情報の科学と技術
Vol. 54 (2004), No.4
特集=図書館サービス評価とE-metrics
特集「図書館サービス評価とE-metrics」の編集にあたって
図書館サービスの効率性,経済性,的確性などを精確に測定して,図書館経営に反映することが世界的な動きになってきた。特に図書館サービスが印刷媒体のみならず電子情報源が大きな比重を占めるようになり,従来の図書館評価指標では不十分であることが明らかになり,電子情報資源のあらたな評価指標の開発が進んでいる。これらの集計評価手法は研究図書館協会(ARL),出版業界と国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC)が連携して開発にあたり,E-metricsと呼ばれている。ことに電子ジャーナルは,大学図書館を中心に世界規模で利用統計の集計から分析まで標準化する方向性がまとまりつつある。日本でもこの動きをいち早く対応した国立大学図書館協議会の電子ジャーナル・タスクフォース等は活発な調査活動を展開し,日本の嚆矢である。
図書館統計の標準化とともに電子図書館機能のサービス評価基準は今後ますます重要になる。そのサービス内容の多様な評価視点をご紹介いただき,問題点を総合的に掌握することを意図した。
総論では数ある分析手法とE-metricsの理論的妥当性等を中心に検証的視点で議論をお願いし,各論では上述の標準統計の動向,利用者満足度とE-metricsとの連関,そして国内では最初の「大学図書館における図書館評価指標報告書」を取りまとめられた経緯とその内容を報告いただいた。国際的な動向を視野に入れての特集であるが,検討された対象自体が共通し成立して間もないこともあり,議論が重複せざるをえない箇所があったとすれば,編集子の不測であり,ご海容願いたい。本特集を契機に読者諸賢の活発な議論が展開されることを切望して前書きに代える。
(会誌編集委員会特集担当委員:松林正己・大田原章雄)
電子的な図書館サービスの評価への取り組みとその課題
岸田和明*
*きしだ かずあき 駿河台大学 文化情報学部
〒357-8555 埼玉県飯能市阿須698
Tel. 0429-74-7124(原稿受領 2004.1.20)
電子的な図書館サービスの普及に伴い,それに対する評価が重要になりつつある。本稿では,その取り組みを概観するとともに,今後の課題について議論する。具体的には,ISO11620やアウトカム測定などの近年の図書館評価における新しい動向や電子ジャーナルの利用統計について紹介し,次に,ISO11620の流れを汲む,電子的な図書館サービスの評価のためのパフォーマンス指標を規定したISO/TR20983や,COUNTERによる電子ジャーナルの利用統計の指針について概観する。さらに,データの信頼性や有用性,アウトカムの測定などの観点から,電子的な図書館サービスの評価における問題点を整理する。
キーワード:ジャーナル共同体,レビュー,引用,知識生産,自己言及
電子情報資源の利用統計
―COUNTERプロジェクトと実務コードを中心に―
加藤信哉*
*かとう しんや 熊本大学附属図書館情報サービス課
〒860-8555 熊本県熊本市黒髪2-40-1
Tel. 096-342-2272(原稿受領 2004.2.2)
図書館を取り巻く環境が変化し,図書館は電子ジャーナルやデータベースのような電子情報資源を利用するようになってきた。電子情報資源はその大半がネットワーク情報資源なので,その利用統計はベンダーから入手する必要がある。ベンダーが提供する利用統計には問題があるため,信頼性,整合性および互換性のある電子情報資源の利用統計の提供を目指すCOUNTERプロジェクトが発足した。本稿は,COUNTERの活動概要と実務コードについて説明している。関連する国際的な電子情報資源利用測定のイニシアティブであるICOLC,E-MetricsおよびNISOのガイドラインに触れている。
キーワード:電子情報資源,利用統計,COUNTERプロジェクト,COUNTER実務指針,ICOLC,E-Metrics,NISO
電子図書館の顧客評価
永田治樹*
*ながた はるき 筑波大学知的コミュニティ基盤研究センター
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
Tel. 029-859-1377(原稿受領 2004.2.16)
サラセビッチとハーノンらによってとりあげられた図書館評価のコンテクストの議論を整理し,その上で顧客(利用者)評価は,いわゆる「顧客のアウトカム」と「図書館としてのアウトカム」の双方に絡んでいることを主張する。また,電子図書館の顧客評価は,ハイブリッド状況の中で顧客満足とサービス品質の調査として行われていること,およびそれらの新たな試みについて論述する。
キーワード:電子図書館,顧客評価,利用者満足,サービス品質,アウトカム・アセスメント,SERVQUAL,LibQUAL+
「大学図書館における評価指標報告書(Version 0)」の作成とその後の動向
―特に電子図書館サービス関係評価指標について―
蒲生英博*
*がもう ひでひろ 名古屋大学附属図書館
〒464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町
Tel. 052-789-3686(原稿受領 2004.1.21)
国立大学の法人化にあたり,附属図書館の中期目標・中期計画の戦略的な策定や達成度の評価を支援するため,国立大学図書館協議会に設置されたワーキンググループは,海外における図書館評価の指標や手法を取り入れ,定量的評価,電子図書館サービス関係評価,定性的評価による評価指標報告書を作成した。
特に電子図書館サービス関係評価について詳述するとともに,報告書公表以降に,この報告書を活用した事例をあげ,報告書の問題点を明らかにしている。また,報告書の継続的な検討とWebによる標準入力フォーマットやツールの開発,指標データの収集とその解析を専門的に行う評価推進担当者の設置を提案している。
キーワード:国立大学図書館協議会,大学図書館,電子図書館,図書館評価,定量的評価,定性的評価
投 稿
大学図書館におけるサブジェクト・ライブラリアンの可能性
呑海沙織*
*どんかい さおり 京都大学 人間・環境学研究科総合人間学部図書館
〒606-8501 京都府京都市左京区吉田二本松町
Tel. 075-753-6524(原稿受領 2004.2.2)
長年その必要性が説かれてきたにもかかわらず,日本の大学図書館において,サブジェクト・ライブラリアンは未だ根付いているとはいいがたい。本稿では,主として英国の図書館員およびサブジェクト・ライブラリアンを概観することによって,日本の大学図書館におけるサブジェクト・ライブラリアン確立への課題と可能性について考察する。
キーワード:サブジェクト・ライブラリアン,図書館員,大学図書館,CILIP,MCLIP,英国
連載:INFOPROのBOOKMARK(第1回) 医学文献の全文検索
渡辺正彦*
*わたなべ まさひこ キリンビール 医薬カンパニー 学術部
〒150-8011 東京都渋谷区神宮前6-26-1
Tel. 03-5485-6177(原稿受領 2004.1.20)
今月号から新連載「INFOPROのBOOKMARK」がスタートします。この連載では,調査や検索担当のINFOPROを目指す方向けに,ビジネス・ライフサイエンス・特許・工学の各分野の有償無償のサービスを,BOOKMARKを通して紹介&比較していきます。
調査や検索をする場合,いろいろなサービスから,そのテーマの特性や調査費用等を考慮して,使用するサービスを選んでいますよね。どのサービスをどの順番で行うのが適切か考えるのに役立つように,普通のリンク集でも特定サイトの使い方マニュアルでもない,サービスの紹介&比較と,事例を解決するコツやノウハウを盛り込みました。さらなるステップアップを目指すための参考になれば幸いです。
第1回はライフサイエンス分野から,医学文献の全文検索について紹介します。
(連載担当委員:越智泰子,吉間仁子,北島由紀子)