Vol. 58 (2008), No.4
本特集ではデータベースの索引方針を取り上げます。
データベースを使って情報を得るには,一般的に統制語や自然語で検索しますが,いくら駆使しても適切な検索語で検索しなければ目的の文献を探し出すことはできませんし,収録されている文献でなければ,当然のことながら必要な文献には辿り着けません。
単なるネット上の情報ではない付加価値の高いデータベースを使う側の立場で考えたとき,検索結果は,不必要な情報ができるだけ排除され,必要な情報が網羅された精度の高いものであって欲しいものです。
一方,データベースプロデューサの立場で考えると,データベースの索引方針はそれ自体の品質を左右する大きな要素であるため,日々現状を把握し,将来を見据えながらその策定や見直しをしています。データ量が多く,歴史の長いデータベースであればあるほど,情報の選別や索引に多くの人が関わり,方針に沿ったデータベース構築に労力を注ぎ,データベースの価値の向上と継続的提供を目指しています。
本特集ではまず,総論でデータベースと索引方針との関係性について述べていただき,各論では,幾つかの商用データベースのプロデューサーに,あまり一般には公表されていない索引方針について開示していただくことにしました。
多くの特徴や注意点を踏まえながら検索することで検索の質が向上し,また検索の重要な手がかりが得られることを願います。
(会誌編集委員会特集担当委員:田中法子,深澤剛靖,広瀬容子)
原田 智子*
*はらだ ともこ 鶴見大学文学部
〒230-8501 横浜市鶴見区鶴見2-1-3
Tel. 045-581-1001 内線8160(原稿受領 2008.2.1)
商用文献データベースにおける索引方針の内容と,インデクシングの問題点について論じる。大勢のインデクサーによる共同作業が必要となる大規模データベース構築では,蓄積される情報内容の統一性や一貫性が求められ,索引方針や索引作成マニュアルが必須である。サーチャーからみたインデクシングの問題点としては,索引方針や索引作成マニュアルの非公開,インデクシングの一致性の限界,インデクサーの主題に関する知識と文献内容把握の限界,インデクシングの質の問題が挙げられる。サーチャーは索引方針や索引作成マニュアルの公開によりインデクシングの全容を知ることができ,質の高い検索結果にもつながる。
キーワード: 索引方針,索引作成マニュアル,文献データベース,データベース作成機関,インデクサー,サーチャー,品質管理
阿部 信一*
*あべ しんいち 東京慈恵会医科大学学術情報センター
〒105-8461 東京都港区西新橋3-25-8
Tel. 03-3433-1111(ext.2124)(原稿受領 2008.2.13)
MEDLINE/PubMedのシソーラスである,MeSHを理解することがPubMedの索引法を理解する助けとなる。MeSHは16のカテゴリーに分かれ,各用語は一般的な広い意味の用語から特定の狭い意味の用語まで,階層関係になっている。MeSHの索引は生命科学関係の学士以上の学位を有した NLMの約100人の専門スタッフがMeSH Browserなどのコンピュータ・プログラムによるサポートを受けて行っている。MEDLINE/PubMedの索引は,MeSH用語やサブヘディングの組み合わせのほか,Major TopicやCheck Tag,Publication Typeなど多様性があり,それらの正しい理解が適切な検索にもつながる。MeSHは1960年に初版が発行され,毎年改訂されているが,この動向にも注意が必要である。
キーワード: Medical Subject Headings,MeSH,PubMed,MEDLINE,シソーラス,インデクシング,Literature Search
米澤 稔*
*よねざわ みのる 独立行政法人日本原子力研究開発機構
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
Tel. 029-282-5376(原稿受領 2008.1.31)
国際原子力情報システム(International Nuclear Information System: INIS)は,国際原子力機関(IAEA)加盟国と関連する国際組織が協力して原子力の平和目的のための科学技術情報の流通を促進するために,1970年に設立された。INISでは加盟国の分散入力によってデータベースを作成している。INISでは,効率的な情報検索のためにインデクシングを行っている。インデクシングに際しては,インデクシングマニュアルに従い,タイトルと抄録を中心に行っている。本稿では,INISにおけるインデクシングの方針およびシソーラスについて述べる。
キーワード: インデクシング,シソーラス,データベース,原子力,INIS,主題分析
鈴木 響子*
*すずき きょうこ 独立行政法人科学技術振興機構文献情報部医学ライフ課
〒102-0081 東京都千代田区四番町5-3
Tel. 03-5214-8444(原稿受領 2008.2.5)
科学技術振興機構で作成する文献データベースの索引マニュアルの,キーワード索引に関する記述部分から,索引の原則と索引規則を紹介する。はじめに科学技術文献全分野に共通するキーワード索引の留意点を示し,JST科学技術シソーラスのシソーラス用語,準シソーラス用語,物質索引語の索引の原則を述べる。次いで,サブヘディング索引の導入における基本的な考え方について述べる。さらに,症例報告,薬物,疾患名,研究デザインの索引のポイントを紹介し, JMEDPlusに特徴的なサブヘディングを紹介する。マニュアルの改訂と索引支援システムによる簡易入力についても述べる。
キーワード: JMEDPlus,索引方針,索引マニュアル,主題分析,索引語,サブヘディング索引
宮崎 佐智子*
*みやざき さちこ (社)化学情報協会
〒113-0021 東京都文京区本駒込6-25-4 中居ビル
Tel. 03-5978-3601(原稿受領 2008.2.1)
Chemical Abstracts(CA)は,世界中の論文や特許の抄録が収録された,世界最大規模の科学分野の抄録誌である。膨大な抄録の中から目的の文献を効率良く検索するため,CAのデータベース版にはさまざまな索引情報が用意されている。主要な索引情報は統制語とCAS登録番号だが,これを補足するテキスト説明句やCASロール,接尾辞Pなども重要で,検索時には有効に利用することができる。本稿では,最も索引情報が豊富なSTNのCAplusファイルを採り上げ,各索引情報の収録状況や索引方針の概要,検索時のポイントを解説する。
キーワード: Chemical Abstracts,CA,統制語,索引方針,シソーラス,CAS登録番号,CAplus,CA Lexicon,CASロール,STN
Helle Lauridsen*
*ヘレ ローリゼン 日本支社訳 Strategic Product Manager, Illustrata, ProQuest
Tel. +4540550569(原稿受領 2008.1.21)
図や表は学術論文のなかで伝えられる研究の精髄を表わしている。テキストに含まれる分析が重要であるにもかかわらず,研究者は自身の研究とその論文との関連性を見極めようと,収集・観測・モデル化された実データを懸命に調べているのは明らかだ。図表に表示されたデータ一覧は,通常は入手できない未加工のデータセットの代用として非常に高い価値がある。2006年,ProQuest社は主要出版社の論文に含まれるすべての画像を索引付けしたCSA Illustrataをリリースした。その画像データは正確な検索インターフェースCSA Illumina上で検索することができる。
キーワード: 索引,緻密なインデクシング,データセット,ユーザーの要望,柔軟なインターフェース,データベース開発
時実 象一*(特別編集委員)*
*ときざね そういち 愛知大学文学部図書館情報学専攻
〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町1-1
Tel. 0532-47-4467(原稿受領 2008.2.15)
情報検索システムの基礎を築いた方々の思い出を語っていただく連載(約16回)を始めるにあたって,歴史を概観した。米国でオンライン情報検索が開発されたのは1960年代末であるが,1970年代に入ってDIALOG,ORBITのサービス開始により商業的サービスが軌道に乗った。わが国でオンライン情報検索システムが立ち上がったのは1970年代後半で,JOIS,PATOLIS,NEEDS-IR,TOOL-IRなどのシステムが相次いで実用化された。漢字かなが印字できる端末は1980年代に入って実現した。また海外からはDIALOG,ORBIT,CAS ONLINEなどが導入された。こうして1980年代にはオンライン情報検索が一気に普及し,サーチャーによる情報検索研究も盛んにおこなわれた。
キーワード: 情報検索サービス,オンライン情報検索,歴史,DIALOG,ORBIT,JOIS,PATOLIS,NEEDS-IR,TOOL-IR,CAS ONLINE,日本語処理,ユーザ会