情報の科学と技術
Vol. 52 (2002) ,No.3
特集=サーチャーの意義
特集「サーチャーの意義」の編集にあたって
(会誌編集委員会特集担当委員:山地康志,峯尾幸信,豊田恭子,北島由紀子)
INFOSTAでは,これまで長きにわたり,「データベース検索技術者認定試験」を実施してきた。最盛期にはしゃれたカタカナ職業として一世を風靡してもいた。だがこの認定試験は2000年を以て科学技術庁の認定をはずれ,またサーチャーという特殊技能も1億総情報検索時代のなかで,その意味合いが薄れつつあるように感じる。しかしながら,ユーザーのあいまいな情報から適切な内容を引き出す能力や,コンピュータリテラシーに長けている点,そしてコンテンツについて言えば冊子やCD-ROM,商用データベース,あるいはインターネットなどに対する抜群の評価能力など,まさに21世紀のINFOPROにふさわしいスキルを兼ね備えていることも事実である。さて,従来サーチャーと呼ばれていた人々は,これからどこへ行こうとしているのか,そしてどのように変化しようとしているのか。今,サーチャーの何が問題で,新たに何を求められているのかを,いくつかの観点から展望し,明確化していく。
情報環境の発展とそれに呼応するサーチャーの役割
原田智子*
*はらだ ともこ 産能短期大学能率科
〒158-8630 東京都世田谷区等々力6-39-15
Tel. 03-3704-4011(原稿受領 2002.1.15)
情報専門職としてのサーチャーを取り巻く1970年代以降の情報環境の発展を概観し,サーチャーが日本において果たしてきた役割と,21世紀の高度情報化社会にあるべき姿や名称について考察した。考察にあたっては,サーチャーにアンケートを実施し,得られた回答も参考にした。サーチャーの仕事内容は情報化社会の進展により変化を遂げてきており,サーチャーを認定するのにインターネットを活用する資格試験内容や実施方法への見直しの時期にきている。21世紀に活躍するプロフェッショナルとしての情報専門職は,研究プロジェクトや企画経営に参画し,問題解決に積極的に関わり,必要な情報を的確に提供できる協働者(co-worker)となって,チームの目的達成のために大きな役割を担っていかなければならない。
キーワード:サーチャー,情報専門職,情報環境,資格試験,高度情報化社会,アンケート,問題解決能力,インフォメーション・コワーカー,役割
これからの特許情報サーチャー
高橋昭公*
*たかはし てるあき テル・リサーチ
〒358-0027 埼玉県入間市上小谷田1-3-4-210
Tel. 042-962-6383(原稿受領 2002.1.15)
インターネットの普及とそれに伴うエンドユーザの増加が特許情報サーチャーの存在意義を揺るがしている。それは,情報検索におけるサーチャー固有の能力の一部がエンドユーザ向けの知能化された検索システムによって代替されているからである。そこで,特許情報サーチャーが,その存在意義を失わないために,何を為すべきかを実務面から考察した。考察の結果,機械化が困難な「知的判断が求められる領域」に特化して自身の能力を伸ばすことが望まれ,特許情報サーチャーの存在意義は,エンドユーザへの差別化,情報の創出,コンピュータリテラシー,インターネットリテラシーの4つのキーワードの達成度で決まる。
キーワード:特許情報,インターネット,エンドユーザ,情報検索,サーチャー,検索システム,機械化,コンピュータリテラシー,インターネットリテラシー
ライフサイエンス・医学情報分野
小河邦雄*
*おがわ くにお 大正製薬椛麹研究所 研究システム部
〒330-8530 埼玉県さいたま市吉野町1-403
Tel. 048-669-3059(原稿受領 2002.1.15)
生命科学分野におけるサーチャーの役割に関して,製薬企業の研究所情報部門に所属する立場から考察をした。クスリができるまでには多くの投資が必要であるが,それを効率よく進めるために情報で支援するのが情報部門の役割である。そのためには,企業の戦略を理解して,最も効率的に調査が行われるようなシステムを作る必要がある。エンドユーザー検索についても,効率のいい部分と悪い部分があるので,それを理解して進める必要がある。そして,サーチャーはより高度な調査とその分析に力を入れるとともに,すべての人が情報へアクセスすることを保障するための基本であるリファレンスでの支援を忘れてはいけない。
キーワード:情報検索,サーチャー,製薬企業,エンドユーザー検索,情報支援
ビジネス情報系サーチャーへの挽歌
真銅解子*
*しんどう ときこ 東レ鞄結梹送ソ室
〒103-8666 東京都中央区日本橋室町2-2-1
Tel. 03-3245-5670(原稿受領 2001.12.21)
IT環境の進化がビジネス社会の行動様式を変えた。近年のインターネット世界の広がりがそれに拍車をかけた。サーチャーはIT環境進化の比較的初期に登場した職種であるが,その中でビジネス情報分野を専門とするサーチャーはまもなく存在しなくなると予想し,その原因を探る。ビジネス情報の特性に本質的変化要因があり,その上にインターネットの浸透による情報流通チャネルの変化が重なったものとみる。また,日本社会の構成員にも変質の兆しが感じられる。ビジネス情報分野を専門とするサーチャーはサーチャーでなくなり,別の機能を果たすものになる。
キーワード:サーチャー,レファレンス,ビジネス情報,ビジネス分野,情報特性,情報部門
大学図書館におけるレファレンス・サービスとデータベース :その現状と図書館員の役割
小山憲司*
*こやま けんじ 東京大学附属図書館情報管理課
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-2633(原稿受領 2001.12.27)
大学図書館におけるデータベース・サービスの状況と図書館員の役割について,アンケート調査を行った。その結果,多くの大学図書館でデータベース・サービスが実施されており,その提供方法はエンド・ユーザ検索が中心であることが明らかとなった。そのような状況の中,今後の図書館員は,図書館利用教育の充実,電子的情報環境の整備・充実といった業務に取り組むとともに,自らの知識や技術の向上を図る必要があることがわかった。しかし,その機会は多くなく,公的あるいは組織的な教育・研修制度の充実も今後の課題の1つであると考えられる。
キーワード:大学図書館,データベース,レファレンス・サービス,図書館利用教育,情報検索,インターネット,サーチャー,リカレント教育
座談会:INFOPROへのステップアップ
(原稿受領 2002.1.9)
本座談会には,サーチャー,ライブラリアン,またはその両方をこなす,ベテラン情報担当者4名を交え,これからのサーチャーはどうあるべきか,またINFOPROをどう考えていくか,その率直な意見をまとめたものである。時代の変化に柔軟に対応しつつも,情報担当者特有の専門性をしっかりと認識し生かしていくことで,萎縮しがちな私たちの仕事そのものに,新たな新風を巻き起こす可能性が見えてきた。日々実務をこなす情報担当者諸君も失敗を恐れず,チャレンジ精神を持って邁進してほしい。
投 稿 検索結果の適合度順出力のための評価指標―平均精度の再考―
岸田和明*
*きしだ かずあき 駿河台大学文化情報学部
〒357-8555 埼玉県飯能市阿須698
Tel. 0429-74-7124(原稿受領 2001.12.25)
(注) 本稿は平成13年6月のINFOSTAシンポジウム2001での発表に加筆したものです。検索結果の適合度順出力に対してその性能を評価しようとした場合に,伝統的な評価指標である再現率や精度はそのままでは使えない。そのため最近の検索実験では平均精度と呼ばれる指標が用いられている。しかし,この指標の性質や特徴についてはまだ十分には知られていない。本稿の目的は,この指標を別の評価指標である正規化再現率や正規化精度と比較することにより,平均精度についての理解をより深めることにある。さらに,検索実験における評価指標としての平均精度の長所についても論じる。
キーワード:平均精度,精度,再現率,適合度順出力,性能評価指標,正規化再現率,正規化精度,検索実験