「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 57 (2007), No.4

特集=「図書館への提言」

特集「図書館への提言」の編集にあたって

 情報技術の変化に伴い,従来図書館が主に収集・保存・提供対象としてきた書籍情報には大きな変化が訪れています。また,「情報」の伝わり方,見せ方,繋がり方も多様になっています。めまぐるしい情報環境の変化と共に,図書館のあり方にも変化を求められているのではないでしょうか?  図書館関係者から発信された提言も少なからずありますが,今回の特集では,図書館の外側,関連分野の方々から,図書館,図書館機能,図書館職員に対する提言を頂戴いたしました。当事者には気づかない強みや弱みが,少し離れた立場の方からの指摘によって見えてくることもあるでしょう。また,図書館という枠内に留まらず,関連する周辺分野の方々との繋がりをもって時代に向き合う必要があると考えたからです。
 一口に「図書館」といっても,設置母体,サービス対象,館種,主題などにより,各図書館の使命や方向性は様々であり,一括りにできない多様性を持っています。ご執筆いただいた方々それぞれに,イメージされている図書館は様々ですが,図書館機能の本質的なところでは,共通するものがあるのではないでしょうか。
 情報環境の変化にどのように対応するか。単館では解決できないことも,図書館組織,図書館団体,関連団体と協同して取り組むことで,流れが変わるかもしれません。変わること,変えてはいけないこと,これからの図書館のあり方へ想いを巡らす一滴となれば幸いです。
(会誌編集委員会特集担当委員:及川はるみ,川瀬直人,関戸麻衣)

図書館のミッションを考える

片山 善博
かたやま よしひろ 鳥取県 知事
〒680-8750 鳥取市東町1-220
(原稿受領 2007.1.22)

 図書館本来の機能,つまりミッションは,民主主義社会の国民・住民の「自立支援」を「知的インフラ」という側面で支えることである。真の民主主義社会の実現には,政府と国民との間でできるだけ広範な情報共有が必要であると同時に,政府が発信する情報だけでなく,いわば「対抗軸」ともいうべき客観的資料や政府案への問題点を論じた資料など,バランスの取れた情報環境が必要である。また,重要な政策決定を審議する際,失敗事例,諸外国事情を含め,基礎となる資料や情報は不可欠である。それらの情報環境を担うのが図書館であり,図書館のミッションといえる。そして,それらの情報へのアクセスを的確に行うのが司書の役割である。

キーワード: 民主政治,図書館,ミッション

アーカイブズと図書館

松岡 資明
まつおか ただあき 日本経済新聞社
〒100-8066 東京都千代田区大手町1-9-5
Tel. 03-5255-2325(原稿受領 2007.1.30)

 アーカイブズとは,歴史的に価値のある公文書などの記録資料やそれを保管する施設などを指す言葉である。図書館とはあまり関係なさそうに思えるアーカイブズだが,そこに焦点を合わせてみると日本の後進性が浮き彫りになる。政府も,国民も,その重要性をほとんど認識していないからである。欧米先進国に限らず,アーカイブズは国の形の基本をなすものである。にもかかわらず,日本でなぜ,アーカイブズが育たなかったのか。それは,日本の近代史を研究するうえで見逃せない研究テーマとなるであろう。換言すれば,アーカイブズの後進性を打破していくことこそ,図書館や博物館,美術館がいま,直面する問題の根本的な解決につながる重要な課題なのではないだろうか。

キーワード: 電子化,情報公開,専門職制度,文化資源,法整備,国家戦略

情報は捨てても本は捨てるな

津野 海太郎
つの かいたろう 和光大学教授・編集者
〒330-0053 さいたま市浦和区前地3-9-23
Tel. 048-883-3973(原稿受領 2007.2.13)

 21世紀冒頭,公立図書館の未来にかかわる二つの重要な出来事が起こった。Googleの図書館蔵書の電子化プロジェクトと,東京都庁による都立図書館蔵書の大量廃棄だ。両々あいまって,図書館人や出版人や利用者のあいだに,資料の「保存」と「利用」にかかわる伝統的な図書館原理をこの先も保持できるのだろうか,という不安がひろがっている。電子化を図書館の伝統的原理に連続させ,新しい技術をわれわれの社会に安定的に着地させるための方策は,まだ見えていない。その困難を直視しない経済先行の図書館改革を批判的に考察する。

グーグルブック検索の取組みについて

牧野 友衛*1,徳生 裕人*2
*1まきの ともえ,*2とくせい ひろと
グーグル
〒150-8512 東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー6階
Tel. 03-6415-5200(原稿受領 2007.2.21)

 コンピュータの前に座り,これまで書かれた全ての書籍の全文を検索できるとしたら。誰でも,どこでも,いつでも,検索クエリをいれるだけで世界中の書籍を見つけることができる,電子化されたカードカタログがあったとしたら。それこそが,2004年秋に導入したGoogleブック検索の夢である。 Googleブック検索は,世界中の書籍という情報の海の中から,ユーザーが求める書籍を見つける手助けをする。本稿では,Googleブック検索の取り組みについて説明する。

キーワード: グーグル,ブック検索

図書館への提言:図書館システムの開発に携わって

大川 丈男*1,松尾 浩一*2,細野 光治*3
*1おおかわ たけお,*2まつお ひろかず,*3ほその みつじ
潟Eィザード 図書館システムグループ
〒107-0062 東京都港区南青山7丁目1-7 C-Cube南青山5F
Tel. 03-5774-7777(原稿受領 2007.1.20)

 1980年代から始まった図書館をシステム化するという波は,大型汎用コンピュータによる一極集中処理の形態から,データベース機能,業務処理機能,検索機能(OPAC)等を機能分けしたクライアント・サーバーシステムに移り,現在ではインターネット上にOPACを公開し,Webを通じていつでもどこからでも図書館が持つ情報にアクセスできる状況に至っている。これらの流れの中でコンピュータ技術者として実際に図書館システムの日本語化に携わった側面から,グローバル・スタンダードの大切さ特に文字コードの標準化や,またWebが主流となった情報検索の世界で図書館が果たす役割などを昔の苦労を振り返りつつ述べる。

キーワード: 図書館システム,グローバル・スタンダード,日本語化,学校図書館法,司書教諭

本と人の出会いの場〜書店と図書館

福嶋 聡
ふくしま あきら 潟Wュンク堂書店池袋本店
〒171-0022 東京都豊島区南池袋2-15-5
Tel. 03-5956-6111(原稿受領 2007.1.31)

「図書館型」の書店の代表格と見なされてきたジュンク堂書店に勤務する筆者が,何ゆえに図書館を利用してきたか,図書館に対していかなる提言をなしてきたか?前半部で,ジュンク堂書店のこれまでの展開の中で目指された理念とその実践を紹介し,後半部で,図書館を利用する理由,図書館に対する提言を述べながら,「本と人の出会いの場」としての書店と図書館の役割分担,連携の可能性について考えたいと思う。一読者として本の魅力,読書体験のもつ魅力を体験してきたからこそ,書店,図書館という枠を乗り越えて,多様な「本と人の出会いの場」を形成していきたいという筆者の思いが,何よりの出発点である。

キーワード: 「図書館よりもっと図書館」「阪神淡路大震災と全国展開」「ジュンク堂のさまざまなアイデア」「図書館を利用する書店人」「図書館へのいくつかの提言」「本と人の出会いの場としての役割分担」

投稿:電子ジャーナルのオープンアクセスと機関リポジトリ
−どこから来てどこへ向かうのか (I)オープンアクセス出版の動向

時実 象一
ときざね そういち 愛知大学文学部
〒441-8522 愛知県豊橋市畑町1-1
Tel. 0532-48-0111(原稿受領 2007.2.26)

 最初のオープンアクセス出版社BioMed Centralが設立されてからすでに7年となる。その節目にオープンアクセスのさまざまな動きをまとめた。(I)ではDirectory of Open Access JournalsやPubMed Centralの雑誌の分析,BioMed CentralやPLoSなどのオープンアクセス雑誌,HighWire Pressなどの時差公開,掲載料を支払って自分の論文をオープンアクセスとするオープンアクセス・オプションについて最近の動向をまとめた。オープンアクセス・オプションについては,2006年中に主要な出版社が揃って採用を決めたことは注目される。

キーワード: オープンアクセス,電子ジャーナル,学術雑誌,機関リポジトリ,オープンアクセス・オプション,時差公開,研究助成機関,BioMed Central,PLoS,SPARC,NIH,Wellcome財団,RCUK,学術出版,学協会

新春セミナー「コミュニケーションスキルを磨く!」開催報告

INFOSTA研修委員会

2007年1月19日新春セミナーレポート

プレゼンテーションは相手の心に響く贈り物

八幡 紕芦史
やはた ひろし 特定非営利活動法人 国際プレゼンテーション協会 理事長
〒107-0062東京都港区南青山4-15-4-301
Tel. 03-3401-1520(原稿受領 2007.2.22)
mail: h-yahata@npo-presentation.org
URL: http://www.npo-presentation.org/

 多くの話し手は,プレゼンテーションとは,自分の言いたいことを言うことと誤解している。プレゼンテーションとはプレゼントであるから,聴き手が聴きたいことを語るのが本来のプレゼンテーションである。プレゼンテーションに成功するためには,聴き手を分析し,目的と目標を分析し,場所と環境を分析する。そして,それらの分析結果に基づいて,プレゼンテーションのシナリオを組み立てる。プレゼンテーションで効果的かつ効率的に情報を発信するためには,情報を整理・分類し聴き手の聴きたい順番で提示すること,多くの情報を与えるのではなく情報はコンパクトに提示すること,そして,情報のもつ意味と聴き手にとっての意味づけをプレゼンテーションしなければならない。そして,実際のプレゼンテーションの場面では,言語と非言語を活用しながら,聴き手に情報を発信する。

キーワード: プレゼンテーション,贈り物,情報発信,3P分析,シナリオ,デリバリー

情報検索基礎能力試験の導入
九州女子大学人間科学部図書館情報学専修コースにおける経験

高橋 昇
たかはし のぼる
九州女子大学・九州女子短期大学附属図書館長 九州女子大学人間科学部人間文化学科教授
〒807-8586 北九州市八幡西区自由が丘1-1
(原稿受領 2007.3.1)

藤女子大学図書館情報学課程における「情報検索基礎能力試験」への試み

下田 尊久
しもだ たかひさ
藤女子大学 図書館情報学課程
〒001-0016 札幌市北区北16条西2丁目
Tel. 001-736-0311(原稿受領 2007.3.5)

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