「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 57 (2007), No.7

特集=「図書館業務のアウトソーシング」

「図書館業務のアウトソーシング」の編集にあたって

 業務のアウトソーシングは,近年図書館や企業内資料室,情報業界での大きな話題であり,いま取り囲まれている変化のなかでも大きな部分の一つではないでしょうか。実際に導入している機関は増えてきている印象がありますし,大学による図書館業務の全面外部委託なども話題となっています。なお本特集では,これまで専任職員が行っていた業務を職員以外の者が行うこと全般(派遣職員等も含む)をアウトソーシングという語で指します。
 母体機関の経営効率化のために,経営の改善,特に職員の削減を厳しく迫られる図書館や情報部門は多く,そのための選択肢として必ずと言ってよいほど上げられるのが業務のアウトソーシングです。しかし,業務を一部でもアウトソーシングするということは,専任職員の業務が変わることでもあり,図書館・情報業界の構造が大きく変わるといっても過言ではありません。
 その是非から始まり,どこからどこまでをアウトソーシングできるのか,アウトソーシングできない専任職員の担うべき部分はどこなのか,アウトソーシングの手法(業務委託か,人材派遣か),など,議論はつきません。大きな変化につながるものだけあって,みなさまそれぞれに考えておられるのではないでしょうか。
 今回の特集では,多くのアウトソーシングを積極的に進めておられる図書館の方々に,その決定の経緯や,結果の評価,成功のためのポイントなどをお書きいただきました。実際に関わってこられた方ならではの,重みのある興味深い記事が集まりました。
 本特集が,読者のみなさまがアウトソーシングについて考えられる際,また取り組まれる際の助けになれば幸いです。
(会誌編集委員会特集担当委員:関戸麻衣,上村順一,葛城慶子,深澤剛靖)

アウトソーシングと大学図書館論

牛崎 進
うしざき すすむ 立教大学図書館
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
Tel. 03-3985-2912(原稿受領 2007.4.24)

 大学図書館とアウトソーシングに関わる論点を整理し,諸問題の解決の糸口が図書館連携にあると提案している。具体的には,アウトソーシングが進行している背景を分析し,本テーマに関わる問題の根源について戦後の大学図書館史から学べることを指摘しつつ,予算削減・組織変動・図書館のコア・コンピタンス・深まらない図書館連携に視点を置いて大学図書館で起きている問題を整理し,アウトソーシングが抱えている具体的課題を大学図書館・受託業者・就業者の観点から分析している。さらに大学図書館のアウトソーシングをめぐる最近のNII等の動きに着目した上で,今後の大学図書館が考えておきたいことを結語として提示している。

キーワード: アウトソーシング,大学図書館,NII,コアコンピタンス,山手線沿線私立大学図書館コンソーシアム,NPO法人大学図書館支援機構,書誌ユーティリティ

経営におけるアウトソーシング

島田 達巳
しまだ たつみ 摂南大学経営情報学部
〒181-8585 大阪府寝屋川市池田中町17-8
Tel. 072-839-9398(原稿受領 2007.4.26)

 本稿では,経営におけるアウトソーシングを取り上げるが,それは民間企業のみならず行政(國・地方)も含む組織を対象にする。民間企業と行政とでは,その目的は異なるが,共通面も多い。したがって,ここでは,共通性に着目した経営という統一的なパースペクティブのもとに企業と行政(特に地方自治体)のアウトソーシングにアプローチする。組織は何故アウトソーシングを行うのか,アウトソーシングの適否とアウトソーシングのメリット・デメリットは何か,企業や行政での先進アウトソーシング事例にどんなものがあるか,そして,最後に成功するアウトソーシングには何が必要か,について取り上げる。

キーワード: 経営,民間企業,行政,アウトソーシング,協働,戦略提携,コア・コンピタンス,成功要因

明治大学図書館におけるアウトソーシング
−サービスの拡大・多様化・高度化に向けて−

飯澤 文夫
いいざわ ふみお 明治大学図書館
〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1
Tel. 03-3296-4240(原稿受領 2007.4.24)

 明治大学図書館のアウトソーシング事例を紹介する。1987年に目録データのマーク化(洋書遡及入力)に導入して以来,もっぱら,整理業務に活用してきた。職員の削減化が進む中で,2001年からは,サービス業務にも広げ,図書の迅速提供や,開館日の大幅拡大,地域社会への開放など,サービスの拡充と高度化を実現した。一方で,業務スキルの継承性の喪失や,OJTによる人材育成が困難になるなど,深刻な問題も発生している。業務委託の質の問題も問われている。職員の業務を明確にし,専門職化を進めていかなければならない。

キーワード: 迅速提供,サービス拡大,サービス高度化,人材育成,コアコンピタンス,専門職員

立命館大学におけるアウトソーシングの導入
−アウトソーシング(業務委託)を活用した専任職員業務の専門性の確立−

石井 奈穂子
いしい なほこ 立命館大学図書館サービス課
〒603-8177 京都市北区等持院北町56-1
Tel. 075-465-8133(原稿受領 2007.5.17)

 大学を取り巻く環境は,国公私立を問わず,ますます厳しさを増している。大学の教育・研究基盤である図書館も例外ではなく,IT化の進展,学術情報のデジタル化,学術情報流通の国際的な新たな枠組みの形成など,これまで経験したことのない激動期にある。立命館大学では,高等教育を取り巻く環境の変化に応じて,業務委託も含め組織再編を行ってきた。本稿では,立命館大学図書館における業務委託化の取り組みの経緯,2005年度の事務組織の再編とそれに伴う業務委託の拡大について現状を紹介するとともに,今後の大学図書館サービスのあり方についても触れる。

キーワード: アウトソーシング,業務委託,立命館大学,大学図書館経営,図書館組織,専門性

再考!アウトソーシング
−同志社大学の目録整理の事例を通して−

中島 操*1
*1なかじま みさお 同志社大学 総合情報センター 学術情報課
〒602-0906 京都市上京区今出川通烏丸東入
Tel. 075-251-3965(原稿受領 2007.4.19)

*2本記事は,2006年11月の第8回図書館総合展で行った講演内容に加筆し書き下ろしたものである。
 今の時代,経営の観点から考えたとき,アウトソーシング(以下,「外部委託」)は避けられない。同志社大学は2001年4月より,図書整理業務について全面外部委託を行った。整理部門の人員を削減し,当時の重点部門への人員投入ができた点は成功といえる。しかし,整理部門の現場では様々な問題点が発生した。現場の担当者は,限られたコストの中で,外部委託に最大限の効果を発揮させることしか選択の余地が与えらない。様々な角度から改善が必要になるが,委託先業者との関係については,「仕様書」と「点検評価」が鍵を握る。

キーワード: アウトソーシング,外部委託,外注,NACSIS-CAT,仕様書,点検評価,マネジメント,目録,目録整理

中小規模大学図書館における派遣スタッフの活用

槻本 正行
つきもと まさゆき 流通科学大学附属図書館
〒651-2188 神戸市西区学園西町3-1
Tel. 078-794-2130 (原稿受領 2007.5.9)

 広義のアウトソーシングとしての人材派遣の活用について,中小規模の大学図書館としての観点から事例報告とその検討を行う。まず,業務委託でなく,なぜ人材派遣なのかについて述べる。つぎに人材派遣の導入およびその活用にあたって留意するべき点とその結果もたらされるものとしてどのようなことがあるのか,派遣スタッフの活性化について考察する。派遣スタッフについて問うことは,専任職員のありかたを問うことでもある。

キーワード: 図書館経営,アウトソーシング,人材派遣,大学図書館,図書館員

発明者引用特許の抽出とその分析

六車 正道
むぐるま まさみち 六車技術士事務所
〒316-0032 茨城県日立市西成沢町4-37-6
Tel. 050-8012-2416(原稿受領 2007.4.26)

 日本特許における引用文献の種類と特徴を解説し,特許明細書中に発明者自身が書いている引用特許の記載の特徴を明らかにした。そして,「発明者引用特許」の高精度の抽出システムを完成させ,1993年以降の発明者引用特許の記載の実態を明らかにし,年々,記載件数が増えている状況を明らかにした。また,一例としてナノテクノロジー分野において審査引用特許に対して発明者引用特許が圧倒的に有利であることを明らかにした。

キーワード: 引用特許,発明者引用特許,引用特許抽出,審査引用特許,ナノテクノロジー

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