「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 58 (2008), No.8

特集=「Webアーカイビングの現状と課題」

特集 :「Webアーカイビングの現状と課題」の編集にあたって

 今月の特集ではWebアーカイビングを取り上げます。
 情報の発信や流通において,いまやWebを無視することはできません。グーテンベルクに次ぐ革命であると評する人もいます。Webの進展によって情報発信への壁はそれ以前と比べて極めて低くなったと言えるでしょう。
 Web上では簡単に情報が発信できるようになりました。今では多くの情報がWeb上で,そしてWebのみで流通するようになってきています。しかし,その情報は簡単に削除することもできてしまいます。たくさんの情報が生み出された反面,消えていった情報も多くあったでしょう。この数年の間にいくつのサイトが生まれ,そしていくつのサイトが消えていったでしょうか。
 Webアーカイビングは,そうしたWeb上の情報を保存しようという営みです。もちろんWeb上の情報は玉石混淆であるという議論もあります。しかし,玉も石も含めてこれが現代の情報活動の一端を表していることには間違いありません。これから先もWeb上で多くの情報が流通していくのだとすると,Web アーカイビングという営みの歴史的な意味を考えざるをえません。
 Webアーカイビングについて,すでに諸外国では様々な取り組みを行っています。本特集では,グローバルな状況を視野に入れつつ,Webアーカイビングがおかれている現状をレビューし,Webアーカイビングを進めることの意義や,進展に向けた課題についての理解を図る論考を集めました。
 皆様のご関心をいただければ幸いです。
(会誌編集担当委員:川瀬直人,野田英明,服部綾乃)

ボーンデジタル時代におけるウェブアーカイブとその活用基盤としてのSocio-Sense

喜連川 優,豊田 正史,田村 孝之,鍜治 伸裕
きつれがわ まさる,とよだ まさし,たむら たかゆき,かじ のぶひろ
東京大学 生産技術研究所 戦略情報融合国際研究センタ
〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1
Tel. 03-5452-6254(原稿受領 2008.6.10)

 ウェブアーカイブに関して,2008年1月23日国立国会図書館において開催された「ウェブアーカイビングの現在と展望―国際連携に向けて―」と題したシンポジウムで紹介されたインターネットアーカイブならびにヨーロピアンアーカイブの最新の動向に関して述べる。加えて,東京大学では,蓄積に加えて多様な分析・解析を目的とした『Socio-Sense』システムを開発してきており,その動機ならびに過去を遡るツールに関し,事例を用いて紹介する。ウェブアーカイブの多様な価値についても論ずる。

キーワード: ウェブアーカイブ,インターネットアーカイブ,ウェブ,クローリング,ブログ

ウェブ・アーカイビングと法

新保 史生
しんぽ ふみお 筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科
〒305-8550 茨城県つくば市春日1丁目2番地
Tel. 029-859-1336(原稿受領 2008.6.2)

 ウェブ・アーカイビングを実施するためには,法的に検討が必要な課題をクリアすることが前提条件となる。ところが,その実施にあたっては,著作権法上の課題,違法な情報や他人の権利を侵害する情報が掲載されたサイトを収集した場合の対応,個人情報保護法に基づく個人情報の適正な取扱いと保護,アーカイブに記録された情報の完全性および可用性の確保など,法的に検討しなければならない課題が山積している。
 インターネット上の情報は非常に揮発性が高い情報であるため,それらの情報の保存は極めて重要な課題となっているが,包括収集によるウェブ・アーカイビングの実現にあたって検討が必要な法制度上の課題を整理し,法的課題解決の方途を検討する。

キーワード: ウェブ・アーカイビング,アーカイブ,クローラ,著作権,人格権,プライバシー,個人情報,個人情報保護法,プロバイダ責任,情報セキュリティ

Webアーカイブの仕組みと技術的な特徴

原田 隆史
はらだ たかし 慶應義塾大学文学部 図書館・情報学専攻
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-3453-4511(原稿受領 2008.6.24)

 近年,文化の保存や学術情報の情報源の入手可能性の確保などを目的として,世界中でWebページを保存するWebアーカイブが構築されてきている。 Webアーカイブは,更新された過去のWebページの保存や,将来的な閲覧可能性の確保など,検索エンジンとは異なる技術が必要とされる。本稿では, Webアーカイブに関わる技術的な仕組みや,その課題について概説する。

キーワード: Webページ,デジタル・アーカイブ,Webアーカイブ,表層Web,深層Web,クローラー

世界のWebアーカイブ-IIPC(International Internet Preservation Consortium)を中心にして

柊 和佑,阪口 哲男,杉本 重雄
ひいらぎ わすけ,さかぐち てつお,すぎもと しげお
筑波大学図書館情報メディア研究科
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
(原稿受領 2008.6.10)

 現在,膨大な数のWebページが日々作成され,更新されている。一方,それに伴って消えるWeb情報資源の存在が問題となっている。そのため,様々な国の図書館が中心となり,Web情報資源を収集し保存するWebアーカイブの構築と運用に取り組んでいる。2003年より,Webアーカイブに取り組む組織が協調してInternational Internet Preservation Consortium(IIPC)を作り,共通の規格とツールの研究開発を行っている。本稿では,先進各国のWebアーカイブの現状について,IIPCを中心とした視点から解説する。

キーワード: Webアーカイブ,Web情報資源の保存,International Internet Preservation Consortium(IIPC),Webアーカイビングのための協調

海外動向との対比からみた日本のWebアーカイビングの課題と展望
−国立国会図書館の取り組みを通して−

武田 和也
たけだ かずや 国立国会図書館関西館電子図書館課
〒619-0287 京都府相楽郡精華町精華台8-1-3
Tel. 0774-98-1375(原稿受領 2008.5.21)

 日本においてWebアーカイビングの重要性が指摘されてから10年以上経過しようとしている。ところが,現実にはなかなか進展が見られないといってよいだろう。そのような現状をかんがみ,本稿では,まず,国立国会図書館が取り組んでいるWebアーカイブ事業の現状と課題を述べる。そして,わが国において Webアーカイブを進展させるためには,法制度に基づく包括的収集の実現を目指す一方,それを補うかたちで,運用面で他機関との協力関係を結びながら選択的収集を強化する必要があることを海外動向と比較しつつ論じる。

キーワード: Webアーカイブ,国立国会図書館,世界の動向,WARP,選択的収集,包括的収集,制度収集,連携・協力,公共図書館,地域資料

韓国における国家知識ポータルとオンライン・デジタル資料の納本制度によるWebアーカイビング

崔 錫斗*1, 田窪 直規*2
*1ちぇ そくどぅ 漢城大学知識情報学部
136-792 ソウル特別市城北区三仙洞3-389
*2たくぼ なおき 近畿大学司書課程・学芸員課程担当
〒577-8502 東大阪市小若江3-4-1 近畿大学21号館725号室
(原稿受領 2008.5.29)

 韓国には情報やドキュメンテーションを重視する社会的土壌があり,システム指向ではなく情報・ドキュメンテーション指向の情報システムが構築される傾向にある。同国では,自国に関するWeb情報資源を統合的に検索できるよう,国家知識ポータルというWebサイトが構築されており,また,これを保存・利用するために,Webアーカイビングが行われている。後者は,法律に基づく"デジタル資料納本制度"によって強力に推進されようとしている。前者については比較的問題は少ないが,後者については社会的問題など,解決すべき問題が残っている。

キーワード: 韓国,図書館情報学,ドキュメンテーション,国家知識ポータル,Webアーカイビング,Web情報資源,著作権,納本制度

連載:オンライン情報検索:先人の足跡をたどる(5)
NEEDS,日経テレコンの思い出

末吉 行雄
すえよし ゆきお 日経リサーチ
〒285-0858 千葉県佐倉市ユーカリが丘2-9-17
Tel. 043-462-7347(原稿受領 2008.4.22)

 1970年代から1990年代の30年間の日本経済新聞社の電子メディア事業を振り返る。70年代はNEEDSと呼ばれる専門家向け商品の開発が中心だったが,そのなかで,新聞記事のデータベース化は日本語というハンデも含め,前例のない取り組みだった。労多くして報いの少ない仕事でもあった。80年代にはいると,ネットワーク,パソコンの普及で,日経テレコンという一般向け商品が登場する。専門家から大衆向け商品への転換が起こり,料金の低額化とあいまって,記事情報は脚光を浴び始める。
 90年代はインターネット,WWWブラウザの登場で,ビジュアルな画面・映像を含む文字情報が主役の時代となった。

キーワード: NEEDS,日経テレコン,テレコン21,日本経済新聞社,日経,データバンク,IR,記事データベース,電子メディア,シソーラス
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