情報の科学と技術
Vol. 53 (2003) ,No.1
特集=情報の分析・解析法
特集「情報の分析・解析法」の編集にあたって
「情報」。この言葉には様々な要素が含まれている。同じ言葉でも利用者によっては,「事実」「データ」「知識」「うわさ」…,となる。しかしながらその本質的価値や評価となると,尺度が不明確なものだけに,正しく論じることは難しい。
本来,個々の情報の持つ意味とは,定性的知見であったり,事実の羅列であるが,類似のあるいは時系列の情報が複数個集まることにより,新たな知見,付加価値を生み出すことが多々ある。
本特集では,図書館や情報センターにおける情報,これは主に文献,特許,新聞記事またはデータ類などであるが,1個1個の分散情報を収集し,それらを分析,解析する手法,事例を概説する。このような情報活用方法は,新たな知見や仮説,解決策を生み出しうる可能性を秘めている。
私たち情報専門家も,情報の円滑な流通に尽力するばかりではなく,流通し氾濫しがちな情報に,いかなる「付加価値」や「プライオリティ」を創造し,提供していくかを模索する時期である。次なる課題のステップとなれば幸いである。
(会誌編集委員会特集担当委員:茂出木理子,鈴木響子,越智泰子,北島由紀子)
情報の効果的な分析と活用について
後藤俊夫*
*ごとう としお 静岡産業大学 国際情報学部
〒426-8668 静岡県藤枝市駿河台4-1-1
Tel. 054-646-5410
tsgoto@ssu.ac.jp(原稿受領 2002.10.24)
企業における情報の入手・活用を「情報戦」と呼ぶのは,限られた経営資源の下で,しかも競合他社に勝利しなければ無意味となってしまう極めて熾烈な競争だからである。効率的な情報戦を展開するには,情報クライアントと目的意識を共有する他,仮説・検証の積極的活用が重要である。インターネットを活用する情報戦(e-情報戦)は便利な側面があるが,二次情報源としての限界を超えることはできない。一次情報を自らの目と耳で現場確認するr-情報戦との効果的な結合が,情報戦の勝敗を決する。
経営トップが情報戦の意義を理解し,情報に基づいた科学的な意思決定を推進しなければ,21世紀の厳しいサバイバル戦には打ち勝てない。企業も国も,情報戦の実践こそが,その優劣を決する。
キーワード:情報戦,インターネット,事業戦略,仮説・検証,目的意識,サーチャー,情報ユーザー,情報クライアント,情報サービス提供者
ビブリオメトリクスの活用事例
―日本と諸外国の国際共著分析―
山下泰弘*,孫 媛**,西澤正己***
*やました やすひろ 科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部 研究調整室
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8川口センタービル
Tel. 048-226-5642
**そん えん,***にしざわ まさき 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
**Tel. 03-4212-2528,***Tel. 03-4212-2531(原稿受領 2002.10.24)
ビブリオメトリクスとは,通常は主観的にしか把握できない学界構造や研究動向等を,学術文献等の書誌情報を元に定量的に分析する手法である。本稿では,ビブリオメトリクスにより,共著関係に基づき,1981年1月から1997年6月までの16年半の期間における,我が国と諸外国との国際研究ネットワーク形成過程について分析を行った事例を紹介する。
前半では,学問分野別に全世界との国際研究ネットワーク形成状況を概観し,後半では,日本と同じ非英語圏の科学技術大国であるフランスとの2国間共同研究について,両国のセクタを単位としたより緻密な分析を紹介する。
キーワード:ビブリオメトリクス,共著,NCR,国際連携,セクタ間連携
特許情報分析とパテントマップ
新井 喜美雄*
*あらい きみお インパテック滑驩謚J発部
〒430-0803 静岡県浜松市植松町1487-1
Tel. 053-465-8333(原稿受領 2002.10.15)
特許情報を情報的に把握して,キーワード等のデータを抽出し,そのデータについて定量・定性・相関等の分析を行い,その結果を時系列的なグラフや分布的なマトリクス等により図表化表示したものがパテントマップである。パテントマップは技術動向・企業動向など目に見えない技術開発の実態を視覚的に把握するために有効な技術開発戦略のためのツールである。
キーワード:特許情報,データ,定量分析,定性分析,グラフ,マトリクス,パテントマップ,技術動向
テキストマイニングによるドキュメントデータの分析
豊田裕貴*
*とよだ ゆうき 法政大学大学院社会科学研究科経営学専攻博士課程
〒162-0843 東京都新宿区市谷田町2-15-2
Tel. 03-5228-0550(原稿受領 2002.10.21)
本稿では,図書館や情報センターでのドキュメントデータ活用の方法として,テキストマイニングに着目する。そこで,まずはテキストマイニングの基本的な処理を,データの数値化と分析とに分けて解説する。また,これらの解説は,実際のデータの分析結果を交えておこなった。対象データとしては,WEBに公開されているレポート(文章)を用い,特徴的なコンセプトの検討や文章分類などから,ドキュメントデータの活用でのテキストマイニングの利点を探る。
キーワード:テキストマイニング,ドキュメントデータ,コンセプト抽出,文章分類 キーワード検索
テキストマイニングの技術と応用
渡部 勇*
*わたなべ いさむ 兜x士通研究所
〒211-8588 神奈川県川崎市中原区上小田中4-1-1
Tel. 044-754-2671(原稿受領 2002.11.19)
テキストマイニングとは,文書情報から有益な知識を発見・抽出するための技術である。情報検索システムが,利用者の目的に合った文書を探し出すことを目的としているのに対し,テキストマイニングでは,文書を個別に調べてもわからない,文書群全体に内在する知識を発見することを目的としている。まだ新しい研究領域ではあるが,この数年の間に実用化も急速に進み,大量の文書情報にアクセスするための新しい道具として,ビジネスの場面でも活用されるようになってきている。本稿では,要素技術と応用分野の両面からテキストマイニングについて解説する。
キーワード:テキストマイニング,概念抽出,自然言語処理,可視化,特許分析
医学情報における情報の解析
―新しい情報環境の確立を目指して―
青木 仕*
*あおき まなぶ 順天堂大学図書館
〒113-0033 東京都文京区本郷2-2-26
Tel. 03-3813-3111(3243)(原稿受領 2002.10.24)
本稿では,Bibliometrics研究をレビューした。その後,Bibliometricsを用いた医学情報の解析を事例として紹介する。はじめにBibliometricsを用いたAIDS文献の分析,そして科学社会学の手法である2 Step-Mapを用いた神経科学分野におけるコア・ジャーナルの解析を紹介する。次に,今日EBM(Evidence-based Medicine)は,我が国においても現代医学を投影するキーワードとして医療界を席捲している。そこで,EBMに関連深いPublication Type,Structured Abstract,診療ガイドラインの分析についても言及した。
キーワード:ビブリオメトリックス,医学情報,エイズ,2ステップ・マップ,EBM,資料形式,構造化抄録,診療ガイドライン