Vol. 55 (2005), No.11
図書館のリニューアルには新築,増改築,館内のリフォーム等さまざまな方法があります。これらのリニューアルは準備作業を計画的に進める必要があります。たとえば図書館の移転の場合には,大量の蔵書の移動方法についてあらかじめスケジュールをたてておく必要があります。また,館内が手狭になり将来,増改築を予定している図書館は蔵書の増加量を推測して室内スペースを確保するための計画を立てる必要がでてきます。そして,高齢者やからだの不自由な方にとっても使いやすい図書館にするには,室内段差を解消する等の室内のリフォームが欠かせません。このようなとき,他館の前例を参考にできれば,リニューアルの計画を立て易くなるのではないでしょうか。
今回の特集は,既にリニューアルを実施した図書館から,そのポイントを挙げていただき,今後リニューアルを計画している図書館のために役立つヒントを提案していただくことを意図しました。たとえば,移転した図書館に,移転の際に困った点や具体的なスケジュール作成例を紹介していただきました。また,増改築を予定している図書館のために,増改築を担当した建築設計事務所にそのポイントを紹介していただきました。次に,誰にとっても使いやすい図書館のためのユニバーサルデザインについて述べ,多様なユーザに対応できる図書館にするための提言を紹介しました。その他にもリニューアルの例として,優れた図書館建築を顕彰し,質とサービスの向上を図ることを目的とした日本図書館協会建築賞の受賞図書館を紹介しました。また,今年,阪神淡路大震災から10年を迎えましたが,図書館を再建し,人々が再び図書館に集うようになるまでのこの10年の歩みを述べていただきました。
さまざまな視点から図書館のリニューアルを紹介することで,今回の特集が,今後,リニューアルを検討している図書館や,当面リニューアルの予定はなくても新しい図書館の姿を思い描くときのヒントになれば幸いです。
(編集担当委員:野本 東,及川 はるみ,木下 和彦,高島 有治)
植松 貞夫*
*うえまつ さだお 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
Tel. 029-859-1025(原稿受領 2005.9.1)
図書館を取り巻く環境の急激な変化などから,家具の配置替え,増築・改築,新築などの施設改善の必要性が増加している。本論では,他用途施設からの転用を含めて,家具配置の変更から大規模修繕までの施設改善に関して,建築を長寿命化させる基本的課題,施設改善のプロセス,法規と規制そして事例などについて概観する。長寿命化では,建築の寿命は物理的な耐久性よりも耐用性が左右していること,施設改善のプロセスでは,規模計画を中心に建築工事に至る流れなどをまとめる。法規と規制では,施設改善の促進と制限の両様で作用する構造強度など6項目についてその内容を述べる。事例では茨城県立図書館などを扱う。
キーワード: 図書館建築,施設改善,増築,改築,模様替え,転用,建築基準法
久保田 壮活*
*くぼた そうかつ 東京大学柏図書館
〒277-0882 千葉県柏市柏の葉5-1-5
Tel. 04-7136−4223(原稿受領 2005.9.9)
東京大学柏図書館は,東京大学「3極構造」構想の一つである柏キャンパスの中心的図書館として,平成17年2月正式開館した。柏キャンパスで活動する学生教職員のための学習研究図書館としてだけではなく,全学資料共同利用センターとして,50万冊収容可能の自動化書庫を備え,文献提供の拠点としても機能している。
さらに社会に開かれた図書館として,社会連携を中心としたさまざまな活動,「場」の提供も重要なサービスと位置づけている。
「次世代型図書館」をキーワードにつくられた東京大学柏図書館の建設計画から完成までの経緯をたどり,活動中の現在,そして,今後の計画について述べる。
キーワード: 東京大学柏図書館,全学資料共同利用センター,自動化書庫,図書館建設
大村 文誉*
*おおむら ふみたか 岡山県立図書館
〒700-0823 岡山市丸の内2-6-30
Tel. 086-224-1286(原稿受領 2005.8.23)
岡山県立図書館は新館開館を機に,規模・組織とも大きな変化を遂げた。旧館の建物は狭かったため,所蔵資料を全て旧館だけでは収蔵しきれず,複数の建物に分散して資料を収蔵していた。移転計画を立てる上で最も苦労したことは,これら資料の配架計画だった。配架時に,分散している資料を合体しながら配架しなければならかったためである。また作業中には様々なアクシデントが生じ,計画の変更を度々余儀なくされた。移転作業は,何とか予定通りの時期に完了することができた。しかし,組織作り等に課題のある移転作業であった。
キーワード: 図書館,岡山県立図書館,移転,資料移転,引越
石丸 仁士*
*いしまる ひとし 広島修道大学図書館
〒731-3166 広島市安佐南区大塚東一丁目1-1
Tel. 082-830-1112(原稿受領 2005.7.28)
広島修道大学図書館が「第20回日本図書館協会建築賞」を受賞した。建築もサービスもともに優れた図書館として全国に紹介された。喜びとともに責任を痛感する。
本学図書館の場合は増改築型の図書館である。将来増改築を予定されている図書館に少しでも役立つ情報を提供したい。具体的には2-2で紹介する。ここでの提案を具体的に設計に活かしていただいたからこそ受賞できたものと考えている。
新図書館が完成し,利用状況に変化がおきている。年間の学外利用者登録数は7倍に増加した。受賞に恥じない今後の図書館運営をしたい。
キーワード: 学習環境の整備,授業支援機能の強化,学生が集まるところ(楽しさ・親しみ・くつろぎ),快適さ,Amenity,豊かさの実感,機能性
松永 憲明*
*まつなが のりあき 神戸市立中央図書館
〒650-0017 神戸市中央区楠町7丁目2-1
Tel. 078-371-3351(原稿受領 2005.9.1)
平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震阪神・淡路大震災により,神戸市立図書館も大きな被害を受け,いったんは機能停止状態となった。地域により被害に差はあったが,全館の機能回復するまでに約2年を要した。その復旧までの過程とコンピュータシステム変更,神戸市図書館情報ネットワークシステムの稼動,新館建設による1区1図書館構想の実現,利便性の向上を目指したサービスの拡充,中央図書館,地域図書館,分館の計11館による図書館システムの構築などへの取り組みが行われた10年間を振り返って,市民が求める図書館の再生までの道のりを紹介する。
キーワード: 神戸市立図書館,阪神・淡路大震災,神戸市図書館情報ネットワークシステム,1区1図書館構想,利便性の向上
赤木 隆*
*あかぎ たかし 鞄建設計設計部門設計室設計長
〒541-0043 大阪市中央区高麗橋4丁目6-2
Tel. 070-6543-6273(原稿受領 2005.8.19)
既存図書館の増築や改修について,企画段階から設計,施工段階に至る過程において留意すべき事項について一般的な注意事項と事例を紹介しながら詳細にわたって概説する。
広島修道大学図書館と龍谷大学大宮図書館の事例を掲載し,具体的な増築についてのポイントを紹介する。
キーワード: 工事中の留意点と移転計画,法的な問題点,既存部分と増築部分の動線計画,将来の情報化,既存部分の耐震性能,施工段階での騒音と埃,施工段階での法的な対応
せきね ちか*
*せきね ちか 潟ーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)
〒227-0061 横浜市青葉区桜台3-67
Tel. 045-989-5173(原稿受領 2005.9.2)
知の集積基地として,地域における図書館の役割は大きく,年齢や能力,性別にかかわらずあらゆる人々の学びの場として機能すべきである。このために,図書館には,建物や情報サービスなどにおいて,ユニバーサルデザインの観点が必要になってくる。ここでは,ユニバーサルデザインとは何か,ユニバーサルデザインとバリアフリーの違いは,なぜ日本でユニバーサルデザインの考え方が必要か,といった,基本的な概念の説明をまず行っている。次に海外の大学図書館などの例を挙げながら,日本の図書館に今後必要とされるものはなにか,提言を行う。
キーワード: ユニバーサルデザイン,アクセシビリティ,ユーザビリティ,高齢化,障害者支援技術,バリアフリー