,さらに権利者に許諾を取る必要がある。本稿では,「誰の」「どのような」権利に対して,どのように許諾を取ったらいいのかについて,具体例をあげながら検討をし,明確にした。また,映像アーカイブに関わる権利制限規定について,現在(2010年8月)議論となっている日本版フェアユースの可能性とそれが映像アーカイブに及ぼす影響について明らかにした。

キーワード: 映像アーカイブ,著作権,肖像権,権利制限規定,日本版フェアユース(一般制限規定)

オープンコースウェア/大学の講義アーカイブ

福原 美三
ふくはら よしみ 慶應義塾大学
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5418-6445(原稿受領 2010.8.30)

 2001年米国マサチューセッツ工科大(MIT)が「同大学の全ての講義をインターネットで無償公開する」と発表したのがオープンコースウェア(OCW)が世の中に公表された最初のイベントである。その後,MITでは2003年に本格公開を開始し,2007年に当初の計画通り全ての講義(約 1,800コース)公開を完了している。なお,オープンコースウェアは2004年以降世界各国の様々な大学で開始され,2010年夏時点では35カ国, 200機関以上の規模となっている。日本でも2005年から主要6大学の同時開催からOCWを開始し,現在では25大学が参加する規模となっている。

キーワード: オープンコースウェア,高等教育,オープンエデュケーション,講義アーカイブ

プロダクト・レビュー
ProQuest Dialogの特徴と機能

川原 綾
かわはら あや 潟Wー・サーチ 知財ビジネス部
〒108-0022 東京都港区海岸3-9-15
Tel. 03-3452-1244(原稿受領 2010.9.22)

 2010年9月にサービスが開始されたProQuest Dialogは,商用データベースサービスのスタンダードとして全世界で30年以上利用されてきたDialogの後継サービスである。ProQuest Dialogは,企業活動における製品の研究開発から販売までの各段階で必要な情報収集を可能にし,情報検索のプロフェッショナルに求められるコマンド検索とエンドユーザーが容易に目的の結果を入手できる最新の検索インターフェースの両方を備えた新しい情報検索プラットフォームである。本稿では ProQuest Dialogについて,機能と利用方法を解説する。

キーワード: ProQuest Dialog,日本語インターフェース,翻訳,コマンド検索,メニュー検索,サジェスト機能,MEDLINE,EMBASE,後方一致検索


※)本プロダクトレビュー記事は,当協会維持会員機関からの投稿記事です。維持会員様は年1回無料で投稿できますので,協会事務局にお問い合せ下さい。
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