Vol. 57 (2007), No.12
図書館・資料室には,<文庫>と呼ばれる,特定の資料の集合体があることがあります。<コレクション>とも言い換えることができるでしょう。
<コレクション>は特定の思想や文化によって自然に集まってできる場合もあるでしょう。しかし,収集方針を定めることによって,ある意図を持って集合化させていることも少なくありません。
個人名を冠した文庫などは後者にあたり,その個人にとって非現用になったがため,アーカイヴとしての役割を果たしていることもあります。
本特集では,<コレクション>の現況と運用方法,問題点を列挙していただくことを意図しました。資料群を構築する必要があったり,運営をしていく必要性があった場合のハウツー集として本特集をお使いいただければ幸いです。
現代の図書館の資料管理の状況では,古典籍といわれるような資料群の場合は特に,職人的な,あるいは属人的な取り扱いとなっていることも多いと思います。それらの状況の一端も明らかにしたつもりです。
資料の電子化が推進されている昨今,現物に当たらなければ研究にならないという学問分野や状況は今も昔も変わっていないと思います。電子化された情報では質感(テクスチャ)はどうやっても得られないものです。
<コレクション>には,電子化する必要もあるけれども,しかし,モノとして存在することに価値・意義があると思います。現物あっての<コレクション>という観点を特に強調していただきました。
(会誌編集委員会特集担当委員:上村順一,大田原章雄,関戸麻衣,松林正己)
山中 秀夫*
*やまなか ひでお 天理大学人間学部総合教育研究センター
〒632-8510 天理市杣之内町1050
Tel. 0743-63-7125(原稿受領 2007.10.5)
本稿では,和古書の特異性,重要性と組織化およびイメージ・データの有効活用について論及する。近年,和漢古書のための標準的な書誌記述規則が相次いで公表・制定された。日本の重要な文化遺産である和古書は,膨大でかつ多種多様な印刷資料と書写資料が現在まで伝存している。全体像が未だ充分になっていない現在,和古書の総合目録の構築は意義ある学術情報流通基盤整備事業である。有効な目録の構築を進めるための方法として,イメージ・データとのリンクを提案する。各機関が現在までに蓄積した大量のイメージ・データを網羅的に検索する手段はほとんどない。テキスト・データである書誌記述とリンクすることで,書誌記述の一部として利用者への効果的な情報提供が可能になる。
キーワード: 和古書,総合目録,組織化,イメージ・データ,ディジタル化
佐々木 孝浩*
*ささき たかひろ 慶應義塾大学附属研究所斯道文庫
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5427-1582(原稿受領 2007.9.25)
慶應義塾大学附属研究所斯道文庫は,和漢の古典籍を対象とする書誌学を専門とする研究機関である。その前身は,福岡の実業家であった麻生太賀吉氏が設立した財団法人斯道文庫である。終戦間もなく解散した財団の蔵書約7万冊は,研究所の設立を条件に慶應義塾大学に寄贈され,1960年に附属研究所が設立された。それから約半世紀が経過した現在,その蔵書は約15万冊に及んでいる。本稿では,斯道文庫の歴史を概説した上で,財団時代と研究所時代に分けて,それぞれの時代に,寄贈や・寄託等によって所蔵となった,特色あるコレクションについて解説し,和装本ならではの維持管理の難しさや,目録作成の問題点などを説明して,斯道文庫の現状と課題を総括する。
キーワード: 書誌学,古典籍,和装本,文庫,修補,目録
山本 浩幾*
*やまもと ひろき 早稲田大学演劇博物館
〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1-6-1
Tel. 03-5286-1829(原稿受領 2007.10.5)
早稲田大学演劇博物館に所蔵する資料群「九州地区劇団占領期GHQ検閲台本」は,戦後期の地方演劇文化を知る上で有用な資料である。「ダイザー・コレクション」とも呼ばれるこの資料群は,プランゲ・コレクションと同様,研究資料としてアメリカへ移送されたものである。歴史的背景を確認した上で,関連資料にもとづきコレクション成立の経緯をたどる。再整理作業では目録データと原物資料と突合しつつ,新たな情報の採取を行い,さらに電子撮影を行った。本資料群の資料性を,原物資料の特長や,目録データによる資料構成から考える。配架状況や運用方法についても触れる。
キーワード: 資料組織化,資料評価,目録データベース,電子化,九州,検閲台本,占領期,GHQ/SCAP,演劇博物館,ダイザー・コレクション
佐藤 俊子*
*さとう としこ 文化女子大学図書館
〒151-8523 東京都渋谷区代々木3-22-1
Tel. 03-3299-2395(原稿受領 2007.9.28)
文化女子大学図書館では1950年の開館以来,「服飾」という特定主題の文献を網羅的に収集し,教育支援機関であるとともに,専門図書館の機能も果たしてきている。そのため,本学学生以外にも他大学学生,研究者,企業関係者,卒業生などにも広範に利用されている。特に,この稿では司書の専門的書誌学の自己研鑽と稀覯本に対する的確な見識の元で収集された西洋服飾関連コレクション構築の経緯とそれらを組織化し,体系化して作成された服飾文献目録の変遷について取り上げる。併せて,西洋服飾関連資料収集に不可欠な海外の服飾関係文献目録についても解説する。
キーワード: コレクション構築,所蔵目録作成の変遷,文化女子大学図書館,服飾文献目録,海外の服飾関係文献目録・索引,邦文文献目録,欧文貴重書目録,服飾関係雑誌目録
飯島 朋子*
いいじま ともこ 一橋大学社会学部聴講生(元・一橋大学大学院経済学研究科助手)
〒186-8601 国立市中2-1(原稿受領 2007.10.10)
一橋大学の蔵書コレクション構築は大学の歴史と深く関わっている。それゆえにその受入から整理までの作業過程は職員のみならず,教員および卒業生を含む多くの関係者の協力によるものである。むしろ初期には,諸外国に留学され日本に社会科学という学問を導入した教員達の努力に負うところが多いとさえ言える。そこで大学の歴史,学部構成の経緯を含む様々な文献を紹介しながら,外から見たコレクション構築の歩みの概要を述べる。
キーワード: 一橋大学附属図書館,一橋大学社会科学古典資料センター,社会科学,コレクション,特殊文庫