Vol. 55 (2005), No.6
特集=電子ジャーナルの現状
特集「電子ジャーナルの現状」の編集にあたって
「電子ジャーナル」については,本誌2002年2月号で特集を組みましたが,その後3年余りを過ぎた現在,電子ジャーナルの普及は目覚しく,また,それを取り巻く環境もかなり変化してきました。
例えば,電子ジャーナルを出版する側では,「オープン・アクセス」や「セルフ・アーカイヴ」といった新たな潮流に対応するために,様々なモデルを模索しています。また,図書館にも,電子ジャーナルの契約タイトル増大に伴い,電子資源特有の情報をシステム的に管理することが求められています。
今回の特集では,電子ジャーナルの現状を客観的な数字を用いて概説した総論をはじめとして,主に出版社側のビジネスモデルと電子ジャーナル管理の事例,標準的なツールを取り上げました。
電子ジャーナルは,国内発のものを含め増加の一途を辿るのは明らかですが,そのビジネスモデルは過渡期にあるようです。本特集が,このような電子ジャーナルの現状を理解する一助となり,また,その管理や利用者へ提供する際の参考となれば幸いです。
(編集担当委員:荘司雅之,岡谷 大,川瀬直人,松林正己)
総論:電子ジャーナルの現状
加藤信哉
*かとう しんや 山形大学附属図書館情報管理課
〒990-8560 山形県山形市小白川町1-4-12
e-mail:skato@jm.kj.yamagata-u.ac.jp
(原稿受領 2005.4.20)
電子ジャーナルの現状を,定義,出版,価格体系,図書館,利用のトピックから概観した。出版では,出版タイトル数および出版社を取り上げ,電子ジャーナルのタイトル数の推移,出版社の買収合併の経緯を述べた。価格体系では,電子ジャーナルの価格体系の現状,コンソーシアムに対する価格設定,反転価格設定について述べた。図書館では,わが国および米国の大学図書館の電子ジャーナルの整備状況を述べた。利用では,電子ジャーナル・タスクフォースによる調査,トランザクション・ログ分析およびILLへの影響を扱った。
キーワード:電子ジャーナル,出版,価格,図書館,利用,ILL
オープンアクセス:大学出版局の見解
「根拠がポリシーを作るのか,ポリシーが根拠を作るのか?」
マーティン・リチャードソン*1著,的 場 美 希*2
原文:
Open Access : evidence-based policy or policy-based evidence? The university press perspective. The Journal for the Serials Community, Vol. 18, No. 1, p. 35-37 (2005. 3)
*1マーティン・リチャードソン オックスフォード大学出版局,オックスフォード・ジャーナル マネジング・ディレクター
Great Clarendon Street, Oxford, OX2 6DP,UK
Tel. +44 1865 353780
*2まとば みき オックスフォード大学出版局
オックスフォード・ジャーナルセールスエグゼクティブ
〒113-0023 東京都文京区向丘1-1-17 タカサキビル5F
Tel. 03-3813-1461(原稿受領 2005.3.18)
オープンアクセスには擁護者も懐疑者もいる。現時点ではその理解が未熟なため,誰もが何らかの意見を持ちながらその確固たる根拠を示すことができない。また,擁護側も懐疑側もその見方を裏付けるような詳細な事実を提供できないでいる。オックスフォードジャーナルは学術研究情報へのアクセスを最大限に可能にするため,多様なビジネスモデルを試みている。これらの実験目的は,新しいモデルの長期的,経済的な実行可能性をテストするとともに,オープンアクセスにより,実際に現存のモデルより広範に学術情報を広めることができることを確認するためでもある。
キーワード:オープンアクセス,ビジネスモデル,機関レポジトリー,アーカイブ,
著者投稿料,著者支払い型
エルゼビアの電子出版戦略
高橋昭治*
*たかはし しょうじ エルゼビア・ジャパン
〒106-0044 東京都港区東麻布1-9-15 東麻布1丁目ビル4階
Tel. 03-5561-5034 (原稿受領 2005.3.31)
エルゼビアは,電子ジャーナル・プラットフォームであるサイエンス・ダイレクトを通じて,多様なライセンスの選択肢の提供やバックファイルの遡及プログラムなどによってコンテンツとアクセスを拡大し,科学情報の普及に貢献してきた。近年,インターネットの発展に伴って,著者支払いモデルのオープンアクセス・ジャーナル,セルフアーカイブ,出版後一定期間後の無料アクセスなどの新しい出版モデルが現れてきたが,それらに対するエルゼビアの現在の考え方と対応を述べる。また,電子ファイルの長期的な保存を保証するためのデジタル・アーカイブへの取り組みをオランダ国立図書館との公式アーカイブ契約を含めて紹介する。
キーワード:電子ジャーナル,サイエンス・ダイレクト,バックファイル,
オープンアクセス,セルフアーカイブ,デジタル・アーカイブ
慶應義塾大学における電子ジャーナル管理の現状と展望
〜EJアクセシビリティを中心として〜
田邊 稔*,山田雅子**
*たなべ みのる 慶應義塾大学メディアセンター本部(システム担当)
**やまだ まさこ 慶應義塾大学メディアセンター本部(雑誌担当)
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5427-1715 (原稿受領 2005.4.28)
外国雑誌における電子化の動きは年々加速しており,大学図書館では煩雑な管理を強いられている。慶應義塾大学においても,ここ数年で電子ジャーナルを取り巻く環境が急激に変わってきている。また,利用者から見ても,利用形態が多岐に渡っていることや,オフキャンパスからのアクセス制限など不便を感じている。このような変化を受け,慶應義塾大学において,電子ジャーナル管理の現場担当がどのように取り組んでいるか,今後どのようなシステムモデルを描いているかを示した上で,さらにアクセス管理の現状と展望について言及する。
キーワード:電子ジャーナル管理,アクセシビリティ,EBSCO A-to-Z,ERMS,アグリゲータ,OpenURL,Linkリゾルバ,認証,アクセス管理,ppp,VPN,プロキシ,EZProxy,Webサービス
電子ジャーナルの導入とその影響について
―九州大学の事例―
渡 邊 由紀子*
*わたなべ ゆきこ 九州大学附属図書館情報管理課雑誌情報掛
〒812-8581 福岡市東区箱崎6−10−1
Tel. 092-642-2329 (原稿受領 2005.3.18)
電子ジャーナルの導入が,図書館の利用者サービスと管理業務にどのような影響を与えたかについて,九州大学の事例を報告する。まず,電子ジャーナル導入の経緯について振り返る。次に,利用支援のためのワーキンググループ体制,ナビゲーションのためのOPACやリンク集,新しく導入した管理ツールやリンクリゾルバー等について紹介する。続いて,電子ジャーナルの利用動向を,ILL依頼件数やフルテキストのダウンロード件数をもとに概観する。最後に,雑誌管理業務の変化とその変化に対応するための事務組織再編等の取り組みについて述べる。
キーワード:電子ジャーナル,大学図書館,九州大学,ナビゲーション,リンキング,
雑誌管理業務,組織再編
電子情報資源管理システム(ERMS)
伊藤裕之*
*いとう ひろゆき ユサコ梶@テクニカルサポートグループ
〒106−0044 東京都港区東麻布2-17-12
Tel. 03-3505-3257 (原稿受領 2005.3.22)
電子情報資源の増大は図書館員の業務を一変させた。その反面,紙媒体の情報資源管理を目的とした総合図書館システム(Integrated Library System, ILS)を利用して,基幹の受け入れ業務を行っている図書館がまだまだ主流をしめている。紙媒体の情報資源と電子情報資源とは性格の異なる部分が多く,今や電子情報資源管理を支援する適切なツールの不在は明らかである。本稿では,電子情報資源管理システム(ERMS)の現状とその機能について,主に北米の大学図書館における取り組みを紹介していく。
キーワード:電子情報資源管理システム,大学図書館,電子図書館連合,電子ジャーナル,メタデータ,XML,標準規格,図書館システムベンダー