「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 59 (2009), No.7

特集=「情報リテラシー」

特集 :「情報リテラシー」の編集にあたって

 7月号では情報リテラシーをテーマに特集を企画しました。すでに使い古した感のある「情報リテラシー」という言葉ですが,正確に理解し実践することは決して簡単ではありません。Google検索が一般的になり,専門的なデータベースも直感的に利用可能なインターフェースが広く受け入れられる一方,情報の質を判断し,それを活用するスキルを磨くことはますます重要となっています。そのような背景から,情報リテラシーとは何か,リテラシー教育において不可欠なものは何かを再認識し,プロフェッショナルとして情報検索を指導する際に抑えておくべき基本的な観点や,情報リテラシー教育における工夫について各方面の方々に執筆いただきました。
(なお,特集テーマのひとつとして,企業によるインターネット研修の記事を取り上げています。全体構成の中で必要な事例紹介として編集部から依頼したものであり,できるだけ客観的に,宣伝色を抑えた形でインターネット会議による研修手法を紹介しています)。
(会誌編集担当委員:広瀬容子(主査),小山信弥,吉田幸苗)

情報リテラシー教育とは何か:そのアプローチと実践について

瀬戸口 誠
せとぐち まこと 梅花女子大学文化表現学部
〒567-8578 大阪府茨木市宿久庄2-19-5
Tel. 072-643-6221(代表)(原稿受領 2009.4.30)

 大学図書館および図書館員がどのように関わっていくべきかという観点から,情報リテラシー教育におけるアプローチの意味について検討する。情報リテラシー教育におけるアプローチを,スキル志向と利用者志向という2つのアプローチに分けて,@情報リテラシーを捉える視点の所在,A前提事項,B学習成果という観点からそれぞれの特徴を抽出する。今後の情報リテラシー教育を構想するに当たって,両アプローチを組み合わせることで,図書館員と教員の連携に対して有効な視座を提示することを指摘する。

キーワード: 情報リテラシー教育,情報リテラシー,アプローチ,大学図書館,図書館員

ユーザ理解のために:学部生情報検索授業の現場から

中島 玲子
なかじま れいこ 慶應義塾大学文学部非常勤講師
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
(原稿受領 2009.4.30)

 近年の情報検索システムの性能向上とインターネットアクセスのコスト低下は著しく,システム固有のコマンドや操作の習熟の必要性は低くなった。エンドユーザは検索に関する専門知識を持たなくても自由に検索できるようになったが,反面,自己責任において情報を評価・選別し,情報技術の変化に順応することが求められている。筆者は約10年前から複数の大学で学部生向けの情報検索と情報リテラシー教育に携わってきた。彼らはネット世代といわれるが,必ずしも学術情報の検索に長けてはおらず,学生間のデジタルデバイドも存在する。学部生情報検索授業の現場からの報告として,彼らの情報検索活動を解説し,授業での取り組みの一端を紹介する。

キーワード: 情報検索演習,情報リテラシー,デジタルデバイド,情報検索行動,学部生,ネット世代,ケータイ世代

情報リテラシーとラーニング・コモンズ:
 日米大学図書館における学習支援

小圷 守
こあくつ まもる 立教大学図書館 利用支援課
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
Tel. 03-3985-2801(原稿受領 2009.4.30)

 大学図書館における学習支援は,単なる文献検索にとどまらず,学習環境としての図書館のあり方,レポート・論文作成支援や著作権理解にまで議論が広がっている。また,米国大学図書館におけるラーニング・コモンズや日本の大学図書館における先行の取り組みは,大学における学生の情報リテラシー獲得のための支援にまで発展している。本稿では,大学図書館における学習支援のあり方や学習環境モデルを日米大学図書館の事例を交えて紹介する。最後に筆者が勤務する大学図書館における情報リテラシー獲得のための支援を紹介するとともに,今後の大学図書館のあり方,特に図書館における学習支援について論じる。

キーワード: 情報リテラシー,図書館,学習,教育施設,ラーニング・コモンズ,ライティング・センター

アメリカの大学図書館における情報リテラシー教育活動
 〜ハーバード大学等の事例から〜

江上 敏哲
えがみ としのり 国際日本文化研究センター資料課
〒610-1192 京都市西京区御陵大枝山町3-2
Tel. 075-335-2066(原稿受領 2009.4.28)

 筆者は2007年3月から1年間,研修としてハーバード大学イェンチン図書館に滞在した。研修期間中に見聞したハーバード大学,マサチューセッツ州立大学アマースト校,その他のアメリカの大学図書館におけるオリエンテーションや講義をもとに,情報リテラシー教育活動の事例について報告する。また,日米間に違いがあるかどうかについて考察する。日米とも同様の課題を抱えていること。その一方で,web技術やデジタルメディアの活用,コミュニケーションの形成の仕方に違いがあること,等。

キーワード: 情報リテラシー教育活動,ハーバード大学,マサチューセッツ州立大学アマースト校

エンドユーザの情報リテラシー教育:インターネットを使った研修

矢田 俊文
やた としふみ トムソン・ロイター
〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1
Tel. 03-5218-6539(原稿受領 2009.5.13)

 インターネット会議システムを使ったエンドユーザに対する新しい講習会の形式「インターネット講習会」について報告する。2008年にトムソン・ロイター日本事務所では,Web of Science?の講習会をインターネット上で50回開催し,延べ,1300人が参加した。参加者の36%が研究者で,33%が図書員,22%が学生だった。また参加者の約50%は大変満足もしくは満足と回答した。急激に増えたエンドユーザに対し,インターネット講習会は,エンドユーザに必要なリテラシー教育を必要な時に提供できる待望の方法である。

キーワード: インターネット講習会,インターネット会議システム,エンドユーザ教育,Web of Science,学術データベース

NII「学術情報リテラシー教育担当者研修」の取り組み

小陳 左和子
こじん さわこ 元:国立情報学研究所学術基盤推進部基盤企画課(〜2009.3)
〒980-8576 宮城県仙台市青葉区川内27-1
Tel. 022-795-5931(原稿受領 2009.5.13)

 国立情報学研究所(NII)では,大学等において日本の学術情報基盤を支える人材の育成に取り組むため,教育研修事業を行っている。その一環として,大学図書館等職員のための「学術情報リテラシー教育担当者研修」を実施している。この研修は,大学図書館からの要請を受けて企画したもので,2003年度の試行開催を経て,2004年度から正式に開始して5年が経過した。これまでの5年間で,大学図書館等における学術情報リテラシー教育の動向を踏まえながら取り組んできた研修内容を概括するとともに,今後の課題や展望についても触れる。

キーワード: 学術情報リテラシー教育,図書館利用教育,情報検索教育,大学図書館,国立情報学研究所,教育研修事業

連載:オンライン情報検索:先人の足跡をたどる(16)
CAS ONLINE導入の頃

渡壁  正
わたかべ ただし
〒755-0024 宇部市野原1-2-34
(原稿受領 2009.4.27)

 1950年代後半の宇部興産株式会社における電算機を利用した情報活動のはじまりから,1970年代のCA Condensatesの化学情報磁気テープの社内活用,JOIS,DIALOGなどのオンライン情報検索の利用開始,1980年のCAS ONLINEの導入やCASのユーザーカウンシルの思い出などについて紹介する。

プロダクト・レビュー:SciVal Spotlight(サイバル・スポットライト)
戦略的な研究活動計画の策定を支援するソリューション

石川 剛生
いしかわ ごうき エルゼビア マーケティング部長(アジア太平洋地域統括)
〒106-0044 東京都港区東麻布1-9-15 東麻布一丁目ビル4F
Tel. 03-5561-5087 (原稿受領 2009.5.7)

 研究活動を取り巻く環境の複雑化に伴い,国,大学の規模を問わず,各大学では,今後の研究活動のあり方を巡り,大学の学長,理事の方々は日々頭を悩ませている。「今後どの研究分野を強化すべきか」「どの分野に資源を注力すべきか」等。日本,アジアのみならず,世界的な傾向として見られる。エルゼビア社では,これらの悩みの解消を多少でも支援すべく,新たなツール:SciVal Spotlight(サイバル・スポットライト)を開発した。SciVal Spotlightの主な特徴は何か。どのような機能があるのか。Scopus(スコーパス)との違いは何か。本稿では,具体例を挙げながら, SciVal Spotlightの特徴を紹介する。

キーワード: 戦略的,研究活動計画,資源配分,SciVal Spotlight,サイバル・スポットライト,Scopus,スコーパス,大学ランキング
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