情報の科学と技術
Vol. 53 (2003), No.7
特集=資料のデジタル画像化と保存
特集「資料のデジタル画像化と保存」の編集にあたって
図書館や情報センターで,自館所蔵の紙媒体資料をデジタル画像化し,webやCD-ROM等で外部公開する例が近年よく見受けられます。デジタルならではの特徴を生かして研究・教育の向上を目指す,閲覧による原本の劣化を防ぐ,貴重資料の鑑賞の機会を提供するなど,その目的はさまざまです。
しかし,これらデジタル画像を扱う歴史はまだ浅く,その保存や維持,運用管理,制度等,諸所の面で発展途上といえます。
図書館や情報センターがデジタル化資料を扱う機会は格段に増加しています。私達情報に携わる者は,こういった資料の電子化や,電子化資料そのものについて,今後どう捉え,運用を進めていけば良いでしょうか。
今回は静止デジタル画像に的を絞って企画しました。私達が更なる展開を考えていく上での一助となれば幸いです。
(会誌編集委員会特集担当委員:新保佳子,伊藤 淳,大田原章雄,鈴木響子,村上勝美)
デジタルコレクションの構築とその課題
細野公男*
*ほその きみを 慶應義塾大学文学研究科教授,図書館長
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5427-1644(原稿受領 2003.5.6)
図書館が所蔵する資料を対象にしたデジタルコレクションの構築は,情報提供サービスの高度化を推進するための取り組みとして不可欠である。実際,米国では多くの図書館でデジタルコレクションが構築され,利用に供されている。しかしそれが情報資源として有効に機能するには,その構築に関わる規準やチェックリストなどの作成と利用者支援体制の整備が必要である。
そこで本稿では,デジタルコレクションの構築に関わる規準,チェックリストの特徴,利用支援体制の整備の側面から捉えた目録,検索補助資料,メタデータの特徴,デジタル化に伴う著作権や契約,コレクションの公開体制,協力活動などデジタル化に伴う課題について述べる。
キーワード:デジタルコレクション,デジタル化,規準,OPAC,検索補助資料,契約,協力活動,情報発信体制
デジタルアーカイブの現状と美術品・資料の電子化
清水宏一*,治田嘉明**
*しみず ひろかず 京都デジタルアーカイブ研究センター副所長館
**じた よしあき 京都デジタルアーカイブ研究センターサブマネージャー
〒600-8216 京都府京都市下京区西洞院通塩小路下ル キャンパスプラザ京都 6F
Tel. 075-353-9170(原稿受領 2003.4.16)
美術館・博物館・図書館などの収蔵物や地域,企業における文物のデジタルアーカイブ化の現状を概観す るとともに,図書や地図,絵図,古文書など,紙媒体の資料のデジタルアーカイブについて触れ,顕在化して きた知的財産権をめぐる問題や急を要する人材育成について考察する。
キーワード:デジタルアーカイブ,所蔵資産,地域文化,紙媒体資料,知的財産権,人材育成
紙文書のデジタル化と情報の寿命
金澤勇二*
*かなざわ ゆうじ 富士写真フイルム鰹報システム部
〒106-8620 東京都港区西麻布2-26-30
Tel. 03-6418-2223(原稿受領 2003.4.28)
閲覧対応やインターネットで情報を発信するために,紙資料をデジタル化して活用することが多くなっ た。「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(通称IT基本法:2001年1月)が施行,「e-Japan重点計 画」で行政文書の電子化・ペーパーレス化が推進され,電子文書を紙文書と同等に扱う方向で動き出してい る。IT化=デジタル化と捉え,紙文書をデジタル化する動きも活発になっている。しかし,デジタル化する目 的を忘れ,あたかもデジタル化することが目的であるかのような動きも見える。媒体変換の目的を総括すると ともに,紙資料をデジタル化する時の品質と保存という観点で,マイクロフィルムとデジタル情報を見てみた い。
キーワード:媒体変換,マイクロ化,デジタル化,実用品質,保存,記録媒体の寿命,情報の寿命
デジタルアーカイブの保存・利用における諸問題
高橋仁一*
*たかはし ひとし 大日本印刷 C&I事業部 IT開発本部 第3開発室
〒162-0066 東京都新宿区市谷台町6-3 市谷大東ビル
Tel. 03-5269-5506(原稿受領 2003.5.6)
大日本印刷鰍ナは,1998年4月より,フランス国立美術館連合(RMN)および,その日本法人である RMN-Japonと共同で,フランス国家が管理する貴重な美術作品のデジタルアーカイブ化を進めるとともに,日 本国内へのライセンス業務をおこなう「RMNイメージアーカイブ」の運営を開始した。本稿は,RMNイメージア ーカイブの事業内容の紹介を通じて,デジタライズ,データベース構築,カラーマネジメント,電子透かし 等,デジタルアーカイブに関わる技術的問題点を述べる。
キーワード:文化財,RMN,デジタルアーカイブ,カラーマネジメント,データベース,電子透かし,権利保護
デジタル画像データの応用・その可能性
小野 博*
*おの ひろし コンテンツ
〒700-0972 岡山県岡山市上中野2-27-2
Tel. 086-246-0787(原稿受領 2003.4.30)
デジタル画像(Raster data)の制作の目的・手法は多種に及んでいる。情報通信技術の向 上により,HP上で収蔵資料の公開が進んでいるが,その多くは写真データの域を脱していない。 情報としての画像データの制作設計とその応用例を中心に,今後どのように変化していくか,デ ジタル画像の未来に向けた限りない可能性とその価値を考える。また,応用と可能性を追求でき るデジタル画像の彩度,精度,解像力について考察する。
キーワード:デジタル化,スキャニング,デジタル修復,超高精細デジタルデータ,RAWデータ,ラスターデータ,ワンソース マルチユース
「明治・大正・昭和の読売新聞CD-ROM」について
西沢 康
*にしざわ やすし 読売新聞メディア戦略局 データベース部
〒183-0026 東京都府中市南町4-40-33 府中別館
Tel. 042-351-7822(原稿受領 2003.4.16)
1999年(平成11年)11月,記事索引とマイクロフィルムからデジタル化した紙面イメージ を一体化させたCD-ROM「明治の読売新聞」を,読売新聞社が発売した。新聞界でも初の事業で ある。「明治」編から8年。「大正」「昭和」戦前T・Uを完成させて現在,「戦後復興編」と して1960年(昭和35年)までの「戦後」編第一弾が進行中だ。媒体も大学,公共図書館を中心 に「貴重な資料」との評価をいただいている。索引と紙面イメージが絡み合ったからこそ,関係 者から迎え入れられたといえる。デジタル化と索引編集について,これまでの制作過程を紹介する。
キーワード:読売新聞社,明治の読売新聞,大正の読売新聞,昭和の読売新聞,記事索引,マイクロフィルム,デジタル化,紙面イメージ,CD-ROM
連載:第10回 情報検索の困った! こんなときどうしますか
(原稿受領 2003.5.14)
情報検索で困るのは,意外に,依頼者との意思疎通だったりしませんか? 十分な情報を渡したつもりだが,果たして納得してもらえたのか。情報が見つからない時 は,どう対処すれば良いのか。依頼者が多くを語らないため,検索の方向性が定まらない経験もあるでしょう。今回は,情報検索時の説明責任や,コミュニケーションに関するFAQです。