「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 59 (2009), No.1

特集=「e-Researchと学術出版」

2009年 年頭のご挨拶

社団法人 情報科学技術協会
会長 立花 肇

 明けましておめでとうございます。
 2009年のスタートにあたり,一言ご挨拶申し上げます。
 アメリカの不況が,世界中にその影響を及ぼしておりますが,この困難時こそ,私達情報プロフェッショナルの知恵と技術を,十二分に発揮できる機会ではないでしょうか。
 当協会では今年も昨年同様に,活動基盤の整備,新入会員の拡大,セミナー,会誌,シンポジウムなどを通して,情報活動をより一層推進して行く所存ですので,各委員会および会員各位のご協力をお願いいたします。
 これまで会員の皆様からご要望の強かった「知的財産関連情報」に関する活動も,2008年度には本格的に取り組みを始め,当協会の活動の中で大きな柱となりつつあります。
 公益法人制度に関する取り組みは,当面新制度への移行に関わる諸問題について,識者のご意見を伺うなどすでにスタートしており,今年は他の法人の対応動向を調査するなど,積極的に進めていく所存です。
 本年も,以下のような事業を中心に活動して参りますので,積極的なご参加,ご協力をお願いいたします。
 会誌「情報の科学と技術」は,情報科学をめぐる最新の話題やニュースをお届けしており,会員の研究成果を発表する場でもあり,今年も読者のご要望にお応えして価値ある情報をお届けしたいと思います。
 情報検索能力試験は,おかげさまで「基礎能力試験」および「応用能力試験2級」のテキストがご好評をいただき,受験者も増加しております。今年も11月に実施する予定ですので,大勢の方の受験をお待ちしております。
「情報プロフェッショナルシンポジウム」は,昨年第5回を,独立行政法人科学技術振興機構(JST)と共同で開催いたしました。多数の方にご参加いただき,多くの発表がありました。初めての試みとして,「プロダクトレビュー」という名でデータベース提供機関を集めた説明会を行いましたが,「データベース TOKYO」に代わるものとして好評を得ました。今年も11月に第6回を開催する予定ですので,大勢の方に参加していただきたく思います。
 研修会・講習会(セミナー)は,それぞれ時機を得たテーマで東京地区および大阪地区で開催いたしますので,新人教育や自己研鑽の場としてご活用いただきたいと思います。
 研究会活動としては,SIG,OUGの活動を中心に,今年も活発に進めて参ります。
 今年も会員の皆様,関係各位の大いなるご活躍を祈念し,年頭のご挨拶といたします。

特集 :「e-Researchと学術出版」の編集にあたって

 今号ではe-Researchと学術出版を特集テーマに取り上げます。
 e-Researchは単に文献検索だけでなく,研究活動のあらゆるフェーズが電子化と関わっていることを意味します。例えば,それは先行研究の調査,文献の管理やオンラインでの論文出版,出版後の研究成果のプロモート,さらなる研究資金を獲得する活動などに見ることができます。
 今回の特集では,人文社会科学系の研究分野の動向や,スモールサイエンスと呼ばれる数学分野のe-Research,大学図書館における研究戦略,学会やベンダーの取り組みなど,様々な切り口によるe-Researchを各方面の専門家に論じていただきました。
(会誌編集担当委員:広瀬容子(主査),深澤剛靖,松林正己)

日本における人文系e-リサーチの展望

村上 祐子
むらかみ ゆうこ 東北大学
〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3
Tel. 022-795-5715(原稿受領 2008.11.28)

 e-リサーチとは,電子データをネットワークを介して共有し,シミュレーションなどの処理を行って新たなデータを得ることによって,理論を展開する科学研究の方法論である。理工医薬系が主たるフィールドであるように思われているが,人文社会系でも研究データの共有から新たな検索ツールの開発,またGIS など,さまざまな試みが行われている。小論では,日本国内での例をとりあげ,今後の展開を予想するとともに,学術図書館の役割を再考する。

キーワード: e-リサーチ,最先端学術情報基盤,人文社会科学の方法論,学術データ共有,編集

数学におけるデジタルライブラリーとe-Scienceの接点

行木 孝夫
なみき たかお 北海道大学大学院理学研究院数学部門
〒060-0810 札幌市北区北10西8
Tel. 011-706-4439(原稿受領 2008.10.20)

 数学という典型的なスモールサイエンスにおいては,通常の意味でのe-Scienceと同時に,過去から連綿と蓄積された研究成果自体をe- Scienceの対象とすることが有意義であると考えられる。デジタルライブラリーとしてのアーカイブは数式を含めてテキスト情報を保持しうる。研究成果への到達手段とともに,過去の成果を現在の視点から再点検し,ソフトウエアへのインターフェースを提供できれば,周辺領域との相互作用を誘発することも可能であろう。このような形は基礎科学に対するe-Scienceの一つのあり方になると考える。

キーワード: 数学,デジタルライブラリー,e-Science,スモールサイエンス,ソフトウエア,インターフェース

岐路に立つ国産英文電子ジャーナル

林 和弘,太田 暉人
はやし かずひろ,おおた てると
日本化学会 学術情報部
〒101-8307 東京都千代田区神田駿河台1-5
Tel. 03-3292-6165(原稿受領 2008.11.07)

 理工医学系の学術論文誌を中心に電子ジャーナルが浸透したが,電子ジャーナル化が日本の論文誌にどのような結果を与えたかを,日本化学会論文誌の電子化のこれまでを総括しながら述べる。電子ジャーナル化によって出版期間短縮など一定の成果は出たものの,論文誌の根本的な評価の改善には至っていない。また,国産電子ジャーナルを取り巻く様々な環境の変化によって,日本はグローバル化の中でアジアのイニシアチブを実際に取らなければならない状況にある。そして,研究者にとって国産ジャーナルの在り方が改めて問われている状況にあることを述べる。

キーワード: 電子ジャーナル,J-STAGE,SPARC JAPAN,アジア誌,学会,商業出版者,オープンアクセス,国産英文誌

研究者情報との連携による機関リポジトリの戦略的発信
−信州大学の取り組み−

岩井 雅史,後閑 壮登
いわい まさし,ごかん まさと
信州大学附属図書館システム/コンテンツ形成担当
〒390-8621 長野県松本市旭3-1-1
Tel. 0263-37-2185(原稿受領 2008.10.27)

 信州大学では,機関リポジトリを大学・研究者の視認性向上の手段としてより効果的・戦略的に活用するため,機関リポジトリと研究者総覧とを連携させたシステム「SOAR」を開発して運用を行ってきた。同システムはシステム同士をリンクでつなぎ,閲覧者が多くの情報を簡単に入手できるような設計とすることで,その第一の目標である研究者の視認性向上の実現を狙っている。またデータの一元管理を可能とすることで,研究に付随するデータ管理の負担軽減も目指している。本稿では信州大学のこれまでの取り組みと今後の戦略および発展の方向性について述べる。

キーワード: 機関リポジトリ,研究者総覧,業績データベース,システム間連携,CSI事業,業績評価

研究者ワークフローと論文情報

堀切 近史
ほりきり ちかし トムソンコーポレーション(株)(トムソン・ロイター・グループ)
〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル5階
Tel. 03-5218-6500(原稿受領2008.10.27)

 研究活動に関する様々な情報を電子的に扱う「e-Research」が一般的になった現在,研究者ワークフローにおいて,電子化した論文情報が多面的に活用されるようになっている。「研究戦略の立案」「研究成果の周知」「研究成果の評価」などの活動を,電子化した論文情報を土台としてより効果的に進めようとする取り組みだ。論文情報はすでに,様々な情報と有機的に結びつき,新たな付加価値を生み出し始めている。学術情報を扱う図書館は,研究者ワークフローにおいて学術情報をどう活用するかの指針を示す新しい役割が求められるようになってきた。

キーワード: 研究者ワークフロー,学術論文,電子化,図書館,論文データベース,研究戦略,研究評価

投稿:大学発特許のデータベースによる分析
−大学からの特許出願・特許取得状況−

高ア 秀美*1, 都築 泉*2
*1たかさき ひでみ 元:大阪工業大学大学院 知的財産研究科
*2つづき いずみ 大阪工業大学大学院 知的財産研究科
〒535-8585 大阪市旭区大宮5丁目16番1号
Tel. 06-6954-4163(原稿受領 2008.10.21)

 大学から多く特許出願・権利化されている分野とその傾向,特許化率,審査請求率を,特許情報データベースを用いて分析した。技術分野に着目した分析結果から,他大学からの出願が比較的少なく,その大学独自の分野での出願は特許化率が高いこと,出願件数の多さは大学全体の出願・研究分野ごとの出願にかかわらず必ずしも高い特許化率に結び付かないことが判明した。さらに,審査請求率・特許化率・事業化の状況等を勘案することにより,大学の知的財産に対する取り組み段階を知ることができた。今回の調査結果は,大学にとって,知的財産活動の現状分析,自己評価および今後質の高い特許を生み出すための知財戦略の有益な検討材料になると考える。

キーワード: 大学,特許,知的財産,特許化率,知財戦略

投稿:「ポッドキャスト@千葉大図書館」の構築
−ポッドキャストによる図書館セルフガイドの作成−

鈴木 宏子,米田 奈穂,岩井 愛子,中村 澄子,斎藤 友理
すずき ひろこ,よねだ なほ,いわい あいこ,なかむら すみこ,さいとう ゆり
千葉大学附属図書館リエゾン・ライブラリアン・プロジェクトチーム
〒264-8522 千葉市稲毛区弥生町1-33
Tel. 043-290-2269(原稿受領 2008.10.15)

 ポッドキャストは,Web上で音声や画像を配信する仕組みとして企業や教育分野で注目を集めており,携帯音声端末の普及とも併せて今後の伸展が期待されている。千葉大学附属図書館では,このポッドキャストを利用して図書館セルフガイド等のコンテンツの発信を開始した。このことについて企画製作の経緯,ブログサイトの構築,コンテンツの製作,その利用状況について報告する。

キーワード: ポッドキャスト,iPod,携帯オーディオ端末,情報発信,図書館ガイド,多言語ライブラリーセルフガイドツアー,リエゾン・ライブラリアン

連載:オンライン情報検索:先人の足跡をたどる(10)
Derwent社オンラインデータベースについての回想

大槻 望
おおつき のぞみ 日本技術貿易(株)
〒105-8408 東京都港区西新橋一丁目7番13号 虎ノ門イーストビルディング
Tel. 03-6203-9111 (原稿受領 2008.10.21)

 Monty Hyams氏は1951年にBritish Patents Reportを発刊し,その後Belgian Patents Reportを発行した。1970年に開始されたCPIは特許分野では最も高度に洗練されたドクメンテ−ションサービスであった。パンチカードの960ポジションを利用したフラグメンテーションコーディングはPeter Norton氏によって開発された。同コーディングシステムはニューケミカルコードへと発展した。Derwentオンラインデータベースサービスは 1976年に開始された。Derwentオンラインデータベースは当初24特許発行機関を収録対象として開始され,現在では40カ国・機関を収録している。Derwentデータベースは1976年にSDC-ORBIT上で利用できるようになったが,日本のユーザーが最初にそのデータベースに接続できたのは,1979年12月にSDC-Jで該データベースが利用できるようになってからである。現在はDIALOG,QUESTEL-ORBIT,STNで利用可能である。

キーワード: Derwent,Monty Hyams,Peter Norton,CPI,WPI,特許データベース,対応特許,フラグメンテーションコード,英文抄録,Markush DARC,日本技術貿易株式会社
ページの先頭へ Copyright (C) 2009 INFOSTA. All rights reserved.