「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 60 (2010), No.9

特集=「書誌コントロール再考」

特集 : 「書誌コントロール再考」の編集にあたって

 日本において書誌コントロール論が単行書の形で取り上げられたのは,1998年の『文献世界の構造−書誌コントロール論序説』でした。そして書誌ユーティリティとして学術情報センター(現在の国立情報学研究所)が設立され,NACSIS-CAT/ILLが構築されたのは,1980年代のことです。この頃の書誌コントロール論は,文献資料としての図書や雑誌が取り扱うべき主要な対象であり,物流を前提としたものでした。当時は,それはそれで複雑であった(と感じていた)のですが,今から見ると何ともシンプルな世界であったと言えるでしょう。
 その後,インターネットやWebの出現,そしてメタデータのクローズアップに象徴されるように,書誌コントロールをめぐる状況はずいぶん変化しています。電子的なネットワークが個人レベルでも普及し,学術図書館は,従来の書籍の物流に加えて,ネットワークを介した情報流通にその視野を広げています。扱う情報も文献資料だけではない,画像等の多様に表現された,そして同時に,(ネットワークも含め)多様な媒体に搭載されたコンテンツと呼ばれるものが日毎に,しかも爆発的に増加しています。
 現実に生じた課題についていくつか触れましょう。電子ジャーナルがビッグ・ディールという形でパッケージ販売されるようになった時,購入した図書館では大量のタイトルをどのように管理し,利用者に提供するか,文献複写はどのように行うかといった課題が発生しました。また,ドイツでは従来,学術情報を学術機関で分担収集するという制度(SSG)をとってきましたが,電子ジャーナルのパッケージ販売に対しては,専門分野ごとの分担収集という従来方式を改め,別の制度構築をせざるを得ませんでした。
 そのような中で,書誌コントロール論はどのように変化しているのか,変化していないのか,また,変化していくのか。書誌コントロール論の今とこれからを本特集で考えていきます。
今回は上述の『文献世界の構造−書誌コントロール論序説』の著者である根本彰先生に総論をお願いすると共に,NACSIS-CAT/ILLを引っ張ってこられ,今は国立国会図書館の書誌調整連絡会議にも関わっておられる宮澤彰先生には,書誌コントロールと書誌ユーティリティについて,長く現場に携わった後,学究の身となられた渡邊隆弘先生には典拠コントロールについて論じていただきました。なお,渡邊先生は科研費で「情報環境の変化に適切に対応する目録規則の在り方に関する研究」(基盤研究(C)課題番号22500223)というプロジェクトもされています。そして世界最大級の書誌ユーティリティ OCLCからはKaren Calhounさんにご執筆いただき,小鷹久子さんに訳していただきました。気鋭の若手である坂口貴弘先生には,アーカイブスにおけるメタデータについて書いていただき,書誌コントロール論とのつながりを論じていただいております。
 本特集が現状を整理し,さらに前に進むための礎となれば幸いです。
会誌編集担当委員:吉田幸苗委員(主査),白石啓委員,齋藤泰雄委員,松林正己委員

書誌コントロール再考

根本 彰
ねもと あきら 東京大学大学院教育学研究科
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-3975(原稿受領 2010.06.29)

 書誌コントロールは,知的コンテンツの流通体制をどのようにつくるのかという問題群である。これがデジタルネットワークへの移行状況のなかで,どのように変化しつつあるのかについて,筆者の旧著をベースにしながら論じた。これまで知的コンテンツは紙を中心とするパッケージに収められて流通し,図書館において物理的に保存されていたが,これがデジタル化することにより不定形となる。こうして「書誌レコードの機能要件(FRBR)」における体現形を対象とする書誌コントロールから,著作と表現形を対象とする書誌コントロールへの移行が必要になることを論じる。

キーワード: 書誌コントロール,目録,文献,デジタルメディア,出版流通,書誌レコードの機能要件(FRBR)

書誌コントロールを超えて

宮澤 彰
みやざわ あきら 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋1-2-1
Tel. 03-4212-2508(原稿受領 2010.6.28)

 書誌コントロールの新しい枠組みを提案する。書誌コントロールの将来に関する最近の議論を,旧来からの枠組みにとらわれすぎていると評価し,新しい枠組みを考えるべきであると主張する。その試みとして,従来の目録作成方式によるネットワーク資源の目録作成,サーチエンジンへの提供,登録機関と書誌コントロール機関という3つの方式を提案し,特に最後の方式に細かい検討を加える。この方式では,著作登録機関,体現形登録機関,書誌コントロール機関の3種の機関を考え,それらの機関の役割と可能性を検討する。またそれらの問題点についても触れる。

キーワード: 書誌コントロール,目録,アクセスポイント,記述,FRBR,典拠コントロール,サーチエンジン

典拠コントロールの現状と将来

渡邊 隆弘
わたなべ たかひろ 帝塚山学院大学人間科学部
〒590-0113 堺市南区晴美台4-2-2 帝塚山学院大学
Tel. 072-296-1331(代)(原稿受領 2010.07.05)

 典拠コントロールは,図書館目録の集中機能を実現するための重要な機構である。本稿ではまず,現行の目録法における典拠コントロールの仕組みを整理し,いくつかの問題点を指摘する。続いて,目録の変革を目指す近年の動向における典拠コントロールの方向性を,書誌コントロール政策,次世代OPAC,新しい目録法(FRBR/FRAD,国際目録原則,RDA)の各観点から整理する。さらに,図書館外のコミュニティにおける「識別子」の動向,典拠データを図書館外のコミュニティに開放する取り組みについても述べる。情報環境の変化を背景とした諸動向のなかで,典拠コントロールは以前より明確に位置づけられ,その重要性は増している。

キーワード: 典拠コントロール,FRBR,FRAD,国際目録原則,RDA,目録規則,識別子,集中機能

Web環境下の書誌コントロールを再考察する

Karen S. Calhoun*1, 小鷹 久子*2
*16565 Kilgour Place, Dublin, OH 43017-3395 USA
Tel. 614-764-6000戟i原稿受領 2010.7.16)
*2こたか ひさこ

 目録作成並びにメタデータサービスは岐路に直面している。電子時代は図書館のコレクション構築と,図書館がサービスする社会に興味あるものとして働きかけるコレクションとその仕様に根本的なチャレンジをもたらした。Webの進出が,図書館ならびに高等教育に必須であったもの,また専門知識や最高の実技を構成してきたものを新しい条件下ですべてくつがえし書き換えた。この稿は図書館運営の現実とメタデータ作成と管理を動かす新しい要因と傾向を明らかにすると共に,OCLC共同機構が計画している将来の目録作業,メタデータ操作,そしてWorldCatを取り巻くエキスパート目録作成共同体の支援と進展につながる次世代のメタデータ作成と管理用プラットホームの大要を示す。

キーワード: OCLC,WorldCat,目録作業,メタデータ,コレクション,Webインパクト,トレンド,変化,次世代プラットフォーム

アーカイブズの編成・記述とメタデータ

坂口 貴弘
さかぐち たかひろ 学習院大学大学院人文科学研究科
〒171-8588 東京都豊島区目白1-5-1
(原稿受領 2010.06.22)

 アーカイブズ界では対象資料の独自性を踏まえつつ,図書館界の書誌コントロールに相当する領域を発展させるべく,各種の方法論や標準類が開発されてきた。本稿ではまず,記述に関する標準としてISAD(G)やDACS,EAD等について解説する。次に編成に関して,組織ベースの編成と機能ベースの編成を取り上げ,それぞれに関連する標準としてISAAR(CPF)とISDFに言及する。さらに電子記録のメタデータ付与に関する課題を指摘し,その標準化の取り組みのうちISO 23081とMoReqについて扱う。アーカイブズの編成・記述をめぐる近年の動きには,図書館界の議論との共通点を多く見出すことができる。

キーワード: 秘蔵資料,コンテクスト,目録,分類,組織,機能,電子記録,電子メール,メタデータ
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