Vol. 57 (2007), No.8
図書館や情報センターの活動においては,様々な局面で評価が行われています。例えばインパクトファクターは,雑誌の重要度を測るための指標の一つとして有名ですが,その背景にあるビブリオメトリックス(計量書誌学)は幅広い応用が可能なものです。図書館・情報センターの活動において用いられる様々な評価手法は,このようにある一面を切り取る上で非常に役に立つものですが,反面,その手順だけが一人歩きをしてしまい,その結果,実作業において誤った使われ方をされてしまい,得られた評価が意味をなさないということもあるのではないでしょうか。今使おうとしている評価手法がそもそもどういうものであり,どのような広がりを持っているかに関する知識を備えておくことは,評価を正しく行う上で大事なことだといえます。
そこで本号では,さまざまな評価の手法を取り上げることにいたしました。評価に関する特集は,過去にも数多く編まれていますが(【参考文献】参照),今回の特集では,評価の具体例というよりも,なるべく「評価」そのものにスポットをあて,本来その手法はどのようなものであり,長所や短所はどこにあるのか,というようなことを整理したいと考えております。この特集が,より正しく,深い評価を行うための一助となれば幸いです。
(会誌編集委員特集担当委員:木下和彦,松林正己,大田原章雄)
【参考文献】
過去に弊誌で取り上げた特集で,本特集に関連するものは,主に以下の通りです。本特集で評価に興味をもたれましたら,併読されることをお薦めします。
「ユーザビリティ」 54巻 8号 (2004年)
「図書館サービス評価とE-metrics」 54巻 4号 (2004年)
「レビュー誌の現在」 54巻 3号 (2004年)
「情報の分析・解析法」 53巻 1号 (2003年)
「図書館システムの評価」 52巻 9号 (2002年)
「図書館の統計と評価」 51巻 6号 (2001年)
「ディジタル情報資源の評価」 50巻 5号 (2000年)
「研究評価の方法論」 49巻11号 (1999年)
「図書館の評価」 44巻 6号 (1994年)
岸田 和明*
*きしだ かずあき 慶應義塾大学 文学部 図書館・情報学専攻
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5418-6739(原稿受領 2007.5.14)
本稿は,情報や情報システムの評価に関する諸問題を幅広く概観することを目的とする。まず,評価対象となる事象の定義,測定,データの収集や分析の方法などの基礎的な問題について議論する。特に,評価を一種の研究プロセスとして捉え,その観点からの評価の特徴や困難性について言及する。次に,主として図書館情報学における代表的な評価領域について,それぞれ簡単に概観する。具体的には,情報・文書の評価,情報検索における評価,科学計量学的評価,図書館評価,電子図書館の評価に関して,その現状や特徴を議論する。
キーワード: 評価,図書館評価,蔵書評価,情報検索評価,科学計量学的評価,電子図書館評価
孫 媛*
*そん えん 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2620(原稿受領 2007.6.26)
近年,研究評価に関する客観的指標への要請が高まり,ビブリオメトリックス指標に関心が向けられている。しかし,各指標はかならずしも適切に用いられているとはいえない。たとえば,インパクトファクタという指標が大学・研究機関あるいは研究者個人の研究業績評価に用いられるケースが増えているが,本来の定義・性質からは導き得ない解釈が行われることも多い。本稿では,ビブリオメトリックス研究一般について紹介した後,インパクトファクタ,h指数など,研究評価に利用される指標について,その特徴を解説する。研究評価におけるビブリオメトリックス指標を利用することの有効性と問題点についても整理する。
キーワード: ビブリオメトリックス,研究評価,引用統計,評価指標,インパクトファクタ,h指数
栗山 和子*
*くりやま かずこ 白百合女子大学文学部
〒182-8525 東京都調布市緑ヶ丘1-25
Tel. 03-3326-5050(代表)(原稿受領 2007.6.14)
情報検索には様々な側面があるが,情報検索システムの研究においては,テストコレクションを用いた検索実験による客観的な性能評価を行うことが一般的である。情報環境の整備にともない,情報検索システムの検索対象が,研究論文や技術文書のような専門的文書からWWW上のWebページや社内文書のような一般的文書へと広がり,検索者が研究者や図書館員のような検索の専門家から一般利用者へと拡大していっても,その基本は変わっていない。本稿では,情報検索システムの評価の基盤である,テストコレクションおよび評価指標について解説する。
キーワード: 情報検索,サーチエンジン,評価指標,テストコレクション,TREC,NTCIR
宇陀 則彦*
*うだ のりひこ 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
(原稿受領 2007.6.13)
本稿は電子図書館の評価を複雑にしている要因を実証的観点から明らかにし,質的評価の重要性を主張する。その上でWebユーザビリティの議論を取り入れながら,「電子図書館としての使い勝手」を導き出す。さらに,電子図書館利用による「知的生産の向上度」を電子図書館のアウトカムとして提案する。
キーワード: 電子図書館,質的評価,アウトカム,ユーザビリティ,ポートフォリオ
須賀 千絵*
*すが ちえ 慶應義塾大学文学部(非常勤)
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
(原稿受領 2007.5.22)
本稿では,利用者の視点を導入した図書館評価を,利用者の意見を内部評価に反映させる「意見反映方式」,評価主体として参画した利用者等と図書館が協働で評価を行う「協働評価方式」,市民が独自の評価機構を作って評価を実施する「独立評価方式」に分類した。そのうえで具体的な事例が存在する「意見反映方式」「協働評価方式」の評価方法を概説した。「意見反映方式」の評価方法には,満足度評価,有効度評価,SERVQUAL評価がある。また「協働評価方式」の評価方法には,市民と専門家から構成される評価組織が公共図書館評価に参画する方法がある。合わせてそれぞれの方式の意義と問題点についてまとめた。
キーワード: 図書館評価,利用者満足度,アウトカム評価,SERVQUAL,参加型評価
広瀬 容子*1,中澤 夏子*2
*1ひろせ ようこ,*2なかざわ なつこ
トムソンサイエンティフィック
〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル
Tel. 03-5218-6500(原稿受領 2007.5.28)
図書館は情報を選択,収集,管理し,それらの情報へのアクセスを保証するという普遍的役割を持つ。学術支援図書館において,ジャーナルのコレクション評価は,学術情報流通の中で重要な位置を占めるジャーナルが,適切に購入され利用者に提供されているかを判断するために不可欠である。論文の引用データは,これまでも蔵書評価手法の1つとして広く活用されてきた。本稿ではトムソンサイエンティフィックのCitation Index製品に収録される引用データを用いてのジャーナルコレクション評価の手法を解説する。
キーワード: 蔵書評価,ジャーナルコレクション,Web of Science,Citation Index,引用,JCR,ICR,2ステップマップ
平 紀子*
*たいら のりこ 北海道医療大学 学術情報センター
〒061-0293 北海道石狩郡当別町金沢1757
Tel. 0133-23-1140(原稿受領 2007.6.4)
近年,医療を取り巻く環境の変化に伴い,医療系図書館員が提供するサービス内容が拡大している。しかし,図書館員は情報の専門職としての教育を受けていない。また,医療に関する専門的な教育を受けていないことなどが要因となり,医療従事者のニーズを的確に受け止め,適切なサービスを提供できる専門的知識・技術を備えた情報専門職としての対応が充分にできていないのではないかと考えられる。そこで,医療系図書館員が持つ知識,技術・意識と医療従事者の情報ニーズ,図書館員に対して持つ意識を調査し,両者におけるギャップの有無を明らかにするために,北海道内の医療系図書館員129人(回答52人),医療従事者2,093人(回答839人)を対象に調査を行った。その結果,期待度を尋ねた10項目の全てに両者の意識に有意差がみられた。また,医学図書館の利用満足度では,10項目中の「講習会の開催」と「適切な文献複写費用」に有意差がみられた。図書館員の多くは,自らを情報専門職として意識しておらず,新しい知識・技術への自己評価レベルが低く,図書館員は医療従事者からは情報専門職員として期待されていないと認識していた。
キーワード: 医療従事者,医療系図書館員,情報専門職,情報ニーズ,図書館情報サービス,医学図書館