情報の科学と技術
Vol. 52
 (2002) ,No.11
特集=情報リテラシー


特集「情報リテラシー」の編集にあたって

 高等学校の新学習指導要領として,教科「情報」が,平成15年度に実施されます。文部科学省によるとその目的は,「情報及び情報技術を活用するための知識と技能の習得を通して,情報に関する科学的な見方や考え方を養うとともに,社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割や影響を理解させ,情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てる。」ということです。一言で言うと,所謂「高度情報化社会」に対応できる力を養う,ということでしょう。
 また,私達の周りでもよく目にするようになったのが「情報リテラシー」という言葉です。これは「情報活用能力」とも訳されています。同時に,「コンピュータ・リテラシー」「メディア・リテラシー」「科学リテラシー」などの言葉もよく聞かれるようになりました。これらはしばしば「情報リテラシー」と混同されますが,「情報リテラシー」はこれらを内包する概念とも考えられています。
 「情報リテラシー」が本来目指しているものは何なのでしょうか。そしてそれに対し,「情報の専門家」としての情報センター職員や図書館員はどう関わっていき,何をすることが出来るのでしょうか。それらを考えていく上で,本特集が一助となれば幸いです。
(会誌編集委員会特集担当委員:新保佳子,伊藤 淳,都築埴雅,遠山美香子,深澤剛靖,松林正己,山本和雄)

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情報リテラシーとは?
― アメリカの大学・大学図書館界における論議を中心に ―

大城善盛* 
*おおしろ ぜんせい 同志社大学
 〒602-8580 京都府京都市上京区今出川通烏丸東入
 Tel. 075-251-3405(原稿受領 2002.8.20)

 アメリカの大学・大学図書館界で1980年代に始まった情報リテラシー運動を,定義,背景,現状などを含めて概観した。@コロラド州高等教育マスタープラン,A『図書館と大学卓越性の探索』シンポジアム,BALA会長情報リテラシー諮問委員会の『最終報告』が3大推進要因だった。情報リテラシーの基本的性格(特徴)はその3つによって作られた。1990年には情報リテラシー全米フォーラムが設置され,1900年代には大学・調査図書館協会が情報リテラシー教育の実施状況を調査したり,「高等教育のための情報リテラシー能力基準」(最終案は2000年)を作成したりして,情報リテラシーは益々重要性をおびている。

キーワード:情報リテラシー,情報工学技術,情報技術流暢,「高等教育のための情報リテラシー能力基準」,ALA会長情報リテラシー諮問委員会

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日本の情報リテラシー教育のレビュー
市村櫻子* 
*いちむら さくらこ 東京大学情報基盤センター学術情報リテラシー掛
 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
 Tel. 03-5841-2649(原稿受領 2002.9.11)

 世界最先端のIT国家を目指す我が国において,「情報リテラシー」は,高度情報化社会を生きぬくための基礎的な能力として国民に必須のものと位置付けられた。これに基づき,国民全体の情報リテラシー能力向上のため,様々な教育の情報化プロジェクトが進められている。
 このような状況のなかで資料・情報の提供サービスと図書館利用教育を行ってきた図書館・情報センターは,そのノウハウを活かし,積極的に情報リテラシー教育支援ができる組織である。
 今後,様々な情報リテラシー教育支援プロジェクトを展開し,その成果の公開・普及を進めるために情報リテラシー教育にかかわる組織による情報リテラシー教育支援体制の整備が必要である。

キーワード:情報化社会,情報リテラシー,情報リテラシー教育,e-Japan計画,図書館,情報センター,図書館利用者教育

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日本における科学リテラシーに関する研究動向
松井美紀* 
*まつい みき 愛知教育大学情報教育課程(非常勤講師)
 〒448-8542 愛知県刈谷市井ヶ谷町広沢1
 Tel. 0566-26-2111(原稿受領 2002.8.23)

 日本における科学リテラシーに関する研究文献(雑誌論文が主で,学会口頭発表予稿も含む)を取り上げ,解題を通して研究動向を概観する。日本において科学リテラシーに関する文献は1983年に現れ,1994年以降議論が盛んになり始めた。教育(科学教育)分野以外では物理(物理教育)分野の文献が多くみられる。海外の大規模調査(OECD,TIMSS等)の結果に基づき,科学リテラシーの習熟度を把握したり,カリキュラムを提案する文献が目立つ。「科学リテラシー」の定義や範囲についてはAAAS等の定義を引用するにとどまる文献が多いが,海外での科学リテラシーに関する定義,議論を概観し,年代毎にまとめているものも見られる。

キーワード:科学リテラシー,科学理解,科学教育,科学知識,情報リテラシー,科学・技術・社会,科学技術情報,科学概念,技術リテラシー

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三重大学附属図書館の情報リテラシー教育支援
杉田いづみ*,河谷宗徳**,後藤美由紀***
*すぎた いづみ,**かわたに むねのり,***ごとう みゆき 三重大学附属図書館 情報サービス課 参考調査係
 〒514-8507 三重県津市上浜町1515
 Tel. 059-231-9089(原稿受領 2002.8.21)

 三重大学附属図書館では,平成12年度以降,情報リテラシー教育支援関連業務の充実を図り,学部の講義等とのタイアップによる講習会を積極的に開催してきた。現在実施している,学部初期段階の情報リテラシー教育支援と,より専門的な情報リテラシー教育支援の2種類の講習会について紹介するとともに,当館の取り組みを通して,中規模大学図書館の事業のモデルを提示する。さらに,情報リテラシー教育支援事業を,大学における情報活用文化の育成を視野に入れた,大学図書館の運営全般に関わるコア・コンピタンスとして位置付ける。

キーワード:大学図書館,情報リテラシー教育支援,図書館利用教育ガイドライン,コア・コンピタンス,非営利組織のマーケティング

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事例報告:生涯学習 ここにこそ高速インターネット
―地方からの学習情報発信の模索 岡山県,岡山市のIT政策―

相澤泰憲* 
*あいざわ やすのり 岡山商科大学附属図書館,岡山商科大学情報推進プロジェクトチーム
 〒700−8601 岡山県岡山市津島京町2丁目10-1
 Tel. 086-252-0642(原稿受領 2002.9.2)

 岡山市長はサンノゼ市長との会談の中で,「高速インターネットへの接続基盤整備ができているところがリット(Lit)。リット,ノンリットが地域価値における物差しになっている」実態を聞き,大きな示唆を受けた。それゆえ,岡山市はFTTH(Fiber To The Home)を行い,テストベットを提供した。ブロードバンド社会ではこのようなことが可能と,民間の実験参加者から希望を募って実験をおこなっている。
  この実験に参加した結果,情報リテラシーは前提となる情報基盤によって大きく異なることを再認識した。

キーワード:岡山県,岡山市,リット,情報基盤,FTTH,ブロードバンド

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「学習する組織」のための情報リテラシー
小林麻実* 
*こばやし まみ ユナイテッド・テクノロジーズ
 〒105-0003 東京都港区西新橋1-12-1
  (原稿受領 2002.8.19)

 情報リテラシーとはいつの時代においても必要なものであるが,情報・知識の有無が雌雄を決する知識社会である21世紀においては,とくにその重要性が注目を集めている。しかしながら,情報リテラシーの本質とは自己否定の中からイノベーションの創造を行うことであり,決して簡単に到達できるようなものではない。この意味において,これまで受動的であり,かつ環境変化に合わせて自らの存在意義や活動領域を拡大してきた経験の少ないライブラリアン・情報専門家は,大きなハンディを抱えている。情報リテラシーにおいて何らかの寄与を行うためには,情報専門家自身が「学習する組織」の中で変化し続けていかなくてはならないのである。

キーワード:情報リテラシー,知識社会,イノベーション,情報専門家,学習する組織

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寄稿(通常総会講演)
情報文化とは何か?

細野公男* 
*ほその きみお 慶應義塾大学 文学研究科教授
 〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
 Tel. 03-3453-4511(原稿受領 2002.8.20)

 近年,大学の学部・学科名,学術雑誌の誌名,機関名の一部に情報文化という言葉が使用されているが,この言葉によって何を意図しようとするのかは,明確ではない。これは情報文化という概念がまだ定着しておらず,いろいろな意味合いで使用されているからである。しかし種々の場で使用されているのは,それが現代社会の特徴,現象,事象を表現する言葉として,きわめてインパクトが強いからであろう。
 そこで本稿では,情報文化の使用例,定義例を紹介し,それらと現在の情報環境を踏まえて情報文化の新たな定義を提案する。さらにこの定義に基づいて情報文化の諸側面(情報の重要さ,情報機器,情報リテラシー,情報管理体制,制度,文化的側面),情報文化の事例,わが国における情報文化の特徴について述べる。

キーワード:情報文化,情報,文化,情報行動,情報意識,情報技術,情報利用,情報環境

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