情報の科学と技術
Vol. 54 (2004), No.11
特集=情報の視覚化
特集「情報の視覚化」の編集にあたって
「情報の視覚化」は,コンピュータを用いて必要な情報をインタラクティブに効率よく得るため,また,その結果を直感的に理解し易いものとするための技術です。
10年ほど前までは,コンピュータを使った情報検索は「文字」を用いておこない,その検索結果も「文字」で表示,印刷されるものがほとんどでした。それが現在では,コンピュータ・グラフィックス技術,ユーザ・インターフェイス技術,データ処理技術などを組み合わせ,情報の性質(情報の時間的変化,情報間の相互関係,膨大な情報量など)を考慮した「視覚化」が数多く提案されています。
コンピュータによる視覚化技術は,一般に数値データを扱ったものが多く見られますが,本特集では,テキストなどのコンテンツを対象とした視覚化動向を主にとりあげてみました。
また,視覚化された情報を使うだけでなく,情報を発信する際にも本特集がご参考になれば幸いです。
(会誌編集委員会特集担当委員:荘司雅之,及川はるみ,深澤剛靖)
情報視覚化の最近の研究動向
増井俊之*
*ますい としゆき 独立行政法人 産業技術総合研究所 情報技術研究部門
〒113-6591 文京区本駒込2-28-8 文京グリーンコートセンターオフィス18F
Tel.03-5976-0389(原稿受領 2004.9.8)
情報視覚化(Information Visualization)とは,大量の情報を対話的に効果的に計算機画面に表示することによって情報の検索や理解を助ける技術である。インターネットの普及によりアクセス可能になった大量の情報を,高速PCと情報視覚化技術を利用して誰もが扱える時代が近付いている。
本稿では20年の研究の歴史をもつ情報視覚化技術の概要及び将来の展望について述べる。
キーワード:情報視覚化,情報可視化,情報検索
Subject World −主題の世界−
村上晴美*1,平 田 高 志*2,上 田 洋*3
*1むらかみ はるみ 大阪市立大学
〒558-8585 大阪市住吉区杉本3-3-138
Tel. 06-6605-3375
*2ひらた たかし 防衛庁
〒162-8830 東京都新宿区市谷本村町5-1
Tel. 03-3268-3111
*3うえだ ひろし 大阪市立大学
〒558-8585 大阪市住吉区杉本3-3-138
Tel. 06-6605-3375 (原稿受領 2004.8.23)
我々は,概念の関連を視覚化してユーザの自由な操作を許すことにより,主題検索を支援するシステムSubject Worldを開発している。BSH4件名標目とNDC9分類項目の視覚的ブラウジングと,大阪市立大学OPAC検索が可能なプロトタイプシステムを試作した。本システムは,ユーザの思考過程にあわせた情報ブラウジング,情報検索時のキーワード入力,キーワード入力によるシームレスな件名検索とNDC検索,主題および件名や分類に関する知識の獲得を支援する。
キーワード:Subject World,主題検索,情報検索,情報視覚化,BSH4,NDC9,OPAC
特許引例の視覚化における考察―ビブリオメトリクス概念の活用
宮入暢子*
*みやいり のぶこ トムソンサイエンティフィック
〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル 5F
Tel. 03-5218-6530(原稿受領 2004.9.15)
特許引例のサイテーションマップ作成において,計量書誌学的アプローチの応用を試み,その手法とデータの有用性を検討した。2ステップマップ,ヒストリオグラフ,リサーチフロントの視覚化手法は,マップ上に配置可能な要素の抽出と,配置条件の設定が必要である点で共通していた。データの視覚化では,数ある関連性の中で最も強い部分に着目するのが有効であるとわかった。同一発明に関する特許と論文を密接な関連性をもつ文献群と規定し,これらの引用・被引用データの中から書誌結合(bibliographic coupling)と共引用(co-citation)の関係にあたるものを抽出し,図示化した結果,非常に密接な関連性が確認できた。また,同じ文献群に見られた論文への高被引数や経年変化から,当該発明の重要性やサイエンスリンケージの伸びなどを推察した。
キーワード:サイテーションマップ,引用分析,特許引例,書誌結合,共引用,視覚化
情報を眺めて選ぶマルチメディア検索システムMIRACLES
増本 大器*,馬場 孝之**,遠藤 進**,
椎谷 秀一**,上原 祐介**,長田 茂美**
*ますもと だいき 兜x士通研究所 企画調査室
**ばば たかゆき,えんどう すすむ,しいたに しゅういち,うえはら ゆうすけ,ながた しげみ 兜x士通研究所 ITメディア研究所
〒211-8588 川崎市中原区上小田中4-1-1
Tel. 044-754-2614(原稿受領 2004.8.25)
本稿では,マルチメディアコンテンツを構成する各メディアの特徴および各メディア間の関連性を活用した新しい検索モデル“パノラミック検索モデル”およびこのモデルに基づく検索システム“MIRACLES(Multimedia Information RetrievAl,CLassification,and Exploration System)”を提案する。対象コンテンツが画像とテキストとで構成される場合,MIRACLESは,テキストによる意味的な検索と画像による視覚的な検索を兼ね備え,情報を眺めて選ぶことのできる直感的で効率的な検索手段を提供する。また,MIRACLESをWeb検索に適用した事例についても述べる。
キーワード:マルチメディア情報検索,パノラミック検索モデル,3次元仮想空間,情報可視化,クロスメディア検索
インタラクティブなデータ視覚化環境
及川光博*
*おいかわ みつひろ スポットファイアー・ジャパン
〒104-0032 東京都中央区八丁堀4丁目13−5 紀伊国屋ビル7F
Tel. 03-5540-7321
oikawa@spotfire.com(原稿受領 2004.8.24)
Visualization(視覚化)は,膨大かつ多変量なデータを探索的に分析していく上で効果的な意思決定の手段として活用が進んでいる。ここでは米メリーランド大学のShneidermanとAhlbergらによって提唱されたVisual Information Seekingの概念と創薬研究等への適用事例について紹介していく。Visual Information Seekingは主として次の三つの概念で構成される。(1) Dynamic Queries,(2) Tight-Coupling,(3) Starfield Display。適用例については,Visual Information Seekingのコンセプトを実装したソフトウェアであるSpotfireR DecisionSiteTMを取り上げる。
キーワード:視覚化,意思決定,Visual Information Seeking,Dynamic Queries
統合データマイニング−オムニビズの視覚化
小舟由子*
*こぶね ゆうこ インフォコム潟oイオサイエンス部データマイニンググループ
〒101-0062 千代田区神田駿河台3-11,三井住友海上駿河台別館
Tel. 03-3518-3860(原稿受領 2004.8.23)
様々な産業で発見,開発,ビジネスのプロセスにおける情報量と多様性が増加したため,各データは従来のリストやスプレッドシートベースでは取り扱えなくなり,新しい解析アプローチが必要になった。さらに,強い仮説を生み,弱い仮説を除外するには,様々な情報ソースからの情報の統合が必要である。ここでは,「テキスト視覚化の科学」を確立する理論的・技術的基礎について記述する。特に,複数のデータタイプに共通の概念的データモデルを作り,リンク付けされた視覚化でデータセット全体像を概観することができる,統合フレームワークOmniVizに注目する。
キーワード:データ統合,データマイニング,視覚化,出現頻度,クラスタリング,テキスト解析
投 稿
Web情報サービスにおける適応表示と適応ナビゲーション支援
―ハイパーテキスト学習における個人差と学習効果―
倉橋英逸*
*くらはし えいいち 関西大学文学部
〒564-8685 大阪府吹田市山手町3-3-35
Tel. 06-6368-1121(原稿受領 2004.9.13)
WWWの普及により,大学や企業の教育や図書館サービスにおいて,eラーニングや図書館ポータル・情報リテラシー・チュートリアルなど,学習者に対するWeb情報提供が多くなったが,それに問題なく対応できる学習者と容易に適応できない学習者がいる。これは単に情報技術の習得や先行知識の差ではなく,認知的な個人差による。Webの特徴であるハイパーテキスト構造は特定の学習スタイルや認知スタイルの学習者に対して負担を強いることになるので,学習者の個人差に合わせた教材の適応表示と適応ナビゲーション支援が必要になる。
キーワード:eラーニング,図書館ポータル,チュートリアル,ハイパーテキスト,ハイパーメディア,非線形学習,学習スタイル,認知スタイル,適応表示,適応ナビゲーション支援
連載:INFOPROのBOOKMARK(第8回)
規格の検索
重田有美*
*しげた ゆみ 兜x士通研究所 特許推進部 図書室
〒243-0197 神奈川県厚木市森の里若宮10-1
Tel. 046-250-8211(原稿受領 2004.8.25)
今月のBookmarkでは,規格の探し方を紹介する。インターネットの普及に伴い,規格はWebサイトから,直接入手できるようになった。だが,規格の種類の多さゆえに,探すべきサイトが見つからないことがある。本稿では,規格の基礎知識を交えながら,有用なサイトを紹介していく。