情報の科学と技術
Vol. 54 (2004), No.6
特集=科学技術情報流通を俯瞰する


特集「科学技術情報流通を俯瞰する」の編集にあたって

 科学技術情報の流通経路を考えてみた場合,学術雑誌への掲載によって,情報伝達を図ることが一般に行われてきました。学術雑誌を接点にして,論文発表に至るまでに,研究テーマの選定,予算の獲得,研究者間のインフォーマルなものを含んだコミュニケーションなどの段階を踏んで,論文発表というフォーマルな形へと情報が変換され,広く公開されてきました。
 しかしながら,電子ジャーナルという,趣を異にするメディアによって,これまでの情報流通とは異なった潮流が今日多く見受けられます。学術雑誌の電子ジャーナル化によって,科学技術情報の流通がどのように変化していくのかを検討することによって,今後の変化の行く末を捉えてみました。
 科学技術情報を流通させるには,研究活動を促進する必要も生じるでしょう。国家施策の研究助成のための資金分配の代表的な例示として,科学研究費補助金が挙げられます。最近の状況を中心に,制度のあらましと,その成果をどのように公表しているのか,ということを解説していただきました。また,古くから助成金交付事業を展開してきた科学技術振興機構が,独立行政法人化という大きな動きの中で,今後どのような方向性を持って事業を展開していくのかを,「科学技術振興機構中期計画」を通し概観していただきました。
 さて,数多くの研究助成がある反面,研究成果を網羅的に入手することは非常に困難であるといえます。各所轄官庁が報告書公開を独自に実施したりと,足並みがそろっていないこともその理由として挙げられますが,そのような中で,省庁を超えた情報収集・提供をしているところもあります。研究成果報告書の入手とその公開サービスなどについて述べていただきました。
 最後に,学術論文を対象とした,技術文献を利用した成果の評価について論じていただきました。文献計量の一指標として,「インパクトファクタ」という数値が昨今多く聞かれるようになりました。その指標の過度な信頼の批判とともに,文献による成果の評価についての全体像を描いていただきました。
 科学技術情報流通の今について,経路の変化,情報取得の方法,評価など,多面的な切り口でまとめてみました。
 (会誌編集委員会特集担当委員:上村順一,北島由紀子,深澤剛靖,松林正己,吉間仁子)

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科学技術情報流通の仕組:学術雑誌の役割
倉田 敬子*
 *くらた けいこ 慶應義塾大学文学部人文社会学科図書館・情報学専攻
  〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
  (原稿受領 2004.3.23)

 科学技術情報流通制度を基本的な特質から考えると,学術雑誌が,業績評価と広範囲で永続的な情報流通・提供の保障という点でその要となり,それに取って代る情報メディアは出現してこなかった。ここでは,その役割をふまえ,学会,出版社,大学図書館,大学がいかに学術雑誌という仕組みを支えてきたかを概観した。その上で,現在の科学者たちのコミュニケーションの電子化,電子ジャーナルの普及,フリーアクセスの動向を中心にして,科学技術情報流通制度の変容の程度と方向性を検討した。

キーワード:科学技術情報,科学コミュニケーション,学術雑誌,電子メディア,科学者,情報利用,大学図書館

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科学研究費補助金の「研究成果報告書」ができるまで
松木 秀彰*
 *まつぎ ひであき 文部科学省 研究振興局 学術研究助成課
  〒100-8959 東京都千代田区丸の内2-5-1
  Tel. 03-6734-4092(原稿受領 2004.4.20)

 「科学研究費補助金」(通称「科研費」)は,人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり,基礎研究から応用研究まで,あらゆる「学術研究」を対象として交付される研究資金である。科研費は我が国を代表する「競争的資金」であり,「ピア・レビュー」と呼ばれる厳しい審査をくぐりぬけた研究者だけがこの補助金の交付を受けることができる。この科研費を用いて研究を行った者が,その研究成果を社会に還元するために,成果を冊子体にまとめたものが「研究成果報告書」である。本稿は,一般の書店では販売されない特殊な冊子である「研究成果報告書」ができるまでのプロセスを解説する。

キーワード
:科学研究費補助金,研究成果報告書,競争的資金,学術研究,ピア・レビュー

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厚生労働科学研究費補助金の取り組みについて:その意義と成果の普及
永田 龍二**,浅見 真理***,高階 恵美子*,中谷 比呂樹*
 *たかがい えみこ,なかたに ひろき 厚生労働省大臣官房厚生科学課
  〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2
  Tel. 03-5253-1111(代)
 **ながた りゅうじ 国立医薬品食品衛生研究所遺伝子細胞医薬部
 ***あさみ まり 現:国立保健医療科学院 水道工学部
  (原稿受領 2004.4.9)

 厚生労働科学研究費は,学術振興を第一の目的とした文部科学省の科学研究費と異なり,国民の保健医療,福祉等に関する科学研究を振興し,実用的な成果を得ることを主要な目的としており,平成16年度には,約420億円の研究費により18事業で約1,400の研究をサポートしている。研究課題毎に毎年まとめられる厚生労働科学研究補助金研究報告書は,国立国会図書館および厚生労働省図書館での一般閲覧に供されると共に,国立保健医療科学院の厚生労働科学研究成果データベースホームページ (http://www.niph.go.jp/) で広く一般に公開されている。

キーワード:厚生科学,厚生労働科学研究費,データベース,厚生労働省,国立保健医療科学院,研究評価

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科学技術振興機構における基礎研究事業の成果公表と流通
―科学技術振興機構中期計画を中心として―
板橋 良則*,三島 順子**,黒沢 努***
 *いたばし よしのり 独立行政法人科学技術振興機構 企画評価室
  〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
  Tel. 048-226-5607
 **みしま のぶこ 独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造事業本部
  〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
  Tel. 048-226-5642
 ***くろさわ つとむ 独立行政法人科学技術振興機構 情報事業本部
  〒102-0081 東京都千代田区四番町5-3
  Tel. 03-5214-8402(原稿受領 2004.3.29)

 科学技術振興機構は平成15年10月1日より,独立行政法人として新たなスタートを切った。機構は前身である科学技術振興事業団の時代より,科学技術振興のための基盤整備と先端的・独創的な研究開発の推進等を主な事業として実施している。本稿では機構が行う国の定めた戦略目標の達成に向けたいわゆるトップダウン型の基礎研究事業等の研究成果の公表や流通について,戦略的創造研究推進事業をはじめとする基礎研究事業と科学技術振興の基盤整備である科学技術情報流通促進事業の2つの観点から,各事業の概要を含めて,紹介する。

キーワード:独立行政法人,中期計画,基礎研究,研究成果,シンポジウム,データベース,電子ジャーナル,科学技術振興機構

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政府補助金等による研究開発情報の収集とサービス―政府資料等普及調査会の経験から―
大竹 晴日虎*
 *おおたけ はるひこ (社)政府資料等普及調査会
  〒104-0041 東京都中央区新富1-7-3
  Tel. 03-3523-2210(原稿受領 2004.3.29)

 政府の研究開発情報を収集し,利用するには,情報を生み出す行政機構や政策立案過程の仕組みを知ることが重要である。政府による研究開発には膨大な予算が投入されてきたが,成果報告については,発生と所在がわからないことが多いために,一部を除いてあまり活用されてこなかったのではないか。主に,政府補助金等による研究開発に関する情報をとらえる方法と収集の実際をみるとともに,政府情報の電子的提供の問題点を指摘した。あわせて,政府が作成する資料を長年にわたって収集し,提供サービスを行ってきた政府資料等普及調査会の成り立ちと情報サービスの概要を紹介した。

キーワード:政府情報,行政情報,研究開発情報,科学技術行政,研究開発制度,研究開発投資,競争的研究資金,補助金,成果報告書,情報公開

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科学研究のためのインフォーマル・コミュニケーション
林  衛*
 *はやし まもる NPO(特定非営利活動)法人サイエンス・コミュニケーション
  〒132-0024 東京都江戸川区一之江6-10-14-806
  Tel. 03-5607-7831(原稿受領 2004.4.20)

 研究者コミュニティのなかで日々みられるインフォーマル・コミュニケーションに加えて,いま,研究者コミュニティと社会全体とのインフォーマル・コミュニケーションが求められるようになってきているのはなぜだろう。それは,基礎研究(科学)はやがてその応用である技術を通して社会に還元されると考える「リニアモデル」優位の時代が終焉を迎え,また,市民の無知を前提とした「欠如モデル」が見直されているからだ。両者に代わる双方向コミュニケーションとして,産学連携および狭義の科学コミュニケーションの充実が必要となる。たんにわかりやすいだけでなく,科学を広く深く魅力的に表現するサイエンス・ライティングの理論化も進んでいる。

キーワード:科学コミュニケーション,リニアモデル,産学連携,欠如モデル,遺伝子改変作物,BSE(牛海綿状脳症),リスク・コミュニケーション,サイエンス・ライティング,学術情報へのアクセスビリティー

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学術論文データベースを利用した研究評価―bibliometrics指標の限界と可能性―
調 麻佐志* 
 *しらべ まさし 東京工業大学大学院理工学研究科
  〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1
  Tel. 03-5734-3270(原稿受領 2004.3.29)

 近年,bibliometrics指標を用いた研究評価に関心が集まっている。しかし,専門家の間ではbibliometrics指標を安易に利用した研究評価,特に個人の研究業績評価が問題視されている。本稿は,引用データの活用を中心にこれを論じるものの,論文数を利用しても同様の問題は生じる。  とはいえ,手法の限界を踏まえた上でbibliometrics指標を利用するのであれば,それは研究評価に様々なメリットをもたらすことが期待できる。重要なのは,指標を使う際にデータの性質や手法の意味を理解して,適切な文脈で結果を解釈することである。

キーワード:研究評価,客観的評価,bibliometrics指標,インパクト・ファクター,被引用数,科学計量学,文献計量学

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連載:INFOPROのBOOKMARK(第3回)統計情報
菊池 健司*
 *きくち けんじ (株)日本能率協会総合研究所
  〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-4-2 東銀ビル9F
  Tel. 03-6212-9126(原稿受領 2004.4.5)

 本稿では統計情報の基本的な入手方法を解説していく。主に官公庁のURLを中心に,事例を交えながら紹介していきたい。
 インターネット環境が格段に快適になり,中央官庁や地方自治体等の公的機関が発表する各種統計の入手環境も随分整備されてきた。
 統計によっては,文献での提供が廃止され,URLのみで公開されているものも出てきており,その数は増加傾向にある。
 もちろん文献でなければ得られない統計も多数存在するが,今後は特に新しいデータの公表はURLが主役になっていくであろう。
 官庁統計が集約されたサイト(統計データポータルサイト)も登場しており,ニーズに合わせてうまく使いこなしていくことが重要である。

キーワード:統計情報,総務省統計局,厚生労働省,経済産業省,統計データポータルサイト,電子政府

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