情報の科学と技術
Vol. 55 (2005) , No.3
特集=図書館コンソーシアムの動向, pt.2

特集「図書館コンソーシアムの動向, pt.2」の編集にあたって

図書館コンソーシアムは欧米では1世紀を超える実績をすでに持っていると「コンソーシアムと電子ジャーナル: 概観」を書いたミリアム・チャイルズとヴィル・ヴェストンは書いている。総合目録に始まり,相互貸借制度,分担収集の機能をいわば団体で維持している。近年はチャイルズたちの論文で書かれているように,電子ジャーナルのライセンス契約の代行業の代名詞のように見られている向きもあるが,これは本来の姿ではない。欧米の図書館文化の豊かさはさまざまな経営努力の賜物である。
 コンソーシアムとして著名な組織オハイオリンク(OhioLINK)を本誌で紹介して既に8年,また図書館コンソーシアムを3年前に特集した。この3年間に日本の図書館コンソーシアムは国立大学図書館協議会を中心に目覚しい展開を見せている。国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC)への加盟から,国際的にも積極的な発言と行動が伴うようになってきた。これら実り豊かな活動も政治経済状況の変動を直接受けており,将来的に明るい展望ばかりがあるわけではない。その現状を把握し,斯界に裨益する議論を頂くために本特集は編まれた。
 総論の細野論文は欧米と日本との基本的な差異を描き出し,コンソーシアムの本来的な意義を確認している。描かれた差異の背景には,政治経済を含めた文化の問題から派生する図書館の問題を各論ごとに議論いただいた。問題のすべてを包摂するのはもとより無理だが,地域,多文化や政治経済の変動がもたらす現状を描き出しており,図書館がかかえる現代的問題の複雑な一面でもある。読者諸賢の暑い議論を点火できたなら,幸いである。
(担当編集委員 松林正己,岡谷 大)

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図書館コンソーシアムの現状とその課題

細野公男
ほその きみお 慶應義塾大学教授,メディアセンター所長
 〒108-8345 港区三田2-15-45
 Tel. 03-3453-4511(原稿受領 2005.1.20)

 電子ジャーナルの購入に係わる活動を協力して行うための組織であるコンソーシアムは,近年その重要性が強く認識されている。こうした活動が学術情報の流通基盤の一部を構成するようになったからである。そのため欧米の先進的な諸国ではコンソーシアム活動が積極的に展開されているが,わが国ではまだ参加館が少なく揺籃期にある。したがって,今後どのように発展させていくかが図書館界にとって焦眉の問題となっている。そして海外の先進的・特徴的なコンソーシアム活動の実態を知り,それらをわが国の事情に照らして適宜参考にすることが求められている。
 コンソーシアムの定義・意義,特徴,目的,形態,種類,方針は,それぞれの時代や国・地域によって異なる。そこで本稿では近年の状況について述べ,西欧を中心に欧米における例を紹介する。さらにわが国におけるコンソーシアムの特徴と課題の一端を明らかにし,その今後について言及する。

キーワード
:図書館コンソーシアム / 電子ジャーナル / 相互協力活動 / 国立大学図書館協会 / 私立大学図書館コンソーシアム / 西欧のコンソーシアム / FinELib / コンソーシアムの組織形態 / コンソーシアムの拘束力

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東南アジアにおける図書館コンソーシアム

北村由美
きたむら ゆみ 京都大学東南アジア研究所
 〒606-8501 京都市左京区下阿達町46 京都大学東南アジア研究所
 Tel. 075−753−7302(原稿受領 2005.1.21)

 2002年に独立した東ティモールを含む東南アジア11カ国は,タイを除き戦後に植民地から独立した新しい国々である。これらの東南アジア諸国の図書館の現状は,独立後の政治的・経済的経緯の差により様々であるが,地域内の情報資源共有を目的とした図書館コンソーシアムの形成は1960年代にすでに試みられている。本稿は,東南アジアにおける地域横断型図書館コンソーシアムと,特にフィリピンとタイに見られる国内型図書館コンソーシアムを概観することで,同地域における図書館ネットワーク形成の背景と意義を考察する。

キーワード
:東南アジア,図書館コンソーシアム,図書館ネットワーク,情報資源共有,フィリピン,タイ

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カナダの図書館コンソーシアム活動

井上雅子
 いのうえ まさこ 国立国会図書館関西館資料部文献提供課
  〒619−0287 京都府相楽郡精華町精華台8-1-3
  Tel. 0774-98-1200(原稿受領 2005.1.12)
  カナダでは,自国の地理的・文化的な多様性から生じるサービス上の困難を克服するための図書館協力活動の延長として,多種多様な図書館コンソーシアムが発展してきた。カナダの市場や個々のコンソーシアムの規模は他国に比して小さいが,既存のコンソーシアムが連携する形の大型コンソーシアムも登場し,ライセンス契約を含む様々な協力活動が行われている。カナダの図書館事情の独自性に触れつつ,CNSLP(Canadian National Site licensing Project),Consortia Canadaによるナショナルサイトライセンスの試みや,他の多彩なコンソーシアム活動の一部を紹介する。

キーワード:カナダ,図書館,協力,コンソーシアム,コンソーシア,ナショナルサイトライセンス,CNSLP,Consortia Canada

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公立大学図書館コンソーシアム活動とICOLC

青木堅司,永井夏紀
あおき けんじ,ながい なつき 神戸市外国語大学図書館
 〒657-2187 兵庫県神戸市西区学園東町9丁目1
 Tel. 078-794-8151(原稿受領 2005.1.15)
 
2003年4月,公立大学図書館として初のコンソーシアムが成立した。本稿は公立大学コンソーシアム成立までの経緯と現在の活動を報告する。公立大学図書館の間で電子ジャーナル導入状況に大きな格差を生じている現状と,その要因についても考察する。また,E-ICOLC(International Coalition of Library Consortia in Europe)第5回会合およびICOLC(International Coalition of Library Consortia)第15回会合から,それぞれ参考にできると思われる事例を紹介する。

キーワード
:公立大学図書館,公立大学協会図書館協議会,公立大学コンソーシアム,国際図書館コンソーシアム連合,ICOLC,欧州国際図書館コンソーシアム連合,E-ICOLC,電子ジャーナル

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電子ジャーナル・データベース導入にかかる
私立大学図書館コンソーシアム(PULC)の形成について
―回顧と展望―

中元 誠
なかもと まこと 早稲田大学図書館
 〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1-6-1
 Tel. 03(5286)1642(原稿受領 2005.1.31)

 私立大学図書館における電子ジャーナル・データベース導入にかかわり,2003年7月に発足した私立大学図書館コンソーシアムの活動について報告し,あわせて今後の活動を展望する。

キーワード:図書館コンソーシアム,電子ジャーナル,オンラインデータベース,私立大学図書館

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第1回情報プロフェッショナルシンポジウム ラウンドテーブル (これからの日本の学術雑誌)
日本の学術誌は変革するかーオープンアクセスとの狭間で

永井 裕子 
ながい ゆうこ (社)日本動物学会 事務局長
 〒113-0033 東京都文京区本郷2-27-2 東真ビル
 Tel. 03-3814-5461(原稿受領 2005.1.25)

 SPARC運動が欧米ではじまり,わが国でも,2003年より開始されたが,日本特有の諸事情を鑑みながら,我々は学会誌を出版する意味を問う必要があるところにきている。欧米と同じ立場で,その運動方針を追随することは意味をなさず,わが国としてのSPARC運動を現状を踏まえて考える必要もある。冊子体での学術流通の世界では,日本国内だけで通用するあり方もあったのだろうが,二次情報データベースが縦横無尽にはりめぐらされた今の時代,わが国だけで通用する電子ジャーナルというものは意味を持たず,学協会は,商業出版社に見劣りしない電子ジャーナルをそのシステムと体裁だけでも整えなければならないのだ。オープンアクセスは,確かにその理念は高潔で正しく,今後はwwwという世界の出現によりその理想にもっとも近い形にもっていける可能性はあるだろう。
 だが,それまでにはまだある程度の時間を必要としているように思う。世界がどこへ向かうかは唯一,研究者の意思と選択にまた任されている。
キーワード:学協会,オープンアクセス,機関リポジトリ,インパクトファクター,クリエイトチェンジ

 追記
  2月1日に英国政府は科学技術委員会に対して回答書を提出した。そこでは「現段階では著者支払モデルはより良いシステムだとは証明できない」としており,またNIHは2月3日にプレスリリースを出したが,内容は,12ヶ月以内にというかなり後退した話となっている。

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第1回情報プロフェッショナルシンポジウム ラウンドミーティング (これからの日本の学術雑誌)
 売れる電子ジャーナルをめざして:日本化学会の取り組み

林   和 弘*1,太 田 暉 人*1,小 川 桂一郎*2
 *1はやし かずひろ,おおた てると 日本化学会
  〒101-8307 東京都千代田区神田駿河台1-5
  Tel. 03-3292-6165
 *2おがわ けいいちろう 東京大学
 (原稿受領 2005.1.25)

  日本化学会は1989年から英文論文誌の電子化に着手し,試行錯誤の末,J-STAGEを効果的に利用した日本独自の電子ジャーナルを構築した。その結果は多くのアクセスによる読者数の増大と高い海外比率として現れ,投稿数の増大につながっている。また,Chemistry Letters誌は一般化学雑誌としては,受け付けてから公開まで世界最速の雑誌であることがわかった。本稿では日本化学会での英文誌電子ジャーナルの現状と,有料公開に向けた取り組みについて紹介し,日本発の学術情報流通発展させるための課題と考察について述べる。
 
キーワード
:電子ジャーナル,J-STAGE,電子投稿・査読,速報性,課金,日本の出版モデル,日本化学会

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