2000年2月号抄録

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特集「情報サービスとセキュリティ」の編集にあたって

「公開(Permit Everything)か守秘(Deny Everything)か?」我々情報サービスを提供する立場にある者にとって,どちらを重視するかは悩ましい選択である。特に,大学図書館においては,年々提供するデータベースやサービスの種類が増え,利用者のニーズも多様化する中で,セキュリティ対策については後送りにされ,ややもすると忘れ去られがちである。また,大学図書館の経営者サイドの危機意識についても,民間企業に比べると格段に低いことは否めない。   確かに,セキュリティとはある意味で邪魔なもののように思える。なぜなら,本格的にセキュリティ対策を行うには,面倒な設定を膨大なお金と時間をかけて行う必要があるし,費用をかけた割には,効果がなかなか目に見えてこないからである。しかし,情報を提供する側にも受ける側にも最低限のルールとマナーがあり,それを無視してアクセスしてくる輩に対してノー・リアクションのままでよいのだろうか?今や情報を悪用して何をされるかわからない時代である。そこで,我々情報サービスを提供する者として,どこまでのセキュリティを考え,実施すればよいかなどセキュリティ対策の方向性を明確にし,情報サービスとセキュリティのバランス(せめぎ合い)を模索したい。   今回の「情報サービスとセキュリティ」では,企業図書室や大学図書館,情報センターを取り巻く様々な危険について,ネットワーク不正アクセスの現状を始めとして,OPAC端末エリアや利用者開放端末エリアといったパブリックスペースのセキュリティなど様々な角度からセキュリティ対策へのアプローチを行っていく。組織の経営者や管理者に少しでもセキュリティ対策の重要性を認識していただき,また情報サービス担当者やシステム担当者がセキュリティポリシーを決定し,対策を講じる上で,少しでも参考になれば幸いである。
(編集担当委員 田邊 稔,大原寿人,北島由紀子,峯尾幸信)


特集:情報サービスとセキュリティ 総論:セキュリティ・ポリシーとその実施

梅村 護 (うめむら まもる) 劾EC情報システムズ ネットワークSI事業部  
インターネットは情報収集と発信のための有効な手段であり,今や組織において欠くことの出来ないものであるが,望ましくない人々によるネットワーク侵入や妨害行為が後を絶たないことも事実である。本来の有効性を活かすためには,組織としてのインターネットへの接続の必然性を吟味し,正しいシステム設定と運用管理を実施するためのポリシーを確立する必要がある。システム設定においてはセキュリティホールを作り込むことの無いよう細心の注意を払い,運用においてはセキュリティ監視を実施し,さらに組織内ネットワークの全ての利用者が一丸となって,ネットワーク全体が危機に脅かされることを防がなければならない。  
キーワード:インターネット,ネットワークセキュリティ,セキュリティポリシー,イントラネット,セキュリティホール,ネットワーク侵入,不正アクセス

特集:情報サービスとセキュリティ  不正アクセスの現状とJPCERT/CC

渡辺康子 (わたなべ やすこ) コンピューター緊急対応センター
不正アクセスはインターネット環境におけるセキュリティトラブルのひとつである。JPCERT/CC(コンピュータ緊急対応センター)は,日本国内のサイトに関する不正アクセスの対応組織として1996年10月から活動を開始した。本稿ではJPCERT/CCの活動概要と,届出として受け付けた不正アクセス提供情報について述べる。
キーワード:JPCERT/CC,不正アクセス,インターネットセキュリティ,CSIRT(インシデント対応チーム)  

特集:情報サービスとセキュリティ 利用者公開PCのセキュリティについて

金子康樹 (かねこ やすき) 慶應義塾大学三田メディアセンター  
図書館サービスを遂行する上で,コンピュータの利用は,今や不可欠となっている。コンピュータの性能は向上し,様々な目的・環境で利用することができる。しかし,複数の人間がコンピュータを共用する公開PCの場合においては,ある人間にとって使いやすい環境が必ずしも他のものにも都合がいいとは限らない。一定の動作環境を保つためのセキュリティ対策が必要となる。しかしながら,セキュリティをあまり強めてしまうと利便性が損なわれてしまう。こうしたバランスを考慮しながら,セキュリティポリシーを定めていくことが必要になる。一口に公開PCと言っても,利用目的によってセキュリティ対策も異なってくる。本稿では,図書館の事例を中心に,公開PCのセキュリティについて考慮すべき点を説明している。  
キーワード:公開PC,OPAC,セキュリティ,ネットワーク,CD-ROMサービス,統合化データベース  

特集:情報サービスとセキュリティ  図書館システムとセキュリテイ

郷端清人 (ごうば きよと) 立命館大学総合情報センター 
ここ数年電子図書館機能について盛んに論じられ,あわせてインターネットが急速に発展してきている。そうしたなか,各大学においては図書館システムをいかに構築していくかが問われている。そしてシステムがグローバル化してくるにつれてセキュリティ対策も同時に考えていかなければならない。現在進めている新図書館システムの設計・開発のなかでこれらについていかに取り組んでいるかを論じたい。   
キーワード:電子図書館,セキュリティ,インターネット,ネットワーク,ファイアウォール,データベース

特集:情報サービスとセキュリティ  大学図書館の深夜開館について:マイアミ大学の事例(抄訳)

スコット・デマルコ*1,スコット・バンダム*2著,松本和子*3訳
1996年マイアミ大学は学生の要望に応えて学期後半の開館時間を午前0時から2時まで延長する措置を取った。開館業務にあたる閲覧部門のスタッフはスタッフと利用者の安全について多くの危惧をいだいたが,実施にあたって大学の公安部,大学警察と協力しながら問題点をスタッフ,サービス,安全と防犯の3点にしぼり,検討を重ね準備をすることで,自信を付けるともに,既存の問題点を整理することができた。  
キーワード:大学図書館,セキュリティ,夜間利用,開館時間,スタッフ,人員配置,安全,サービス,マイアミ大学  

INFOSTA著作権セミナー報告(2)  基調講演:データベースサービスにおける著作権処理の現状と問題点

三浦 勲 (みうら いさお) 三浦事務所
データベースの利用者にとってデータベースの著作権処理の問題は,法的規制とライセンス(著作権使用許諾)の二つの側面がある。事例を通じて,ライセンス取引とその運用面であるロイヤリテイ(著作権使用料)設定の実際について知ると共に,この問題がデータベース産業の発展とどのように関わっているかについて考察する。   また,欧米とのデータベース産業の格差は,ライセンス取引の社会的な仕組みの相違に起因する面があり,その問題点,利用者への影響についても触れる。
キーワード:著作権処理,データベースサービス,ライセンス,電子情報サービス,ロイヤリテイ,インターネット,データベースプロデューサ,出版社  

連載:統計の読み方(第9回)  企業編

保坂 睦 (ほさか むつみ) 慶應義塾大学三田メディアセンター 資料サービス担当レファレンス
日本の「企業」に関する統計を取り上げる。代表的な調査として「事業所・企業統計調査」,「企業活動基本調査」,「法人企業統計調査」の3つについて,歴史的変遷,利用上の注意等を交えながら概要を述べる。また,使用される言葉の定義,および企業統計の種類を紹介するとともに,統計行政の動向と「企業統計」のとらえ方についても言及する。
キーワード:統計,企業,会社,企業統計,企業構造,企業活動,事業所・企業統計調査,企業活動基本調査,法人企業統計調査