Vol. 60 (2010), No.1
(社)情報科学技術協会
会長 小野寺 夏生
明けましておめでとうございます。
経済界の不況は続いており,会員の皆様を取り巻く環境も厳しいものがあると存じますが,その中で知恵を絞り,存在価値を示すことが情報プロフェッショナルに求められると言えます。当協会も,諸活動を通してそのお手伝いに取り組む所存ですので,ご支援ご協力をお願いいたします。
公益法人制度改革に対する当協会の取り組みについては,問題点の検討や必要な調査を進めており,本年のうちに方向を定めたいと考えております。本誌の編集と刊行,情報検索能力試験の実施,(独)科学技術振興機構との共催による情報プロフェッショナルシンポジウムの開催,各種研修会・講習会の実施等の事業を,それぞれの委員会と会員諸氏のご協力を得て進めて参ります。SIG,OUGの研究会活動との連携の一層の強化も必要と思います。パテント情報活動に関する委員会が発足しましたので,これについてもご期待下さい。
さて本年は,1950年に当協会の濫觴であるUDC研究会(発足後間もなくUDC協会と改称)が創立され,本誌の前身である『UDC Information』が創刊されてからちょうど60年になります。この間,協会名は1958年に日本ドクメンテーション協会,1986年に現在の名称となり,それに合わせて本誌の名も『ドクメンテーション研究』,『情報の科学と技術』と変わりました。まさに協会の活動の拡大を示しております。簡単に 60年の歩みを見てみましょう。
『UDC Information』の時代はほとんどが手書きで,いろいろな筆跡があることから,編集委員の方々が交代でガリ版切りをされたご苦労の様子が偲ばれます。この時代は巻制を採らず通し号制でした。最後の号であるNo.48(1958年4月)の「ドクメンテーション?ドキュメンテーション?」という記事で,中村幸雄氏が,ラテン語由来の語はその発音に従うべきこと,ローマ字表記した際'ku'の方が'kyu'より自然であることから前者を推しておられますが,これが次の協会名につながったと思われます。
『ドクメンテーション研究』になって2号目のNo.50(1959年1月)から巻制が採られ,この号がVol.9,No.1になりました。このときからタイプ印刷,次いで活版印刷となり,Vol.18(1968)からは月刊となって,情報科学技術の専門誌として発展して行きます。協会が社団法人の認可を受けたのは1961年です。本誌に最近連載された「オンライン情報検索・先人の足跡をたどる」の舞台となったのもこの時代で,1978年の「オンライン情報サービス」のシリーズ連載等多くの記事が見られます。
1987年(Vol.37)から現在の誌名になりましたが,このときから編集委員会の企画・立案の体制が一層強化されたように思います。1989年頃から,現在も続いている特集中心の編集形式になり,取り上げるテーマの幅も執筆者の顔ぶれも多様化しているのはご承知の通りです。
国立情報学研究所の論文情報検索サイトCiNiiで,創刊以来の本誌のほぼ全文を見ることができます(
http://ci.nii.ac.jp/organ/journal/INT1000001590_jp.html)。当協会の歩みのみならず,第二次大戦後のわが国の情報活動・情報サービスの歴史を辿ることができ,いろいろな示唆が得られるとともに,厳しい環境を乗り越える元気も与えられますので,お正月のお休みの間に少しでも覗いてごらんになってはいかがでしょうか。
皆様の本年のご活躍を念じつつ,年頭のご挨拶といたします。
あけましておめでとうございます。本年も弊誌をご愛読賜りますようお願い申し上げます。
「もはや戦後ではない」と都留重人が経済白書で宣言した3年後に,日本近代の始まり明治維新を洞察したドラッカーは,自著で『知識こそ資源である・・・教育そして教育によってえられる知識こそが,今日の世界の経済的発展と軍事力の基礎をなしている。つまり,知識は今日の基礎資源なのである。ここでわれわれは,日本人の祖先が百年も昔に,この事実を知っていたということを思い起こす必要がある』(ドラッカー経営哲学.1959,p.203-4)と指摘して,維新を担った人びとの見識の高さを称揚した。
企業経営における知識の重要性は,その後,野中郁次郎氏等のナレッジ・マネジメントに継承されることになる。いずれも日本の企業経営研究の賜物であり,弊誌でも特集してきた。企業活動における情報収集や提供の体制は,時代の流れに影響されながらも着実に企業活動を支え,当協会と弊誌の活動を力強く支援していただいた。その弊誌が本号で60巻を迎え,感慨深いものがある。
戦後から半世紀を経て,世界経済は未曾有の経済不況に見舞われ,復活すべく活動が営々と続く。その中心的な役割を地道に担い,知財管理センターなどさまざまな名称に変化しているが,企業活動のエンジンであることに変わりはない。近年電子情報資源の導入で企業図書館の情報サービス体制が革命的に変化しており,厳しくもその素顔の一面をご紹介願うことにした。
本特集は年頭の刊行でもあり,日本を含めたグローバル経済が不況を脱する中心として企業情報活動の現状を,業界ごとにご執筆いただき,相互に刺激いただき,経済の復活にも弾みがつけば,との願いを込めて平素のご愛読に感謝したいという編集関係者全員の合意で企画した。企業風土をじかに知りえる一面でもあり,今後企業図書館で活躍したい次世代の方々を含めて,多様な読者諸賢の知的再生産をお手伝いできれば幸いである。末筆ですが,皆様のますますのご活躍を念じております。
(会誌編集担当委員:松林正己(主査),鈴木努,野田英明)
高山 正也*
*たかやま まさや 国立公文書館
〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園
Tel. 03-3214-0621(原稿受領 2009.12.1)
図書館の沿革は遠く古代国家成立時にさかのぼることができる。古代国家が成立し,その統治行為を遂行するにあたって,必要な基礎的要件の一つが統治行為遂行のための情報の集積であった。このことは古代国家も近代的経営組織も変わりはない。この観点に立てば,現代の企業内図書館が,公共的図書館の特性に捉われるのではなく,企業のガバナンスに貢献する図書館を目指さなければならない。このような問題意識の下,企業内専門図書館では収集対象となる情報資料には出版物のみならず各種の業務文書を加えたり,提供する情報には付加価値を加えたインテリジェンス・サービスの必要性を企業組織のガバナンスの観点から提唱する。
キーワード: 専門図書館,アーカイブズ,組織統治,業務記録,情報分析,ドクメンテーション,インテリジェンス・サービス
宮宗 和彦*
*みやそう かずひこ 清水建設梶@情報システム部
〒105-8007 東京都港区芝浦1-2-3
Tel. 03-5441-0027 (原稿受領 2009.10.27)
清水建設鰍フ業務系システムの開発は一段落し,情報セキュリティ,内部統制,デジタル情報などの基盤整備に取り組んでいる。情報化(以下IT)の整備状況は各企業間で突出した差異はなく,ナレッジとして活用できる情報の蓄積量と,それを業務に活かせるリテラシが企業の競争力を左右する時代となってきている。これまで扱うことが困難だった大容量データや非構造化データが,ITの進歩により既存のデータベースと連携できるようになり,情報の蓄積/活用に拍車がかかってきた。その効果はまだ顕著ではないが,それを達成した時,飛躍的な企業競争力の向上が期待できる。
キーワード: 非構造化データ,CPD,デジタル情報整備,情報リテラシ/内部統制
佐藤 和代*
*さとう かずよ アサヒビール(株) 知財戦略部
〒130-8602 東京都墨田区吾妻橋1-23-1
Tel. 03-5608-5153(原稿受領 2009.10.22)
企業におけるライブラリーサービスは,電子ジャーナルに代表されるインターネットを通じた情報流通の拡大に伴い変化し,従来の資料の保管・管理から情報の流通をマネジメントする機能へと変化している。このライブラリー部門にもとめられる機能の変化について,アサヒビール褐、究開発センターにおける運営の事例とともに,2008年に実施したライブラリー設計のコンセプトを紹介する。新ライブラリーは建物の吹き抜け部分への移動であったため,書架の配置などデザイン的に制約が多かったが,「オープンな図書室」をコンセプトに,調査研究とコミュニケーションを両立できるスペースを提案した。また,これからのライブラリー機能に必要とされる機能について,現在進行形の取り組みについても述べる。
キーワード: 専門図書館,図書館運営,図書館デザイン,電子ジャーナル,エンドユーザー検索,事例研究
小山 孝一*
*こやま たかいち (株)フジテレビジョン ライツ開発局 メディアバンク推進部
〒135-0091 東京都港区台場2-4-8
Tel. 03-5500-8983 (原稿受領 2009.10.22)
放送番組はその時代で最新の媒体を使ってきており,テレビ番組のアーカイブも放送された媒体に合わせて保存されてきた。テレビにおけるアーカイブの歴史は短いが,番組媒体の種類はフイルムから磁気のビデオテープ,ディスク等,いろいろな媒体で保存されてきた。放送形態の変更があると,古い素材を新しい媒体へ変換しなければならず,この作業は繰り返されている。2000年からは徐々にデジタル化が進み,デジタルアーカイブの導入により,保存される番組もファイル化され,社内のLocal Area Network(LAN)を利用して保存された番組の検索,閲覧ができるようになった。
キーワード: デジタルアーカイブ,ビデオテープ,MXFファイル,LAN,メタデータ,サムネイル
大鍋 千香子*
*おおなべ ちかこ 名古屋アメリカンセンター・レファレンス資料室
〒450-0001 名古屋市中村区那古野1-47-1 名古屋国際センタービル6F
Tel. 052-581-8641(原稿受領 2009.10.15)
名古屋アメリカンセンター・レファレンス資料室は,米国政府のパブリック・ディプロマシーの担い手として世界中に設置されているインフォメーション・リソース・センターの1つであり,名古屋米国領事館広報文化交流部に属している。米国への理解を促進するという役割のもと,従来より核となっているレファレンスサービスに加え,情報環境の変化に対応して,新たな試みとしてのアウトリーチ活動を積極的に行っている。本稿では,レファレンス資料室の概要と活動について紹介すると共に,よりよいサービスを提供するためのサポート・協力体制について説明する。
キーワード: パブリック・ディプロマシー,レファレンスサービス,アウトリーチ,協力,場所としての図書館
宮内 洋一*1, 若杉 茂*2, 島崎 憲彦*2
*1みやうち よういち
アステラス製薬梶@研究推進部情報管理グループ
*2わかすぎ しげる,しまざき のりひこ
アステラスビジネスサービス梶@研究支援センター
〒174-8612 東京都板橋区蓮根3-17-1
Tel. 03-5916-5302
(原稿受領 2009.11.11)
アステラス製薬鰍ノおける,学術情報支援サービスの現状について紹介する。国内では研究所を中心とする拠点のR&D関連部門を対象に各種の学術情報支援サービスを提供している。また,海外3拠点にあるLibraryの担当者ともGlobal Library Meeting等を通じて協働関係を構築し,電子ジャーナルや競合他社情報データベースのグローバルサービス展開など,世界的な視点でサービスの向上および予算活用の効率化を図っている。今後の課題として,学術資料電子化の時流に乗った対応,ユーザ業務を理解した上での情報サービス業務構築と人材の育成,サービス継続に必要な予算の確保等が考えられ,今後も継続して取組んでいく。
キーワード: 企業図書館,グローバル協力,グローバル契約,情報サービス運用,電子化への対応