情報の科学と技術
Vol. 52
 (2002) ,No.6
特集=ビジネスモデル特許


特集「ビジネスモデル特許」の編集にあたって
(会誌編集委員会特集担当委員:山地康志,小陳左和子,峯尾幸信,豊田恭子,北島由紀子,重田有美,吉澤麻美)

情報技術(IT)の進化,発達に伴い新しいビジネスモデルが続々と誕生しています。こうした中で1998年7月,アメリカで「ビジネスモデルに該当するからといって直ちに特許にならないとは言えない」とする判決が出されたことなどを契機に,ますますビジネスモデル特許が注目を集めてきました。日本でも1999年,2000年には,新聞・雑誌などでビジネスモデル特許が大々的に取り上げられ,2001年夏からの特許公開件数の増加は相当なものとなっています。
 しかし,その位置づけはあいまいで不明瞭な部分が多く,今後の特許法改正に期待が持たれます。こうした状況の中,今後ビジネスモデル特許はどういう展開をみせるでしょうか。
 本号特集では,ビジネスモデル特許とはどういうものであるのか,その経緯・歴史的背景や現状を事例をとりあげながら再確認し,ビジネスモデル特許情報データベースのプロデューサとしての立場から,データベースの利用方法,収録情報など,またデータベースユーザーの立場から特許をどのように検索しているのかなど,述べさせて頂きます。

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総論「ビジネスモデル特許」について
青山紘一* 
*あおやま ひろかず 特許庁
 〒100-8915 東京都千代田区霞が関3-4-3
 Tel. 03-3581-1101(原稿受領 2002.3.11)

  「ビジネスモデル特許」の概念,その特殊性,その法制度と運用の現状について解説するとともに,かつて注目を浴びたビジネス方法特許(および特許出願)のその後の状況を追跡して,分析した。そのうえで,ビジネスモデル特許への今後の対応のあり方を示した。ビジネスの手法それ自体(純粋ビジネス)は特許法でいう「発明」には当たらず,発明の進歩性もクリアしなければ特許にならない。現実に,ビジネスモデル特許出願の特許成立率は極めて低い。しかし,今後,あらゆる事業がビジネスモデル特許との接点を増大させてゆくことになるので,これまでの技術的主題中心から,非技術的主題にも目を向けていかねばならない。

キーワード:ビジネスモデル特許,ビジネス関連発明,電子商取引,インターネット,特許法,審査基準,特許性

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ビジネスモデル特許が与える影響
―ビジネスモデル特許の保護とその関わり―

加藤光宏* 
*かとう みつひろ 明成国際特許事務所
 〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦2-18-19 三井住友銀行名古屋ビル7階
 Tel. 052-218-5061(原稿受領 2002.3.20)

 クロスボーダー,共同行為に対する侵害成否の問題など,まだ不透明な部分も存在するものの,審査基準の見直し等により,ビジネスモデル特許を保護するための土壌は,ある程度,整ってきた。
 ビジネスモデル特許は,ビジネスのインフラを保護することにより,実質的にビジネスを独占的に保護し得るという点で,従来の特許とは異なる意義を有している。こうした特徴は,企業に出願,権利行使の戦略の変革を迫っている。
 従来,特許と無縁であった部門,企業も,特許を無視することはできなくなってきた。出願時には,自社の事業にとっての有用性の見極めが,従来以上に重要となる。また,スタンダード化を視野においた権利行使も望まれる。

キーワード:ビジネスモデル特許,クロスボーダー,共同行為,審査基準,特許法改正,権利行使,スタンダード

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ビジネスモデル特許情報データベースの検索
川越康司* 
*かわごえ やすし 潟Wー・サーチ データベース営業部
 〒108-0022 東京都港区海岸3-9-15 LOOP-Xビル 9F
 Tel. 03-3452-1244(原稿受領 2002.3.25)

 1998年頃からマスコミなどで大きく取り上げられたビジネスモデル特許が,2001年夏から公開件数を大幅に増加させている。調査すべき件数が増えることは,質の高い調査を維持するための負担が増えることを意味する。一方,ビジネスモデル特許をきっかけに,これまで特許に馴染みのなかった部分のスタッフや企業が少しずつではあるが,特許に関心を抱き始めている。今後は,調査の目的や利用者の経験に応じて,複数の調査方法を使い分けることが大切ではないだろうか。本稿では,調査ツールの一つとして,ジー・サーチのビジネスモデル特許情報データベースの利用方法,収録基準および収録内容を詳しく紹介する。

キーワード:特許情報,特許分類,ビジネスモデル特許,情報サービス,データベース,G-Search,情報検索システム

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ビジネスモデル特許の情報源
(ダウエント・インフォメーション:特許情報コンテンツプロバイダーの立場から)

山内 亨* 
*やまうち とおる トムソンコーポレーション潟_ウエント・インフォメーション・日本 ウェブマーケティングマネジャー
 〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル5F
 Tel. 03-5218-6160(原稿受領 2002.3.22)

 日本でビジネスモデル特許出願件数が増加する中,その成立率が低下している。低下の一つの原因として,事前の特許調査が足りないことがあげられる。その問題を解決するための一つが特許情報データベースを使っての特許検索である。ダウエント・インフォメーションは世界40カ国以上の全分野の特許情報を包括的に網羅したデータベースを提供している。ダウエントが提供する特許情報データベースとそのうちの一つであるビジネスモデル特許情報データベース「e-commerce and business process patents(eコマースとビジネスモデル特許)」について紹介している。

キーワード:ダウエント,ビジネスモデル,特許,特許情報,データベース,トムソン,eコマース,WPI,科学情報

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ビジネスモデル特許の検索とその評価
長澤 洋* 
*ながさわ ひろし 富士通 特許企画部
 〒211-8588 神奈川県川崎市中原区上小田中4-1-1
 Tel. 044-754-3045(原稿受領 2002.3.25)

 ビジネスモデル特許に限らず特許情報の検索を行う場合には,検索テーマに関連する出願をまず探し出し,その公報に記載されている特許分類や用語を手がかりにして検索のためのキーを抽出していく。本稿ではあるビジネスモデルについての検索例を紹介し,その検索結果においてどのような用語がそこで使われ,またビジネスモデル特許に関連する国際特許分類として代表的なG06F17/60やファセット分類記号ZECの分類がどのくらい付与されているか,などの検証を通じてビジネスモデル特許の効率的な検索方法を探る。

キーワード:ビジネスモデル特許,特許分類,IPC,FI記号,Fターム,ZEC,固定キーワード,全文検索

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ユーザーからみたビジネスモデル特許
馬場淳子* 
*ばば じゅんこ 劾EC 特許技術情報センター
 〒108-0023 東京都港区芝浦4-5-11
 Tel. 03-3798-3020(原稿受領 2002.3.22)

 電気業界の技術者から依頼されるビジネスモデル特許の調査は技術を網羅的におさえた検索を要求されることが多い。私個人のビジネスモデル特許のキーワード,分類の抽出方法を紹介する。実際の検索事例として,OUG特許分科会で担当したテーマ「携帯電話を使った自動販売機の料金決済方法」についての検索方法を紹介する。

キーワード:ビジネスモデル特許,IT産業,網羅的検索,開発アイデア,技術用語,全文検索,概念検索

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投 稿
用語「情報」 ― ターミノロジー的考察 ―

仲 本 秀四郎* 
*なかもと ひでしろう IRIS情報学研究所
 〒113-0022 東京都文京区千駄木2-10-4
 Tel. 03-3821-7602(原稿受領 2002.3.11)

 用語「情報」を例にして,語源から始め,ターミノロジーの原理・応用などの概要を解説した。ターミノロジーでは,成り立ちから概念が先行し,概念の特性に従って,定義・用語・概念関係などが形成され,同義性・多義性・異義性が解析されることを明らかにした。また,一般語と専門用語,シソーラスとの違い,英・仏・独・中の多言語用語と,その変遷に言及した。

キーワード:ターミノロジー,専門用語,概念,定義,同義性,多義性,異義性,多言語,シソーラス

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投 稿
‘国際十進分類法(UDC)CD-ROM版
―検索機能付き―'の刊行とその活用法

田淵利明* 
*たぶち としあき 
 〒258-0004 神奈川県足柄上郡松田町庶子698-6
 Tel. 0465-83-1586(原稿受領 2002.4.30)

 (社)情報科学技術協会の創立50周年記念事業の一つとして,UDC-ConsortiumのMaster Reference File を日本語に翻訳し検索機能を付けた標記UDC CD-ROM版が刊行された。コンピュータの高度な発達に伴い,フリーキーワード検索が主流となっている今日,このCD-ROM版がどのような意味をもつか,UDC分類法をディスクリプタやフリーキーワードによる索引法と比較しながら,データ内容と利用機能から見たその特長と活用法を述べた。その最大の特長は,電子ファイル化されて検索機能が付与されたことであり,今後,頻度高く改訂されることが期待される。

キーワード:国際十進分類法,マスター・リファランス・ファイル,CD-ROM版,電子ファイル,冊子体,ディスクリプタ,フリーキーワード,情報科学技術協会,活用法

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