Vol. 55 (2005), No.10
南部和夫さん。謹んでご逝去を悼みお別れの言葉を述べさせていただきます。
南部さんがお亡くなりになったと聞いたのは,だいぶ後になってからのことで,ご葬儀などにも間に合わずたいへん心残りに思っています。(平成17年7月24日ご逝去)
私が南部さんとお付き合いいただくようになったのは昭和55年ごろからだったでしょうか。南部さんはそのころは花王鰍フ商標部長として技術情報の管理についてもたいへん詳しくて,そのとき技術情報の調査提供業務で苦労していた私にとってはいろいろと有難い方でした。南部さんは協会の役員としても活躍されていて,落ち着いた温厚な人柄でうまく物事をまとめられていたように思います。それで,昭和59年に情報業務功労賞を受賞されました。
その後協会の理事会でいつもご一緒するようになって,何かとお世話になることが多くなり,平成4年に私が中村幸雄さんの後をついで会長に選ばれたときには,近江さんと南部さんのお二人に副会長をお願いして,協会の運営を分担していただくことになったのでした。南部さんには平成8年までの足掛け5年,副会長を歴任していただいたことになります。その間,南部さんは花王を退職されて理化学研究所で特許部門の実質的な運営を担当されて,ずいぶん大変だったようですがしっかり確実に業績をあげられたように伺っております。それから,千葉の帝京平成大学が発足した時から,近江さんと一緒にそこの教授として情報学の授業を担当されて,若い人たちの指導に力を尽くされました。ここ3,4年前からやや体調を崩され,時々お目にかかる機会がありましたが,温厚な人柄は相変わらずで,またお元気なお顔が拝見できると思っていたのにもうそれができなくなってしまいました。
南部さんは花王時代の若いころ,フィリッピンで石鹸の原料としての椰子の栽培で,現地でずいぶん苦労をされたという話を伺ったり,使用目的によって最適な石鹸の選び方など,現場での深い経験に基づいた該博な知識はいつまで聞いても飽きることがありませんでした。また,神楽坂にある南部さんおなじみの中国料理店に折りあるごとにご一緒して楽しんだことも忘れることができません。
南部さん。本当にありがとうございました。どうか安らかにお休みください。
合掌
近年,デジタル形式の学術情報を収集,蓄積,発信するリポジトリが注目を集めています。
学術情報リポジトリには,主題に基づくプレプリントサーバのようなもの,学術機関が研究成果の永続的な蓄積や発信を意図して設置する機関リポジトリ,国の機関がオープンアクセスを推進するために設置するものなどがあり,広義には商業出版社の電子ジャーナルサイトも含まれます。
これらのリポジトリは,出版社運営のものを除くと,オープンアクセスが基本であること,投稿の機能があること,メタデータの管理ができ,サーバ間の相互運用が可能であることなど多くの共通点を持っています。一方,その設置意図や運営方法については異なる面もあります。
この特集では,オープンアクセスの学術情報リポジトリに焦点をあて,その出現から現在に至る過程を振り返りながら,類型や概念について整理し,従来の電子図書館との違いについても解説していただきます。また,なぜいま学術情報リポジトリが注目を集めているのか,オープンアクセス運動や大学改革などとのかかわりついて触れながら論じていただきます。さらに,欧米に始まり日本国内においては端緒についたばかりのリポジトリ構築ですが,具体的なシステム構築や運営の問題について国内の事例もご紹介します。
(編集担当委員:大田原章雄,川瀬直人,木下和彦,荘司雅之)
栗山正光*
*くりやま まさみつ 常磐大学人間科学部
〒310-8585 水戸市見和1-430-1
Tel. 029-232-2560(原稿受領 2005.8.5)
電子形態の学術論文を収集・蓄積して広くアクセスを提供するリポジトリの構築が話題になっている。本稿では機関リポジトリを中心に,歴史的経緯も踏まえつつ,e-プリント・アーカイブ,電子ジャーナル,オーブン・アクセス運動,セルフ・アーカイビング,オープン・アクセス誌,などといった関連する諸概念を整理する。また,オープン・アクセスと学術コミュニケーションをめぐる議論や機関リポジトリとオープン・アクセスとのかかわりについて論じる。さらに,日本の現状や1990年代に行われた電子図書館プロジェクトとの接点についても触れる。
キーワード: 機関リポジトリ,e-プリント・アーカイブ,電子ジャーナル,オープン・アクセス運動,セルフ・アーカイビング,オープン・アクセス誌,学術コミュニケーション
時実象一*
*ときざね そういち 愛知大学文学部図書館情報学専攻
〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町 1-1
Tel. 0532-48-4467(原稿受領 2005.7.22)
オープンアクセス運動の歴史を,その重要な原動力であったSPARCを中心として振り返り,最近の米国国立衛生研究所(NIH)の公共アクセス方針や欧州でのオープンアクセスの運動を紹介する。またオープンアクセス運動の主要な柱となっている,電子論文リポジトリ(分野別リポジトリ,研究機関リポジトリ,研究助成機関リポジトリ)についてまとめた。
キーワード: オープンアクセス,学術出版,電子ジャーナル,商業出版社,学会出版社,リポジトリ,SPARC, e-print, arXive. org, NIH,ブタペスト運動,ベルリン宣言,ベセスダ宣言
筑木一郎*
*つづき いちろう 国立国会図書館関西館事業部図書館協力課
〒619-0287 京都府相楽郡精華町精華台8-1-3
Tel. 0774-98-1450(原稿受領 2005.7.20)
英国では,学術機関における知的資源の効果的な発信・共有を図るFAIRプログラムが,情報システム合同委員会(JISC)の助成を受けて実施された。本稿では,その中から,電子学位論文に関して実施された3プロジェクト(Theses Alive!,Electronic Theses,Daedalus)について紹介する。これらのプロジェクトでは,学位論文に適したリポジトリ・システムの構築,メタデータ・コア・セットの設計,収集・提供モデルの調査などが行われた。重要な成果としては,教育・研究プロセス,研究指導の過程にリポジトリを連携させた点などがあり,機関リポジトリおよびオープンアクセスの可能性が示唆される。
キーワード: 機関リポジトリ,電子学位論文,JISC,Tapir,メタデータ,著作権処理,下院科学技術委員会,リポジトリ・ネットワーク,オープンアクセス,灰色文献
高木 元*
*たかぎ げん 千葉大学文学部日本文化学科日本文化論講座
〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33
Tel. 043-251-1111(原稿受領 2005.7.21)
司書資格を有し,情報の収集,情報発信,レファレンス業務を本務としている人をサブジェクトライブラリアンとするならば,非常に数は少ないが,各企業にとって今一番必要とされ,大事にされる人材だと思われる。
人文科学系基礎学の研究業績は、多くの場合経済的な見返りが期待できない。のみならず、短期間に個人で完璧な成果を挙げることの困難な課題が多い。したがって活字媒体での公表のみならず、インターネット上にWebサイトを確保して、そこにアーカイブし公開することの意義は大変に大きい。著者自らが日々新たな知見や情報によって自らの記述の更新が可能だからである。しかし、一般に個人サイトの維持は有限である。千葉大学で始まった学術成果リボジトリは、書誌情報を添加して固定的なurlで持続的に保存されるという点で劃期的であるが、機械可読テキストの最大の長所である適時の更新、ないしは更新履歴の保存に対応していない点などの課題も残している。
キーワード: 人文基礎学、研究成果公開、学術成果リボジトリ、著作権、GNU、GPL、GFDL
行木孝夫*1,畠山元彦*2
*1なみき たかお 北海道大学大学院理学研究科数学専攻
*2はたけやま もとひこ
〒060-0810 北海道札幌市北区北10西8
Tel. 011-706-4439(原稿受領 2005.7.19)
北海道大学理学研究科数学専攻におけるGNU EPrintsを利用したプレプリントサーバの構築についてEPrintsの構造を含めて解説する。数学を取り巻く状況,数学教室において必要とされる機能,セルフアーカイブを可能にする環境等について紹介し,プレプリント以外のコンテンツに関して述べる。数学関連のリポジトリからのミラーリング,キャッシュサーバの構築,ハーベストしたメタデータを活用したサービスを簡単に解説する。
キーワード: プレプリントサーバ,リポジトリ,データプロバイダ,サービスプロバイダ,OAI-PMH
郡司 久*
*ぐんじ ひさし 名古屋大学附属図書館情報システム課
〒464-8601 名古屋市千種区不老町
Tel. 052-789-3685(原稿受領 2005.7.20)
名古屋大学では,附属図書館を中心とした学術情報流通高度化への取り組みとして,「学術ナレッジ・ファクトリー」(AKF:Academic Knowledge Factory)を構想し,その中核機能としての学術機関リポジトリを全体計画に先行して立ち上げるべく取り組んでいる。学術機関リポジトリの構築・運用に向けた状況に加え,学術機関リポジトリに数多く利用されているDSpaceのシステム構成や機能,主な設定等について概観するとともに構築に向けての具体的な課題などについて概説する。
キーワード: 名古屋大学,学術機関リポジトリ,DSpace,ハイブリッド・ライブラリー,学術ナレッジ・ファクトリー
情報科学技術協会 OUG特許分科会
川田力(エーザイ梶j,小川裕子(オルガノ),*南田泰子(エーザイ梶j,石田洋平(第一製薬梶j,下川公子(味の素梶j,石田由利子(第一化学薬品梶j,関口靖子(チッソ化学梶j
連絡先;
*南田泰子(みなみだ やすこ)エーザイ樺m的財産部
〒112-0002 東京都文京区小石川4-6-10
Tel. 03-3817-3760(原稿受領 2005.5.19)
特許存続期間延長制度に相当するヨーロッパの医薬品の補足保護証明(Supplementary Protection Certificate; SPC)制度と,その保護期間の調査方法などについて概説する。
キーワード: 医薬品,補足保護証明,SPC,新薬事規則,欧州連合