情報の科学と技術
Vol. 54 (2004), No.3
特集=レビュー誌の現在
特集「レビュー誌の現在」の編集にあたって
リサーチ・フロントの動向を研究者の同僚として評価(レビュー)する論文があり,この種の論文を掲載した学術雑誌をレビュー誌と呼ぶ。レビュー誌はリサーチ・フロントに評価を与えるがゆえに研究者共同体内では学術情報流通上極めて重要な役割を果たしている。特に同僚による研究評価で果たしている役割は大きく,それは引用索引を利用した計量書誌学による雑誌評価ではインパクト・ファクター(Impact Factor)として,雑誌評価指標として人口に膾炙しているのは承知の通りである。
しかしながら,研究評価に関わる研究が進み,評価基準としてインパクト・ファクターの妥当かつ適切な利用方法が議論される中で,リサーチ・フロントや図書館における役割には不易なものがある。そこで本特集では学術研究におけるレビュー誌の動向を報告していただくことにした。
総論では学術研究共同体をジャーナル・コミュニティとして捉えて,科学技術と社会の関係性に新たなパースペクティヴを与えて,レビュー論文の役割を議論いただいた。科学技術分野におけるレビュー論文と引用索引統計の研究から,最近の動向を報告いただき,日本の研究者が地道に成果を上げていることも証明される論文となった。
日本にはレビュー誌がほとんど刊行されていないに等しい事情もあり,各論では図書館情報学領域におけるレビュー誌の編集とレビュー論文の現状をまとめていただいた。論文の本数は少ないが,知的刺激に富む議論をいただいた。読者諸賢のご批判を賜わりたい。
(会誌編集委員会特集担当委員:松林正己・伊藤 淳・宮入暢子・吉間仁子)
総論:ジャーナル共同体におけるレビュー誌の役割
藤垣裕子*
*ふじがき ゆうこ 東京大学大学院 総合文化研究科
〒153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1
Tel.03-5454-6680(原稿受領 2004.1.9)
レビュー誌とは,すでに出版された学術情報を再考し,批評し,回顧し,概説を与える(統合して評価する)雑誌を指す。レビュー誌にとりあげられることによって,もとの学術情報は再考され,全体における位置づけを得る。それでは,「もとの学術情報が再考され,全体における位置づけを得る」とは何を意味するのだろうか。この問いを考えるために,本稿では次の2つの考察を行った。まず,もとの学術情報とは何かという問いについて,知識生産論,ジャーナル共同体論の側面から考察した。続いて,もとの学術情報が再考され,全体における位置づけを変えることの意味について,引用論をもとに考察した。これらの2つの方向からの考察をもとに,レビューとは何を意味するかを再考した。
キーワード:ジャーナル共同体,レビュー,引用,知識生産,自己言及
引用動向からみたレビュー誌およびレビュー論文
棚橋佳子*,宮入暢子**
*たなはし よしこ,**みやいり のぶこ トムソンサイエンティフィック
〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル5F
Tel. 03-5218-6530(原稿受領 2004.1.7)
本稿ではレビュー論文とレビュー誌の特徴をJournal Citation ReportsRの学術雑誌出版・引用統計により動向分析し,分野間の違いを検証した。生化学,分子生物学,薬理・薬学にはレビュー誌が多く,レビュー論文の出版数は近年著しい伸びを見せ,分野全体の論文数の増加率よりも高いことがわかった。また,レビュー論文において平均100論文前後の原著論文を引用し論じる分野を特定した。レビュー誌は特定の分野に絞って比較した場合,Impact FactorやImmediacy Indexが原著論文誌に比べ高く,継承されていく先端科学研究におけるレビュー誌の高い貢献度と評価を実証した。また,レビュー論文の出版は米英が大半を占める中,近年の日本人研究者によるレビュー論文は10年前に比べ3倍の伸びを見せていることがわかった。
キーワード:レビュー論文,レビュー誌,学術出版,引用,ビブリオメトリックス
図書館情報学と教育学のレビュー誌をめぐる現在
安藤友張*
*あんどう ともはる 名古屋芸術大学附属図書館
〒481-8504 愛知県西春日井郡師勝町熊之庄古井281
Tel. 0568-24-0321(原稿受領 2003.11.25)
学術情報流通メディアとしてのレビューの意義と機能を考察するために,英米と比較しながら,日本における図書館情報学及び教育学分野のレビュー誌をめぐる現状をあきらかにした。日本の当該分野において,レビューが低調である要因や背景として,以下の点を指摘した。@ 学界のコミュニティの規模が小さい。A 研究業績としてのレビューに対する評価が低い。B レビューの機能と概念に対する研究者の捉え方が狭い。
キーワード:レビュー誌,レビュー,レビューアー,図書館情報学,教育学
動向レビュー誌『カレントアウェアネス』の役割と新たな展開
橋詰秋子*
*はしづめ あきこ 国立国会図書館関西館事業部図書館協力課
〒619-0287 京都府相楽郡精華町精華台8-1-3
Tel. 0774-98-1449(原稿受領 2003.12.25)
国立国会図書館が編集する情報誌『カレントアウェアネス』は,1979年の創刊以来,図書館及び図書館情報学における近年の動向及びトピックスに関する“カレントアウェアネスサービス”を現場の図書館員に提供してきた。本稿では,メールマガジン『カレントアウェアネス-E』にも触れつつ,季刊誌『カレントアウェアネス』について,編集方針・体制,誌面構成,概歴等を紹介する。また,幾つかの観点からこれまでの掲載記事の特徴・傾向を明らかにし,約25年に渡る歩みの概観を試みる。さらに,「研究文献レビュー」記事を取り上げその課題を述べ,最後には『カレントアウェアネス』の今後の方向性について考察する。
キーワード:カレントアウェアネス,国立国会図書館,レビュー論文,情報誌,カレントアウェアネス-E,メールマガジン
投 稿
電子ジャーナル導入による外国雑誌の利用動向の変化
(日本原子力研究所の場合)
石川 正*,羽原 正**,大島健志***
*いしかわ まさし,**はばら ただし,***おおしま たけし 日本原子力研究所研究情報部
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根
Tel. 029-282-6812(原稿受領 2003.11.20)
日本原子力研究所図書館は,図書館ホームページから冊子体で所蔵している外国雑誌300誌を電子ジャーナルとしても提供し3年が経過した。この間,研究者による冊子体の利用は減少し,電子ジャーナルの利用は大幅に増加した。主要な電子ジャーナル3誌の貸出件数,文献複写件数,アクセス回数,ダウンロード件数などの過去3年間のデータを分析し,利用動向の変化の原因を明らかにした。また,出版社が提供する電子ジャーナルの利用データの重要性,不正ダウンロードへの対応,冊子体の電子化よる図書館業務への影響などの外国雑誌の提供に係わる課題についても報告する。