Vol. 60 (2010), No.4
今号では「オープンアクセス」を特集します。オープンアクセスという言葉自体はかなり広く認識されるようになってきたかと思いますが,その意味するところは単純ではありません。しかし,いまやオープンアクセスは学術情報流通を考えるために欠かせない概念であり,オープンアクセスに対する理解を深めていくことは情報流通に関するものにとって肝要であると考えます。そこで今号では,そうしたオープンアクセスの基本を押さえられる論稿を集めました。
冒頭の倉田論文は非常にわかりやすく,オープンアクセス全体の見通しを得られる論稿になっています。オープンアクセスがよくわかっていないという方は,これだけでも理解を進めることができるでしょう。より理解を深めるためには,関連する文献レビューを行っている栗山論文で紹介された文献にあたってみるとよいでしょう。
オープンアクセスの実現方法としては,主としてセルフアーカイビングとオープンアクセスジャーナルの二つの方法が示されてきました。オープンアクセスの元々の理念から,現在の(セルフアーカイビングの一手段である)機関リポジトリとオープンアクセスジャーナルの状況をレビューしたのが佐藤・逸村論文です。ここまでの三つの論稿でオープンアクセスについての基本的な理解が得られるだろうと思います。
佐藤・逸村論文でも述べられている通り,オープンアクセスの実現に向けては経済的な壁の他に法の壁もあります。これに関連してライセンスの観点から論じたのが渡辺・野口論文です。倉田論文,佐藤・逸村論文とあわせて,今後のオープンアクセスの展開に向けた示唆を得ることができるでしょう。
栗山論文が最後に述べているように,オープンアクセスは今まさに進行中の動きです。そこで,今後もこの動向をウォッチしていくための情報をまとめたのが三根論文です。ここまでの各論文で理解を深めた後は,ここで紹介されたツールを使っていただくことで,最新の情報にも継続して触れることができるでしょう。今後の取り組みに向けてぜひ活用いただきたいと思います。
今号が,オープンアクセスに関する理解をより広げ,深める一助になれば幸いです。
(会議編集担当委員:川瀬直人(主査),小山信弥,服部綾乃,矢田俊文)
倉田 敬子*
*くらた けいこ 慶應義塾大学文学部
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45慶應義塾大学文学部
Tel. 03-5427-1219(原稿受領 2010.01.26)
オープンアクセスとは何なのか,その全体的な見取り図,概略図を示すことが本稿の目的である。最初に,基本的なオープンアクセスの定義,その前提となること,実現するための手段について概略した。次に,生物医学分野の2005年と2007年におけるオープンアクセスの現状を簡単に紹介し,機関リポジトリや著者支払いオープンアクセス雑誌だけで,現在のオープンアクセスが実現されているわけではないことを示した。最後に,従来とは異なるより広い文脈において,オープンアクセスを再検討した。本来の理念としてのアクセスの改善という観点から,オープンアクセスの対象の拡大,各種制約・制限を撤廃するのではない方向の検討を行った。
キーワード: オープンアクセス 学術情報流通 学術コミュニケーション 沿革 定義 再検討 ステークホルダー セルフアーカイブ 機関リポジトリ
栗山 正光*
*くりやま まさみつ 常磐大学人間科学部
〒310-0911 水戸市見和1-430-1
Tel. 029-232-2560(原稿受領 2010.01.28)
オープンアクセス(OA)の起源,定義,リポジトリ,OA方針/義務化という四つのトピックに焦点を当てて関連文献をレビューした。ハーナッドの破壊的提案,PLoSの公開状,BBB定義,機関リポジトリと主題リポジトリをめぐる議論,大学や研究助成機関のOA方針および義務化の事例などに関する海外文献を取り上げて論じた。
キーワード: オープンアクセス,OA,BBB定義,機関リポジトリ,主題リポジトリ,オープンアクセス方針,オープンアクセス義務化
佐藤 翔, 逸村 裕*
*さとう しょう,いつむら ひろし
筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
〒305-8550 つくば市春日1-2
Tel. 029-859-1374(原稿受領 2010.01.28)
機関リポジトリ(IR)とオープンアクセス(OA)雑誌はBudapest Open Access Initiative(BOAI)を背景に普及してきた。本稿では両者の現状をBOAIの理念と持続可能性の観点から検討する。現在のIRとOA雑誌は, BOAIが挙げる3つの障壁のうち法の壁や技術の壁への対応に問題がある。持続可能性については継続的なコンテンツ収集のために,IRでは研究活動の中に埋め込まれること,OA雑誌では質を維持しながら多くの論文を掲載することが重要となる。また,BOAIは「研究の加速」などをOAの実現の目的としているが,IRとOA雑誌にはこれを損なう危険性もある。
キーワード: オープンアクセス,機関リポジトリ,オープンアクセス雑誌,Budapest Open Access Initiative,セルフアーカイビング,持続可能性,査読,PLoS ONE
渡辺 智暁*1, 野口 祐子*2
*1わたなべ ともあき
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン,国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)
〒106-0032 東京都港区六本木6-15-21 ハークス六本木ビル2階
Tel. 03-5411-6693
*2のぐち ゆうこ
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン,国立情報学研究所,森・濱田松本法律事務所
(原稿受領 2010.02.02)
本稿では,オープンアクセスの法的な課題として,著作権の利用許諾(ライセンス)の果たす役割について述べる。学術文献を共有し,情報の活用を促進する上では,著作権は障害になりかねない。これを解消する一つの手段がライセンスである。多様なライセンスが互換性を考慮しないままに開発・利用されると,再利用や複数の著作物の組み合わせによる利用の妨げとなるケースがあるため,ライセンスの標準化や互換性の確保が重要である。興味深いことに,再利用や組み合わせ利用に配慮することが特に重要な科学データベースについては,そもそも著作権を放棄し,パブリック・ドメインに帰属させることが望ましいとする立場も存在している。
キーワード: オープンアクセス,ライセンス,著作権,ライセンス標準化,ライセンス互換性,パブリック・ドメイン
三根 慎二*
*みね しんじ 名古屋大学附属図書館研究開発室
〒464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町
Tel. 052-789-5699 (原稿受領 2010.02.22)
オープンアクセスに対する社会的関心の高まりや,その促進を後押しする欧米政府・研究機関による政策・制度の策定が続いている。オープンアクセス関連の情報は大量に流通し続けており,一人ですべてを発見し読むことはもはや不可能である。よって,情報収集の負担を軽減しより効率的にするためには,何らかの方策が必要となる。本稿では,オープンアクセス関連の情報を収集するための重要な10大ツール(人,イベント・学会・各種委員会,Twitter,メーリングリスト・メールマガジン,ブログ,Webサイト,ソーシャルブックマーク,ニュースレター,雑誌,図書)を紹介する。
キーワード: オープンアクセス,学術情報流通,機関リポジトリ,情報収集,情報発信,情報源