Vol. 58 (2008), No.5
今号は,いつもの「情報の科学と技術」から少し外れた観点で特集を組んでみました。特集名は「ソフトウェア活用のススメ」としましたが,目指したのは図書館や情報検索の現場で役立つソフトウェアの紹介です。
またこの特集では,単なるソフトの紹介にとどまることなく,インフォプロの現場で役立ちそうなソフトウェアを使った活用法−例えば,マニュアル作成やデータの加工など−もあわせてご紹介してみたいと思っています。要はお金をかけることなく,仕事やサービスをより豊かにできる方法を「ソフトウェア」を通じて考えてみたいというのが,今回の特集の主旨です。また,ここでは,便宜的に「ソフトウェア」という名前を使っていますが,インターネットで提供されているサービスの活用も取り上げました。
世にパソコン雑誌はたくさんあり,ソフトの使い方についてもインターネットで探せばゴマンと出てきます。しかしながら,自分のこの仕事にぴったりあう,というような観点で書かれたものはほとんどありません。そのような,かゆいところに手が届く特集になればと思っています。
※今号の記事構成は次のようになっています。
A.序論
(1)ソフトウェア活用のための基礎知識
B.各論partT:業務効率化のためのフリーソフトウェアの活用事例
(1)フリーソフトを使った図解マニュアルの作成について
(2)日々の仕事を少し楽に:小粒で便利なフリーソフト
(3)フリーソフトによるテキスト処理入門
C.各論partU:利用者サービスのためのネットワークサービスの活用事例
(1)iGoogleガジェットを活用した図書館サービスの提供
(2)Firefox検索バー用のOPAC検索プラグインを自作する
(3)Amazon Webサービスを使って表紙画像を表示する
(会誌編集担当委員:木下和彦(主査),大田原章雄,川瀬直人)
本誌編集委員会特集担当*
*担当者:木下和彦(きのしたかずひこ),川瀬直人(かわせなおと),大田原章雄(おおたわらあきお)
(社)情報科学技術協会
〒112-0002 東京都文京区小石川2-5-7 佐佐木ビル
Tel. 03-3813-3791(原稿受領 2008.2.22)
本稿では,インターネット上で公開・配布されているソフトウェアを活用する上で,基本的に知っておきたい事柄について概略を説明する。ソフトウェアにはフリーソフトやシェアウェアのほかに,フリーソフトウェアやオープンソースソフトウェアと呼ばれる類のものがあることを整理し,こうしたソフトウェアを探す場合には,Vectorや窓の杜といったソフトウェアの提供サイトを利用するとよいことを述べる。さらにソフトウェアのダウンロードやインストール方法について,特に初心者がつまづきやすい点について説明し,最後に利用上の注意について,特に職場で使用する場合に気をつけたいことについて触れる。
キーワード: ソフトウェア,フリーソフト,シェアウェア,ダウンロード,インストール,拡張子,自己責任
沢井 寛*
*さわい ひろし 九州大学情報システム部情報基盤課電子サービス係(医学分館分室)
〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1 九州大学附属図書館医学分館内情報基盤課電子サービス係
Tel. 092-642-6040 (原稿受領 2008.2.1)
最近の業務は,その部署の性質にかかわらずパソコンに多く依存している。それに伴い,業務の共有化や引継ぎなどの際のマニュアルもまた,パソコン画面を多く取り入れざるをえない。その場合,従来までの紙媒体でのマニュアル作成の時代と異なり,今ではワープロに直接,パソコンの画面を取り入れて作成することが可能である。だが,Windows標準のツールを使っていたのでは作業効率も悪く,完成度も低いものしかできない。簡単に導入できるフリーソフトの中には,そうした作業に特化して,しかも市販ソフトに勝り劣りしないツールがある。これを利用してマニュアルを作成する事例を紹介する。
キーワード: マニュアル作成,パソコン,フリーソフト,スクリーンショット,画面キャプチャ,レタッチソフト
嶋田 晋*
*しまだ すすむ 国立大学法人 筑波大学附属図書館情報管理課図書購入係
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
Tel. 029-282-5376(原稿受領 2008.1.31)
フリーソフトの中から,主に業務に有用と思われるもの3点を,実際の使用例とともに紹介する。「ハイパーテキストスクリーンセーバー」はHTMLファイルをスクリーンセーバーとして表示させる機能を持ち,広報や掲示用途でも有用である。「Schedule Board」はグループウェアとして,組織内のスケジュール管理機能を簡易に実現する。「BunBackup」はバックアップを簡単かつ高速に実行できる機能を持ち,高度な設定も可能である。いずれのソフトも非常に高い実用性を無償で提供しており,業務やそれ以外の場面でも大いに活用することができると思われる。
キーワード: フリーソフト,Windows,スクリーンセーバー,HTML,グループウェア,情報共有,バックアップ
小野 亘*
*おの わたる 国立情報学研究所 企画推進本部広報普及チーム
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2135(原稿受領 2008.2.21)
フリーソフトを使ったテキスト処理について,名寄せという作業を例に,正規表現による置換,漢字からローマ字への変換,読み振り,対応表を使った変換,テキスト抽出などの基礎的な解説をする。これらを使うことによって,効率的に業務に必要なテキスト処理を行うことができる。
キーワード: テキスト処理,正規表現,置換,テキストエディタ,名寄せ
角家 永*1,木下 和彦*2
*1かどや ひさし 慶應義塾大学 メディアセンター本部
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel.03-5427-1793
*2きのした かずひこ 慶應義塾大学 湘南藤沢メディアセンター
〒252-8520 神奈川県藤沢市遠藤5322
Tel.0466-49-3427
(原稿受領 2008.2.28)
iGoogleは,Googleのホームページを自分の好みに合わせて自由にカスタマイズできるサービスである。iGoogleは,このサービスに組み込むサービス(ガジェット)をユーザーが自由に作成・公開できる点に特徴がある。iGoogleガジェットは,HTML,XMLとjavascriptの基本的な知識があれば誰でも作ることができるが,本稿ではHTMLの知識だけでもガジェットの作成ができるように留意し,Webページの一部やOPAC検索窓をガジェット化する方法について解説する。
キーワード: パーソナライズドサービス,iGoogle,ガジェット,マッシュアップ,HTML,OPAC,My Library
林 賢紀*
*はやし たかのり 農林水産省農林水産技術会議事務局筑波事務所研究情報課(農林水産研究情報センター)
〒305-8601 茨城県つくば市観音台2-1-9
Tel. 029-838-7283(原稿受領 2008.2.22)
本稿では,Web上の検索エンジンについて標準的な検索手法になりつつあるOpenSearchについて概説するほか,1)OPACを題材として,図書館システムに標準で用意された検索ページを解析し,タイトル検索のみ可能なシンプルな検索ページへ再構成を図ることで検索に必要な最小限の要素の把握, 2)OpenSearch Descriptionファイルを作成し,Firefox上から直接OPACを検索するプラグインの作成,3)作成した検索プラグインの設置とインストール方法について解説する。
キーワード: OpenSearch,OpenSearch Description,OPAC,図書館システム,図書館目録,検索プラグイン,Firefox,RSS
杉山 智章*
*すぎやま ともあき 静岡大学附属図書館
〒422-8529 静岡市駿河区大谷836
Tel. 054-238-4476(原稿受領 2008.2.19)
Amazonが提供するAPIであるAmazon Webサービスは,アソシエイト・プログラムと組み合わせて利用できる。図書館などのWebサイトは,これらを自館のリソースとマッシュアップすることにより,新たなサービスを創出する可能性を持っている。本稿では,その基本技術となる図書表紙画像の表示の仕方について述べる。Webサーバに実装するためのPHPスクリプトをオープンソースで作成し,その解説を行う。また,Amazonの商品コードのASINとISBNとの関係について,ISBN-13と ISBN-10の併存の状況を取り上げる。そのことによる,プログラム作成上での変換方法や問題点についてもPHP関数を作成し解説する。
キーワード: Amazon Web サービス,API,アフィリエイト,図書館,表紙,オープンソース,PHP,ISBN
山本 毅雄*
*やまもと たけお 図書館情報大学名誉教授,国立情報学研究所名誉教授
〒305-0028 茨城県つくば市妻木1755-2
Tel. 090-6702-0249(原稿受領 2008.3.10)
1975年6月,日本最初の実用規模オンライン情報検索サービスTOOL-IRが,東大大型計算機センターで開始された。ソフトウェアは著者らのチームによる自作で,初期には海外から輸入したデータベース(最初はChemical Abstracts ServiceのCA Condensatesのみ,同年度内にCambridge UniversityのCrystallographic Data,INSPECのComputer and Control Abstracts)が加わった。利用者は全国の大学・短大・高専・研究所などの研究者(教師および大学院生)で,毎年の実利用者は数百人(最盛期は千数百人),20年以上利用された。TOOL-IRサービスは,ヒューマン・インターフェースを重視した対話型(CUI)ソフトウェアをもち,語尾一致検索,質問ライブラリ,利用者によるデータベース作成支援ソフトウェア(PDB),サービス提供者と利用者間の電子メール交信のどの特色があった。また,国産計算機上で音響カプラー端末(いわゆる電話端末)を利用できるようにした最初のシステムでもあった。このプロジェクトの発想,研究・開発,データベースの輸入,サービスの略史について述べる。
キーワード: TOOL-IR,オンライン情報検索サービス,データベースサービス,TSS,公衆網端末,CA Condensates,INSPEC,X線結晶解析データ,マン・マシン・インターフェース,ヒューマン・インターフェース