Vol. 58 (2008), No.10
少子高齢化と地域的な経済格差に連動した<公共財>としての税収不足が,公共図書館や大学図書館の経営を圧迫することを予想して本特集を企画した。企画案検討に先行して,夕張市の財政が破綻し,市立夕張図書館が閉鎖された。日本の図書館経営も海外並みに財政危機が図書館を直撃した現実である。特集の目論見は,今眼前にある危機すら防げない日本の社会構造を見直すためである。図書館は,人々を自立させる社会教育機能が基本であり,不可欠な存在のはずだ,という基本的な理解があるならば,図書館が減るのを防がねばならない。
本特集はアメリカの事例で構成されている。アメリカ以外にも図書館の資金調達(資金運用を含める)の事例はあるが,動向をレビューするには北米に多数の実績があり,関連する文献の入手が容易で,社会,文化的背景が理解しやすいと判断した。
最初に,資金調達を中心に長年研究されている福田都代氏に北米での俯瞰的な動向をレビューしていただいた。各論では,依田紀久氏に現在留学中の地元ピッツバーグ・カーネギー図書館での実情をインタビューなど様々な調査を経た濃密な議論を展開いただいた。続いて竹内秀樹氏には全米での図書館資金調達動向をマクロな観点から分析いただいた。資金調達にはもちろん資金提供者としての財団の活動が重要であり,その動向を金谷信子氏は図書館関係財団に絞り込んで,詳細な動向分析をお願いした。アメリカの事例の最後として,アメリカの大学図書館における資金調達活動の動向を梅澤貴典氏に報告いただいた。内容的には重複する面もあろうが,学習には反復が必須であり,ご海容願いたい。
国内ではPFIという手法が導入された公共図書館(桑名市)もすでに存在し,3年目を経たので行政評価の立場から寄稿をお願いし,今後の可能性を検討いただいた。
日本でも,企業図書館を除けば公私を問わず,寄付等による資金調達方法を拡充,展開する必要性があろう。実現するには,さらなる税制改革やPRが必要かもしれないが,本特集では対象から外した。また西町インターナショナル・スクール(麻布)はアメリカ方式のEndowment Fundによる資金調達で新館を昨年8月に竣工させ,運用して学校図書館も実在する。
私立を除けは,図書館は公共財(図書館は厳密には準公共財である)による公共サービスが基本である。図書館サービスを継続的に展開するための資金調達法を豊かにすることで,未来に残す知的遺産としての図書館経営を充実させることを目的に,本特集を批判的に検討いただければ幸いである。
(会誌編集担当委員:松林正己(主査),木下和彦,広瀬容子,野田英明)
福田 都代*
*ふくだ いくよ 北海学園大学
〒062-8605 札幌市豊平区旭町4丁目1番40号
Tel. 011-841-1161(原稿受領2008.7.17)
日本の図書館は大半が親組織からの財源に依存している。しかし,近年の経済状況の悪化は資料費や人件費を含む図書館の予算削減を招いている。予算削減への対策として,代替的な財源を外部に求める図書館はまだ少ないが,多様なサービスを提供するために,追加財源の確保は重要な課題である。アメリカの図書館は図書館友の会組織や図書館財団などを通じて,個人や財団からの資金を調達してきた。インターネットを使ったネット募金方式が導入された1990年代以降,図書館の資金調達活動はますます活発になりつつある。本稿では図書館における様々な資金調達方法を提示し,積極的に資金調達活動を実践しているアメリカ図書館界の動向を概説し,日本の図書館における資金調達の可能性を考察する。
キーワード: 図書館財政,資金調達,寄付,基金,図書館友の会,図書館財団,図書館アドヴォカシー
依田 紀久*
*よだ のりひさ ピッツバーグ大学情報学研究科図書館情報学専攻
700 North Highland Avenue Apt 315 Pittsburgh, PA, 15206-2552, USA(yoda@ndl.go.jp)
(原稿受領 2008.7.23)
本稿は,近年漸進的な変化を遂げつつある米国図書館の経営の実態の理解を目的とするものである。ピッツバーグ公共図書館にスポットライトをあて,全国的な動向を意識しながら,事例報告という形でその経営を調査した。このピッツバーグ公共図書館の事例分析から見えてきたものは,公共図書館経営の,1)複線性,2)戦略性,3)科学性という3つのキーワードである。すなわち,米国の図書館の経営は,1)様々な資金調達方法を組み合わせた複雑なものであること,2)それを実現させるために専属の部局が設置され館全体のサービスやプロジェクトを資金調達に向けて戦略的に組み立てていること,3)経験が蓄積され理論・実践とも深まりをみせていること,特に資金調達の科学的手法が実証されつつあること,が明らかになった。
キーワード: 図書館経営,資金調達,ファンドレイジング,助成金,フィランソロピー,ピッツバーグ,公共図書館
竹内 秀樹*
*たけうち ひでき 国立国会図書館
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331(原稿受領 2008.8.18)
米国公共図書館を対象として,財務のマネジメントの観点から,特に資金調達の動向を中心に,その経営基盤を巨視的に概観した。公的セクターと民間セクターの双方から資金調達を行う,米国公共図書館の多元化された財政基盤の現状を示し,その意義を考察する。
キーワード: 公共図書館,米国,図書館財務,資金調達,図書館経営,寄付,図書館財団,図書館友の会,経済効果,官民協働
金谷 信子*
*かなや のぶこ 広島市立大学国際学部
〒731-3194 広島市安佐南区大塚東3-4-1
Tel. 082-830-1540 nkanaya@intl.hiroshima-cu.ac.jp
(原稿受領 2008.7.23)
アメリカの助成財団は,企業家の資産を利用して,民間独自の発想に基づく多彩な公益目的の活動を,大規模かつ多彩に展開する機関であり,公共図書館に対しても様々な支援を行っている。本稿では,こうしたアメリカの助成財団の役割と図書館運営に対する支援の実態を概観し,財団と政府の公共政策の関係について考察する。
キーワード: 助成財団,アメリカ,図書館,公民パートナーシップ
梅澤 貴典*
*うめざわ たかのり 中央大学 職員
〒192-0393 八王子市東中野742-1 中央大学文学部事務室
Tel.042-674-3715(原稿受領 2008.7.22)
アメリカの大学図書館においては寄付金など外部からの資金調達がたいへん重要な活動で,高度な教育研究支援を支えている。
本稿では,これから日本で資金調達をおこなう上での布石となるように,アメリカにおける重要な要素(歴史・宗教的背景と寄付文化・税制優遇措置・資金調達者としての図書館長・専門団体・寄付者情報の蓄積管理・図書館司書の高度な教育研究支援能力・アドヴォカシー活動)を挙げ,日米間の相違点と,日本に応用する上で注意すべき点を述べる。
キーワード: 寄付,資金調達,ファンドレイジング,税制優遇,寄付者,教育研究支援
藤江 昌嗣*
*ふじえ まさつぐ 明治大学経営学部
〒336-0024 さいたま市南区根岸5-8-17
Tel. 048-866-2957(原稿受領 2008.7.24)
日本初の図書館PFI事業「桑名市立中央図書館」を取り上げ,PFIによる図書館経営としての評価を試みた。BOT方式という施設建設後も,所有権を移さず管理・運営を図書館専門サービスのノウハウを持つ企業に任せる方法を選択している点,また,事前に行政の要求水準を実現するべくデザイン―いわゆるデザイン・イン―していった特殊な例として桑名市立図書館の経営は評価できる。財務情報を共有し,図書館を含む複合施設全体のパフォーマンスとリスクを明らかにするとともにリスクを最小化する具体策を講じ,地域のコアとなる図書館を継続的,安定的に「経営」するという高い意識での精緻な分析が今後とも大変重要なものとなる。
キーワード: PFI,特定目的会社(SPC),BOT,サービス購入型,ICタグ,図書館経営
三浦 勲*
*みうら いさお 元株式会社 紀伊國屋書店
〒185-0003 東京都国分寺市戸倉3-18-3
Tel. 042-573-7833(原稿受領 2008.06.17)
日本の商用情報検索サービスは,1972年に始まった。しかしながら,オンライン情報サービスは,通信回線の規制により1980年にならないと開始されなかった。本稿では,こうした状況のなかでDIALOGサービスが開始された経緯およびなぜ日本でこのサービスが極めてスムーズに普及することができたのか,それには長年情報検索サービスを行ってきた経験を持つ販売代理店の努力があったことをレポートしている。
キーワード: ダイアローグ,紀伊國屋書店,ASKサービス,オンライン情報検索,KDD,通信回線,学術情報