Vol. 57 (2007), No.10
知財情報は今や一部の特許専門家だけが扱うものではなく、大学図書館や専門図書館に身を置く人々にも避けては通れない情報のひとつです。
小泉内閣が2002年に知財立国宣言をし,推進計画が長期的視野に立って創出されました。模倣品や偽ブランドの問題なども含め,「発明」や「知的財産」という言葉がメディアでも散見されるようになりました。大学においても技術移転により得られる利益を新たな研究資金として還元するTLO活動が活発になっています。
このような背景から,今回の特集では,知財情報を扱う中でインフォプロに求められる資質,担うべき役割を考えます。
(会誌編集委員会特集担当委員:広瀬容子,関戸麻衣,深澤剛靖,堀恭子)
加藤 浩*
*かとう ひろし 政策研究大学院大学
〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1
Tel.03-6439-6199(原稿受領 2007.6.28)
知的財産に関する社会的関心の高まりを背景とした官界,産業界,学界における知財を巡る現状と課題について報告するとともに,国際情勢についても論及し,今後の方向性について考察する。
2002年11月に知的財産基本法が成立し,2003年3月に内閣に知的財産戦略本部が設置される等,政策レベルで様々な取り組みが行われてきた。産業界では,産業構造の変化に伴い,知的財産の活用を重視する等,企業の知財戦略にも改革が必要になってきた。大学においては,産学連携による社会貢献が重視され,知的財産権の大学帰属や大学知財本部の設置など,知的財産を巡る環境が大きく変化してきた。知的財産を巡る国際情勢については,先進国と途上国の対立により多国間交渉が困難な状況下,二国間交渉を中心に制度調和が推進されており,今後の展開に期待が寄せられている。
キーワード: 知的財産基本法,知的財産戦略本部,知的財産推進計画,科学技術基本法,科学技術基本計画,技術移転機関(TLO),大学知的財産本部,世界知的所有権機関(WIPO),世界貿易機関(WTO)
杉光 一成*
*すぎみつ かずなり 知的財産教育協会
〒105-0002 東京都港区愛宕1-3-2
Tel. 03-3438-2147(原稿受領 2007.7.23)
知的財産法は情報に関連する法律である。したがって,インフォプロが「情報」の専門家である以上,情報に関する法律である知的財産法に関する知見,すなわち「知財スキル」はインフォプロの「常識」と言ってよい。そのような「知財スキル」を身につける方法として,明確な目標のない学習よりもむしろ「知的財産検定」のような試験合格を目標にした学習が,インセンティブの点からもまた,学習の到達度を明確化するという点でも合理的である。また,経済産業省が「知財人材スキル標準」を発表し,企業における知財人材の「知財スキル」が明確化された。インフォプロとして,これまで漠然と「知的財産」に関して何かを学ぶ必要があるとは認識しつつも,何をどうするのがよいのかわからなかった方々にとっては非常に良い環境になったといえるのではなかろうか。
キーワード: 知的財産,インフォプロ,スキル,知的財産検定,スキル標準,知財人材スキル標準
生越 由美*
*おごせ ゆみ 東京理科大学専門職大学院 総合科学技術経営研究科知的財産戦略専攻
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋4-25-1-12
Tel.03-5227-6260(原稿受領 2007.8.2)
日本政府は知的財産(知財)立国の構築を目指している。最も重要なことは知財人材を育成することである。これまでは,政府は大学や大学院における教育を通して知財に関して幅広い知識を有する専門家の養成を図ってきた。現在,国民に対する知財教育の方法について検討しているところである。このような背景から,知財の本質を理解している知財教育に適する人材を情報関係部署,すなわち図書館や検索会社で育成することが今後重要になるものと考えられる。
キーワード: 知的財産,知財教育,知財人材,知財政策,知識社会,知財立国,情報,文化産業
難波 英嗣*
*なんば ひでつぐ 広島市立大学 情報科学研究科 知能工学専攻
〒731-3194 広島市安佐南区大塚東3-4-1
Tel.082-830-1584 (原稿受領 2007.7.23)
近年,特許出願が重要な研究活動のひとつとして考えられるようになってきた今日,大学研究者自身が関連論文とあわせて関連特許について情報を検索したり,特許を出願したりするという機会が増えている。2007年5月に政府の知的財産戦略本部が発表した「知的財産権推進計画2007」においても,大学研究における特許情報の重要性が謳われており,大学研究者の利用を想定した特許・論文情報統合検索システムの整備がこの計画のひとつに挙げられていることから,この傾向は今後さらに強まっていくと思われる。そこで本稿では,特許と論文を対象にした検索や技術動向分析に関する諸研究を概観し,関連システムやサービスを紹介する。
キーワード: 特許,論文,技術動向分析,ジャンル横断検索,引用関係
中野 ひかる*1,イ・ヨンジョン*2
*1なかの ひかる,*2い・よんじょん
フロリダ大学;フロリダ州立大学
George A. Smathers Libraries, University of Florida, Gainesville FL 32607, USA ;
College of Information, Florida State University Tallahassee, FL 32306, USA
Tel.+1-352-392-0351; +1-850-491-3180(原稿受領 2007.7.27)
著作権を守る立場であり,また利用者の知的自由をも守る立場の図書館では,スタッフ自身が著者と利用者のバランスを保つ役割を果たす。また大学図書館では,研究者をサポートするという立場から,著作権を超え広く知的所有権法の知識が必要である。そのような仲介的役割の図書館員を輩出するライブラリースクールでは,充分な著作権教育の環境を整えることが必要であるが,現段階では,課題として残す図書館学部が多い。
キーワード: 著作権教育,米国ライブラリースクール,図書館学,カリキュラム,著作権法,知的所有権
桐山 勉*
*きりやま つとむ 樺髏l知的財産センター,OB嘱託
〒100-8585 千代田区内幸町2-1-1飯野ビル
Tel. 03-3506-4450(原稿受領 2007.8.6)
関西特許情報センター振興会の創立50周年記念事業として特許検索競技大会が6月17日に開催され,39名が参加した。優秀な成績を収めた2名が7月 27日に開催された創立50周年式典で表彰された。この特許検索競技大会は,日本特許を対象に検索システムとして特許庁IPDLと希望する二つの商用システムを利用して合計三つの検索システムを駆使して行うものであった。試験問題は,電気・機械分野,化学・ナノテク分野,バイオ・医薬・食品分野の3分野から1分野の問題を選択して,該当する特許情報を検索するものであった。採点評価は,検索結果の正否,検索プロセスの妥当性,提案力の3観点から総合的に行った。この特許検索競技大会を企画・実施・採点評価した立場から,この大会を振り返ってその概要を報告する。
キーワード: 特許検索,競技大会,関西特許情報センター振興会,50周年,記念事業,オンライン,商用システム,評価,検索結果,検索プロセス,提案力