情報の科学と技術
Vol. 53
 (2003), No.8
特集=医学・医薬品分野の情報発生と入手方法


特集「医学・医薬品分野の情報発生と入手方法」の編集にあたって

 医学・医薬品分野の情報は,論文,学会発表などの文献資料や特許,書籍,疾患に関する統計資料,医薬品の構造や安全性データ,厚生労働省への申請・ 承認に関する資料など多様かつ大量の情報が存在します。
 今回の特集では,通常の特集とは目先を変えて,医学・医薬品分野の情報を日常的に扱う方にターゲットを絞り,情報がどのように発生しているの か,それを踏まえた入手方法について,深く掘り下げて解説していただきました。
 必要な情報を入手し利用するためには,医学薬学分野の主題知識,医薬品のライフサイクルや薬事法など周辺知識とともに,情報がどのように発生 し,収集・加工・再構築されているのか,その情報をどのように入手することができるかを理解する必要があります。
 総論では,医学・医薬品情報の探し方を概説し,各種リソースを総合的に利用する調査手法について分かりやすくまとめていただきました。さらに各 論では,学会情報や行政からの情報がどのように発生して流通しているのか,専門速報紙や医薬品開発情報データベースがどのように作られているのか について,それぞれ掘り下げて解説いただきました。
 医薬・薬学図書館に勤務する図書館員の方や製薬企業の情報担当者の方には,普段使っている情報収集のためのツールをもう一度深く考察するきっか けとして役立てば,また医学・医薬品情報に接する機会が少ない方にも,分野は異なりますが,情報の発生と入手の方法の事例として,多少なりと参考 になれば幸いです。
(会誌編集委員会特集担当委員:越智泰子,鈴木響子,都築埴雅,深澤剛靖,吉間仁子)

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総論:医学・医薬品の情報の探し方
網本淳子*
*あみもと じゅんこ 日本新薬 知的財産部 調査課
 〒601-8550 京都府京都市南区吉祥院西ノ庄門口町14
 Tel. 075-321-9087(原稿受領 2003.5.20)

 医薬品メーカーは,物質として薬を供給するとともに,その有効性・安全性・品質といった情報も併せて提供する義務を負っている。薬の適正使用 に関するこれらの情報は,研究開発中に蓄積されたものだけでなく市販後に医療機関の協力を得て収集された情報,国内だけでなく海外の情報なども加 味され,常に更新されている。また研究開発を行う上では,他社競合品の情報,薬の適応対象となる疾患や医学に関する情報も欠かせない。本稿では, 医学情報・医薬品情報を調査する際に有用な代表的情報源を,その目的や種類別に紹介した。さらに,効率的に調査を行う方法や検索時の注意点につい ても触れた。

キーワード:医学情報,医薬品情報,情報検索,データベース,Webサイト

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UMINによる学会からの医学・医薬品情報の収集と提供
木内貴弘*
*きうち たかひろ 東京大学医学部附属病院 大学病院医療情報ネットワーク研究センター
 〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1
 Tel. 03-5800-6549(原稿受領 2003.6.5)

 大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)は,文部科学省の予算で運用されている医学系の公的な大規模情報センターであり,医学系の学会から各種 の医学・医薬品情報を収集して,利用者に提供するサービスを行っている。その主なものとしては,AC(UMIN学会情報),ELBIS(UMIN医療・生物学系 電子図書館),INDICE(UMINインターネット医学研究データセンター),OASIS(会員制ホームページサービス)等が挙げられる。これらに共通する特 徴としては,単純なデータの収集及び提供に徹することによって,運用コストを安く上げていること,及び非営利の公的機関としての信用を活用して, 学会等からの積極的な協力を得ていることが挙げられる。

キーワード:インターネット,学会情報,電子図書館,臨床研究,会員制ホームページ

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医薬品機構からの情報発信
中島眞人*
*なかじま まさと 医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構 医薬品情報課
 〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞ヶ関ビル8階
 Tel. 03-3506-9003(原稿受領 2003.5.22)

 医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(厚生労働省認可法人)では,医療用医薬品の安全な使用を推進するため,医療関係者や一般国民に対 し,インターネットを介して迅速かつ確実に医療用医薬品に関する情報を提供しており,そのウェブサイトには,添付文書情報,副作用情報,緊急安全 性情報やその他の各種安全性情報,新薬情報,回収情報といった,厚生労働省や製薬企業からの様々な医薬品情報が公開されている。   医薬品機構では,今後もより利用しやすいようにコンテンツの充実やシステムの強化を進めていくこととしている。

キーワード:医薬品情報提供システム,厚生労働省,製薬企業,医療関係者,一般国民,添付文書情報

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医薬品産業情報速報紙「日刊薬業」
藤田道男*
*ふじた みちお 鰍カほう 新聞事業部 日刊薬業編集長
 〒101-8421 東京都千代田区一ツ橋2-6-3 一ツ橋ビル
 Tel. 03-3265-8852(原稿受領2003.6.5)

 医療・医薬品関係の専門紙「日刊薬業」における取材,執筆,制作の過程を踏まえながら,医療・医薬品情報のあり方について紹介した。医療・医 薬品に限らず,われわれが日々入手する情報は膨大な量になっている。氾濫する情報の中で,何を選択して分かりやすく提供するかが最も重要だが,そ の際に踏まえなければならないことは「読者ニーズ」が何なのかを的確に把握することである。情報は刻々と変化する。そのため,編集者は過去・現 在・未来を洞察する見識が要請される。また,医療・医薬品の世界は命と健康に深くかかわる。情報の提供を通じて広く国民・患者のQOLの向上に貢献す るという使命感がわれわれの業務のバックボーンである。

キーワード:読者ニーズ

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医薬品開発情報データベース「明日の新薬」
山本聡一郎*
*やまもと そういちろう 潟eクノミック編集部
 〒104-0031 東京都中央区京橋1-16-10 オークビル京橋7F
 Tel. 03-3538-2531(原稿受領 2003.5.12)

 「明日の新薬」は,開発段階にある医薬品の情報を総合的に扱ったデータベースである。主な情報源は各種の出版物,インターネット,取材などで あり,全世界の薬剤を収録対象としている。  医薬品開発に関する情報を包括的に集めることは容易ではなく,通常は様々な情報源から集めたものを再編成する作業が不可欠となる。その際に重 要なことは信頼性や正確性を追及するのと同時に,いかに素早い情報提供ができるかであると考える。  ここでは,薬剤に関する情報をどのように入手し利用しているのかを,我々の編集作業から一般的なものを例にあげて紹介する。

キーワード:新薬研究開発,治験薬情報,データベース,情報収集,データ管理,検索

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連載:第11回 レファレンスはじめて物語
(原稿受領 2003.6.13)
 数多い学部・学科を抱えた大学図書館の場合は,専門図書館や企業図書館と異なり,主題分野が様々で多彩な利用者が来館します。そんな図書館で, 初めてレファレンスを担当することになったら…?今回は大学図書館を舞台にして,仕事をより良く進めていくための心構えや知恵をご紹介します。

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