Vol. 57 (2007), No.11
協会元理事の小野村 仁(オノムラ ヒトシ)さんが去る8月25日,肺炎のため死去。享年91。1915年生まれ。丸善,国際電気通信,旭硝子,八幡製鉄,オーヴィス等勤務。1955年INFOSTAの前身であるUDC協会に入会。以来,理事,評議員,編集・出版・UDC分類表編集委員などを歴任。また,各種講習会・セミナー講師,協会受託業務などで,後進の指導に当たられる。1976年には,協会賞第1回教育訓練功労賞を,また,2000年の協会創立50周年記念式典では,中村幸雄元会長とともに特別功労賞を受賞。主な著書として,「UDC入門」(共著),「実務者のためのUDC標数索引(鉄鋼)」「どからかると」など。
一方,神奈川県資料室研究会(神資研)に参加,特別会員第一号。ドキュメンテーション懇談会参加,JICST設立準備委員,日本規格協会にてJISへの ISOシソーラスによる付標実験に参加。野口研究所,富士ゼロックス,総合研究開発機構,理研,自転車産業振興協会などで情報管理業務の指導に当たられる。
1998年5月から,「メモラン あ・ら・か・る・とMEMORANDUM AT RANDOM」という生活記録を不定期に編集,発行,ごく親しい方々に配付してきた。2007年1月までの9年間に50号,総ページ数2,000ページにおよぶ。
小野村さんを偲ぶ
名誉会員 長山 泰介
50年以上前のUDC協会時代を知るわずかな会員の一人,小野村さんが逝くなった。91歳という高齢だった。私との交流は亡くなるまでつづいていた。
小野村さんは小学校出という負い目を持ちながら,大学の先生方とドクメンの世界では議論し,委員会活動も熱心で,JICST設立委員の活動などもした。独学で勉学に励んだおかげだろう。その努力は大したものである。
小野村さんは,職をかなり変えているが,私と私的な形で交流があったのは,オーヴィス時代からである。会社には交際費があるからといって,小野村さんご指定のバーで酒を酌み交わしながら四方山話にふけったことも思い出される。
小野村さんの鋭い寸鉄人を刺すというエスプリの利いた"小野村語録"にはいつも感心させられた。"キオクよりもキロクに頼れ"という名言を身をもって集大成されたのが"メモラン"であろう。協会誌にも昔,穴埋めとして載せていたこともあったが,晩年は日記として毎日のようにワープロをたたいていた。戸塚君がひと月かふた月ごとにコピーして送ってくれていた。戸塚君の努力も大したもので,このコンビでメモランは輝きを増している。死の寸前まで9年にわたり 2,000ページに及ぶという。小野村さんは根は善人なのだが,人との付き合いはまずく,トラブルを起こしては友を失っていたようだった。私はテレビで寅さんの映画を見る度に,小野村さんを思い出してしまう。
メモランは初めのうちは10部位はコピーしていたようだったが,晩年は数部,しかもドクメン関係は私だけになってしまったようだった。
梗塞を起こして寝たきりになり,老人ホームに移って,いわゆる病床日記ともいえるメモランに見られるヘルパーさんとのやり取りからは,誠に微笑ましい病床生活がうかがえた。几帳面な小野村さんは,遺言もメモに残しておいた。味のある几帳面なドクメンタリストだった。
メモランは,一部コピーして協会の資料室に残しておきたい。
情報がデジタル化され,またネットワーク上で流通することによって,図書館というものの果たすべき役割が変わってきていることは改めて言うまでもありません。その点については,弊誌でもこれまでにいろいろな論考が取り上げてきたところです。
国立図書館もまた例外ではありません。もちろん国立図書館である以上,印刷媒体資料の収集やその永続的な保存といった伝統的なミッションが依然として重要であることは論を待ちません。しかし,国立図書館は国立である以上,国全体の中心として,従来のミッションに加えて新たな時代の要請にも,より積極的に対応していく必要があるでしょう。それには将来を見据えた具体的で確固とした戦略,それでいて時代の変化に対応できる柔軟な姿勢をもって臨む必要があります。
本特集では,これまでまとまって取り上げられることの少なかった国立図書館を取り上げ,その向かうべき先を考察しています。本特集の各論考は,日本の国立国会図書館を取り上げたものもそうでないものもありますが,実に様々な観点から国立図書館を論じています。国立図書館はいったいどこへ向かおうとしているのか,どこへ向かうべきなのか,そしてそこにはどのような戦略が考えられるのか。それは単に国立図書館だけの問題ではなく,少なからず業界全体に影響を与えます。それゆえ簡単に結論を出すものではなく,さらに多くの議論を積み重ねていく必要があるでしょう。
本特集に示された「国立図書館のパースペクティヴ」を参考に,こうした議論がより深まっていくことが,業界全体の発展につながればと願っています。
(会誌編集委員会特集担当委員:川瀬直人,松林正己,及川はるみ)
高山 正也*
*たかやま まさや (独)国立公文書館理事(慶応義塾大学 名誉教授)
〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園3-2
Tel.03-3214-0621(原稿受領 2007.9.5)
国立国会図書館の今後の改革についての指針を外部識者の見地からまとめた。現状における国立国会図書館の問題点は,国内外におけるそのプレゼンスの低さに集約できる。その理由の最大のものは,国立国会図書館員の内向き志向にある。そこで,当面,国立国会図書館が国立図書館として果たすべき機能と日本の国立国会図書館を取り巻く解決すべき主要な問題点を指摘し,その解決策の一端を,この問題が2006年春,国立国会図書館の独立法人化問題として生じた時に検討した図書館関係NPO法人での検討結果を紹介することで,示している。そこで示された解決策の提言とは次の4項目である。
@国立国会図書館の経営刷新と強化のための外部者の活用,A館の職員人事の弾力化,B業務執行体制への民間活力の利用,C関係法令の見直し
キーワード: 国立国会図書館,改革,プレゼンス,内向き志向,国立図書館,図書館協力,国際交流,経営刷新
根本 彰*
*ねもと あきら 東京大学大学院教育学研究科
〒113-0032 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-3975(原稿受領 2007.9.18)
国立国会図書館が国際的にまた歴史的に担っている国立図書館としての性格と政府図書館としての性格をレビューしたうえで,近年の構造改革の動きとサービスのデジタル化という二つの観点から同館のサービスを評価した。このうち国立図書館としてのサービス機能は着実に実施され,とくにデジタル情報技術が導入されることによって,国民および図書館にとっての利便性は上がったと評価できる。他方,議会に対するサービスはこれまで十分な評価を受けておらず,今後の評価に待つことになる。さらに行政府に対する支部図書館制度は根本的な制度的な見直しをして実効性を上げる必要がある。
キーワード: 国立図書館,議会図書館,政府図書館,国立国会図書館,納本制度,全国書誌,近代デジタルライブラリー,アメリカンメモリー,英国図書館,アメリカ議会図書館
後藤 嘉宏*
*ごとう よしひろ 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
〒305-8550 つくば市春日1-2
Tel. 029-859-1322(原稿受領 2007.9.14)
本稿では国立国会図書館の納本制度を考え,その際,初代副館長の中井正一(1900-1952)の思想を手がかりにした。中井は納本制度と表裏一体の関係にある支部図書館制度の産みの親の一人ともされる。中井の「機能概念の美学への寄与」(1930)での「機能概念」,「委員会の論理」(1936)での「印刷される論理」,『美学入門』(1951)での映画のカットの議論(「コプラの不在」)を紹介し,それらと彼の図書館思想との関係を考察した。その上で彼の描く支部図書館制度は,それを通じての納入の仕組みとは異なるということを,彼の商品としての本(書籍)に対する二律背反的な態度を踏まえつつ考察した。さらに納入物として望ましいものと情報アクセスの射程として望ましいものとの区別を考えていく必要性があると指摘した。
キーワード: 中井正一,納本制度,支部図書館制度,機能概念,忘却,網羅的記憶(記録),繋詞(繋辞・コプラ),商品としての本
竹内 秀樹*
たけうち ひでき 国立国会図書館
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331(原稿受領 2007.9.27)
資料保存の領域において伝統的に国立図書館が担ってきた役割が,デジタル時代においてどのような位置付けを与えられているのかについて,米国議会図書館の事例をもとに考察する。電子情報資源が図書館サービスの不可欠の基盤となりつつある状況の中で,保存問題はますます複雑になっており,国立図書館単独で解決できる問題は限られている。全国レベルの枠組みを構想し,その中で自らが担う領域を明確にし,関連機関との協力・協働の仕組みをつくることが,これからの国立図書館の役割として重要な視点になることを示す。
キーワード: 資料保存,国立図書館,米国議会図書館,保存協力
山本 順一*
*やまもと じゅんいち 筑波大学 図書館情報メディア研究科
〒305-8550茨城県つくば市春日1-2
Tel. 029-859-1332(原稿受領 2007.9.3)
立法府のなかに設置されるという国立図書館の姿としては少数派に属しながらも,'著作権登録制度'(copyright deposit system)をも活用しつつ,世界最大の国立図書館として国内外に君臨しているアメリカ連邦議会図書館の'戦略'を同図書館が公表している「戦略計画 2004−2008」と連邦議会上下両院議長に提出された「議会図書館長年次報告」2005会計年度版を手がかりとして紹介し,論じる。同図書館は,戦略構想局(Office of Strategic Initiatives)を中心として既存資料のデジタル化とデジタルコンテンツのインターネット上での公開を強力に推進しており,国内外に開かれたサイバー・(インター)ナショナル・ライブラリーの実現を目指している。
キーワード: アメリカ議会図書館,J.H.ビリントン,議会図書館長年次報告,戦略計画,国立図書館
渡邉 斉志*
*わたなべ ただし 国立国会図書館
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331(原稿受領 2007.7.13)
ドイツには国立図書館が三館存在しており,単一の巨大な国立図書館が全国の図書館をリードする形にはなっていない。ドイツは連邦制国家であり,教育・文化行政は州の所掌となっている。そのため,国立図書館は他の図書館を指導する立場にはなく,現在進められている図書館振興策においても国立図書館の存在感は希薄である。また,国立図書館は,図書館法がないドイツにおいては例外的に法律に根拠を持つ図書館であり,振興の対象としては,優先順位が高いわけではない。しかし,国立図書館自身も,自ら改革を進めることで,国立図書館としての機能の強化に努めている。
キーワード: ドイツ連邦共和国,国立図書館,図書館振興,図書館政策,図書館法,教育,図書館2007,図書館開発庁
時実 象一*
*ときざね そういち 愛知大学文学部
〒441-8522 愛知県豊橋市畑町1-1
tokizane@aichi-u.ac.jp(原稿受領 2007.10.4)
キーワード: 電子書籍,電子ブック,電子図書館