情報の科学と技術
Vol. 54 (2004), No.8
特集=ユーザビリティ


特集「ユーザビリティ」の編集にあたって

 改めて述べるまでもなく,情報サービスに携わる以上,利用者にとって「使いやすい」サービスを提供したいという思いは永遠のテーマであろう。
 ユーザビリティ(Usability)という語は,以前より情報サービス関係でも,重要性を指摘されていたが,一方なかなか日本語に訳しづらく,一時期は「使用性」の用語が使われていたようだが,最近では「ユーザビリティ」とそのまま使用される語となってきているようである。
 「ユーザビリティ」の概念は,「効率」「有効さ」「満足度」であり,かつ,何らかの形で定量的に示すことが求められている。
 本特集では,Webによる情報提供システムが,情報サービスにおいて不可欠になってきている現状を踏まえ,ユーザの立場にたった使いやすいサービス提供に関わる周辺情報について,それぞれのご専門の立場から原稿をいただいた。
 実用的な特集を目指した本特集が,読者の皆様になんらかの形でお役に立てれば幸いである。

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情報サービスのユーザビリティ
黒須正明
 *くろす まさあき メディア教育開発センター
  〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉2-12
  Tel. 043-298-3243(原稿受領 2004.5.26)

 情報サービスを使いやすく効果的なものにするためには,まずユーザの必要性を理解することが大切である。それは単にニーズを調べることではない。そうしたやり方をするためには,従来のマーケットリサーチではなく,ユーザビリティアプローチを取る必要がある。ユーザビリティは,工学的な機能追求のやり方と対比的であり,あくまでもユーザの立場や視点に立って人工物のあり方を考えるものである。そのやり方を規格化したISO13407は,人間中心設計というスタンスからのプロセス展開を提唱している。またユーザビリティでは,ユニバーサルなユーザを考慮する必要があり,ユニバーサルデザインとの接点が重要になる。ユーザビリティアプローチを推進する上でもっとも重要なのは,ユーザのいる現場でフィールドワーク的手法をもちいて,その必要性を理解することである。こうしたことから,情報サービスシステムにおいては単にシステムのビジュアルデザイン上の工夫をするだけでなく,そのコンテンツのユーザビリティを追求することが重要である。

キーワード:ユーザビリティ,人間中心設計,インタフェース,人間工学,ユーザ工学,ISO13407,情報ポータルサービス

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ユーザビリティテスティングについて*
北島宗雄**
 *ニューマン/ラミング著,北島監訳『インタラクティブシステムデザイン』(アジソン・ウェスレイ,現ピアソン・エデュケーション)より修正して転載。
 **きたじま むねお 独立行政法人 産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門 認知的インタフェースグループ
  〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 つくば中央第六事業所
  Tel. 029-861-6650(原稿受領 2004.5.13)

 ユーザビリティテスティングとは,ターゲットユーザが実際にシステムとどのようにインタラクションを行うかを調べる手法のことである。ユーザテスティングとも呼ばれる。調査の主眼は,ユーザ自身の特性を理解することではなく,インタフェースがユーザブルであるかどうかを評価することにある。また,調査に実際のユーザが関与する点がユーザビリティインスペクション法のような分析的な手法と異なっている。
 本解説では,まず,ユーザビリティテスティングの概略を説明し,続いて,調査実施に当たって注意しなければならない点を,数人規模で行う場合,および,実地で行う場合について,簡単な例を用いて説明する。

キーワード
:ユーザビリティテスティング,プロトタイプ,インタラクティブシステム,実地調査,ユーザビリティ評価

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ウェブ・ユーザビリティテスティングの実際
篠原稔和*
 *しのはら としかず ソシオメディア(株)代表取締役
  〒162-0842 東京都新宿区市谷砂土原町3-4-2 市ヶ谷グリーンプラザ032
  Tel. 03-5206-6787(原稿受領 2004.6.17)

 近年,ウェブサイトの普及とともに,ユーザビリティの考え方に対する関心が高まってきている。それは,利用者の行動や振る舞いがウェブサイトの存立に直結する,といったウェブサイト特有のメディア特性に起因している。そこで本稿では,ウェブサイトのユーザビリティ向上のために活用されるユーザビリティテスティングの各種手法と,それらが実際のウェブサイト構築サイクルの各工程で活用される様子を紹介することで,ユーザビリティ実践のためのヒントと効用を探る。

キーワード:ウェブ・ユーザビリティ,ウェブ・アクセシビリティ,ユーザビリティテスティング,ユーザー調査,コンテキスト探求,タスク分析,ガイドラインチェック,ヒューリスティック評価,ウォークスルー評価,自動チェック

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ユーザビリティとインターフェース:ヒューマンインタフェースとWebデザイン
土井美和子*
 *どい みわこ (株)東芝 研究開発センター ヒューマンセントリックラボラトリー
  〒212-8582 神奈川県川崎市幸区小向東芝町1
  Tel. 044-549-2289(原稿受領 2004.5.25)

 ヒューマンインタフェースの基本である対象ユーザが使用される環境をポイントに,情報サービスにおける使いやすい基本設計を紹介する。さらに,ニールセンのウェブデザインのガイドラインHOMERUNに基づき,具体的な方策に触れる。最後にスポンサーユーザとエンドユーザを意識した運用を紹介する。

キーワード:ヒューマンインタフェース,ユーザビリティ,ウェブデザイン,ウェブアクセサビリティ,ホームランスポンサーユーザ,エンドユーザ

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使われるポータルサイト
〜ポータルソフトウェア開発を通じて〜
田中秀樹*
 *たなか ひでき 劾TTデータポケット 代表取締役社長,北海道大学大学院情報科学研究科メディアネットワーク社会学講座客員助教授
  〒135-0016 東京都江東区東陽5-30-13東京原木会館9階
  Tel. 03-5677-4961(原稿受領 2004.5.28)

 近年急増している「ポータルサイト」は,様々な分野,業種,業態に普及し,企業内情報ポータルだけでなく,自治体ポータル,学術ポータル等多くのポータルの概念が生まれている。これらのポータルサイトの利用頻度をあげるには多くの努力が必要である。
 本稿では,国立情報学研究所が昨年度より行なっている「学術ポータル担当者研修」の講師である筆者が,ポータルサイト構築の実例やポータルサイトにおけるユーザインターフェースやデザインなどについてその一部を紹介する。

キーワード:ポータルサイト,EIP,デザイン,レイアウト,Web

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これからの情報サービスにおけるアクセシビリティー
河村 宏*
 *かわむら ひろし 国立身体障害者リハビリテーションセンター 研究所障害福祉研究部
  〒359-8555 埼玉県所沢市並木4-1
  Tel. 04-2995-3100(原稿受領 2004.6.21)

 情報技術の進化は,それ自体が障害者へのより良いサービスを保証するものではなく,常にアクセシビリティーに留意した技術の開発が必要である。障害者の権利としての情報アクセスを保証するための留意点と,分かりやすさにまで踏みこんでアクセシビリティーの充実をはかる切り札とも言えるSMILの可能性について概説する。

キーワード:アクセシビリティー,障害者,視覚障害者,聴覚障害者,盲ろう者,認知・知的障害,世界情報社会サミット,SMIL

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連載:INFOPROのBOOKMARK(第5回)
日米欧の特許情報を調べる
小川裕子*
 *おがわ ゆうこ オルガノ 法務特許部
  〒136-8631 東京都江東区新砂1-2-8
  Tel. 03-5635-5122(原稿受領 2004.5.24)

 日米欧の特許情報を調べるために必要な特許情報データベースについて解説すると共に,無料で質の良い有用な情報を提供してくれるサイト等を紹介する。

キーワード
:日本特許庁,米国特許庁,欧州特許庁,特許情報データベース,情報の共有化

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