「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 58 (2008), No.7

特集=「レファレンス再考」

特集 :「レファレンス再考」の編集にあたって

 図書館に寄せられるレファレンス質問が減っているとの指摘があります。インターネットポータルサイトの質問ページでは,サイトの利用者であれば誰でも質問者・回答者の立場を取ることができます。
 図書館においてもデジタルレファレンスの導入は進んでいますが,このようなポータルサイトとの本質的な違いはどこにあるのでしょうか。例えば,使用する情報源の違い,回答者としての図書館員の存在などは信頼性につながっているのでしょうか。
 一方,質問数が減っているとの指摘と同時に,回答に時間を要する質問は増えているともいわれ,利用者のニーズの変化が伺われます。
 このような状況の中で,公共図書館におけるビジネス支援のように目的を特化した情報サービスも出現してきています。
 さらに,大学図書館におけるICTを前提とした学びの場「ラーニング・コモンズ」における学習支援などは,従来型のレファレンスサービスに再考を促す動きと思われます。
 インターネット検索の時代に求められるレファレンスサービスとはどのようなものかを考察してみたいと思います。
(会誌編集担当委員:大田原章雄,及川はるみ,加藤麻里,田中法子,深澤剛靖)

総論:レファレンス再考

田村 俊作
たむら しゅんさく 慶應義塾大学文学部
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5427-1222 (原稿受領 2008.05.13)

 レファレンスサービスの動向を概観し,サービスの内容に大きな変化が生じていることを指摘する。サービスの範囲と内容を教科書や業務分析の結果などから検討して,レファレンスサービスを@情報源,A情報探索とそのツール,B対人サービス,C管理的業務,D利用者の課題解決の援助,という5つの視点で定義することを提案する。

キーワード: レファレンスサービス,インターネット,大学図書館,公共図書館,課題解決支援

インターネット時代の"レファレンスライブラリアン"とは誰か?

安藤 誕*1,井上 真琴*2
*1あんどう まもる 潟Lャリアパワー 関西学術事業部
〒600-8216 京都市下京区塩小路通烏丸西入東塩小路町843-2 日本生命京都ヤサカビル4階
Tel. 075-341-2929
*2いのうえ まこと ?大学コンソーシアム京都 高等教育研究推進事業部(同志社大学所属)
〒600-8216 京都市下京区西院通塩小路下ル キャンパスプラザ京都
Tel. 075-353-9100
(原稿受領 2008.4.30)

 インターネット情報源の増大にともない,レファレンスサービスは変容の機を迎えている。情報源の紹介から,多様な情報源を総合的に活用し利用者の問題解決を支援する,より踏み込んだサービスに変わりつつある。また,従来の図書館のオントロジー(分類法,件名法,目録法など)に加え,ウェブ時代の新たな情報技術とそれが生み出すオントロジーを見据えたレファレンス対応が求められる。本稿は,現場での実例を挙げながら,今後のレファレンスライブラリアンに必要な能力要件を検証する。

キーワード: インターネット,レファレンスライブラリアン,レファレンスツール,レファレンス事例データベース,メタ思考,メタ認知,ソーシャルタギング,フォークソノミー,集合知,ウェブ2.0

図書館のビジネス支援サービスにおける「個人」と「組織」のスキルアップ

余野 桃子
よの ももこ 東京都立多摩図書館
〒190-8543 東京都立川市錦町6-3-1
Tel. 042-524-6428(原稿受領 2008.4.25)

 図書館のビジネス支援サービスの中でもビジネスレファレンスに焦点をあて,レファレンス事例の共有,情報発信,資格取得等の「個人」と「組織」のスキルアップに関わる具体的な方法を提示する。また東京都立図書館が行ったビジネスレファレンス通信講座や,ビジネス支援図書館推進協議会が毎年開催しているビジネスライブラリアン講習会を参考に,効果的な研修方法について考察する。最後に,今後ビジネス支援サービスを継続していく上で必要と思われる点についても併せて考察し,結びとする。

キーワード: ビジネス支援サービス,ビジネスレファレンス,レファレンス事例の共有,情報発信,資格取得,効果的な研修方法

ラーニング・コモンズの可能性: 魅力ある学習空間へのお茶の水女子大学のチャレンジ〜

茂出木 理子
もでき りこ 国立大学法人お茶の水女子大学図書・情報チーム
〒112-8610 東京都文京区大塚2-1-1
Tel. 03-5978-5833(原稿受領 2008.4.21)

 お茶の水女子大学附属図書館では,全学的な教育改革の動きに連動し,2007年4月に図書館内に新しく学生のための学習空間である「ラーニング・コモンズ」を設置した。本学にとって,ラーニング・コモンズは,「21世紀型文理融合リベラルアーツ教育」を象徴する場であり,学内の各部署が連携して運用すべき協働の場でもある。小規模な大学図書館が小規模だからこその利点を生かし,図書館が主体となった協働の場を推進するには,1.図書館がやる気があることを学内にアピールすること,2.できることからとにかく着手すること,3.学生を運用に巻き込むことがポイントである。

キーワード: ラーニング・コモンズ,キャリアカフェ,学習空間の創設,教育改革と大学図書館,リベラルアーツ教育

自動レファレンスサービスにむけて

増田 英孝*1,清田 陽司*2,中川 裕志*2
*1ますだひでたか 東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科
〒101-8457 東京都千代田区神田錦町2-2
Tel. 03-5280-3551
*2きよたようじ,なかがわひろし 東京大学 情報基盤センター 図書館電子化研究部門
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-2729
(原稿受領 2008.4.21)

 Web検索エンジンの利用は,今日の情報検索において中心的な役割を果たしている。しかし,膨大な検索結果からの有効な情報発見の困難さ,情報の信頼性欠如など様々な問題も存在する。これらの問題は図書館を利用することで補完可能である。しかし,図書館では情報の新鮮度に欠けたり,提供されている情報やリソースが利用者にわかりやすい形で整備されていないなどの問題もある。本論文では,Wikipedia,図書分類体系(書架分類法や件名標目表)を統合的に活用することで,Webを手掛かりとして図書館の有用な情報資源へと誘導する情報探索支援について述べる。

キーワード: Wikipedia,NDC,BSH,ontology,folksonomy,Web2.0,OPAC,情報探索,情報統合,図書館

連載:オンライン情報検索:先人の足跡をたどる(4)
特許情報広域検索システムとPATOLIS

川島 順
かわしま じゅん はやぶさ国際特許事務所
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町2-13-1 ノルン秋葉原ビル
Tel. 03-6303-3915(原稿受領 2008.5.8)

 日本における特許情報検索の研究は1960年代に特許庁審査機械化研究室により開始された。1971年日本特許情報センター(Japatic)が設立され,民間用にフリーキーワードを使用する特許情報広域検索システムが開発された。このシステムは1978年オンライン検索システムPATOLISに搭載されて急速に普及した。PATOLISの検索サービスも特定回線漢字オンラインから始まり,公衆回線カナオンライン,公衆回線漢字オンラインと発展した。一方,PATOLISの検索機能も改善され,PATOLIS-IIIでは漢字コードによる出願人名やフリーキーワードの検索が可能になった。

キーワード: 特許庁審査機械化研究室,特許情報,Japatic,Japio,広域検索システム,フリーキーワード,オンライン検索システム,PATOLIS,IPDL

投稿 国内におけるWeb上パスファインダーの現況調査

伊藤 白,小澤 弘太
いとう ましろ,おざわ こうた 国立国会図書館主題情報部科学技術・経済課
100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331 (原稿受領 2008.4.23)

 県立・政令指定都市立および一部の大学図書館のHPの調査およびアンケートによる調査を行い,国内に存在するWeb上パスファインダーの現況を分析した。結果,HPでWeb上パスファインダーを提供している図書館は約4割にとどまった。またそれらのパスファインダーには,分野による偏りも確認された。この状況の一因は,各機関における作成・提供体制が十分とはいえないこと,また図書館間の協力体制の効率化が徹底されていないことにあると考えられる。今後Web上パスファインダーをより発展させ,それによって人々の情報入手に寄与していくためには,棲み分け・リンク等による連携・協力体制の確立が必要である。

キーワード: オンラインパスファインダー,サブジェクトガイド,デジタルレファレンスサービス,主題情報,レファレンス協同データベース,パスファインダーバンク,図書館協力,国立国会図書館
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