- 渡壁正さんを悼む
時実 象一
- 特集:「デジタルアーカイブを支える技術」の編集にあたって
会誌編集担当委員………47
- 日本におけるデジタルアーカイブのゆくえを探る:国際的動向を踏まえた,「より深い利用」に向けての展望
古賀 崇………48
- Europeanaのメタデータ:デジタルアーカイブの連携の基盤
福山 樹里………54
- デジタル文化資料の国際化に向けて:IIIFとTEI
永崎 研宣………61
- 方法としての著者識別子
蔵川 圭………67
- ウェブアーカイブを支える技術
前田 直俊,大山 聡………73
- 連載:情報分析・解析ツール紹介 第14回 特許情報解析ツール「CsvAid」のご案内
三根 哲………79
- 投稿:料理本の巻末索引の調査分析
藤田 節子………82
- <じょいんと懇話会>開催報告
………89
- 書評:『情報便利屋の日記 専門図書館への誘い』村橋勝子 著
豊田 恭子………90
- INFOSTA Forum (299)
丹 一信………91
- 行事予定表
………92
- 協会だより
………93
- 編集後記
………96
特集:「デジタルアーカイブを支える技術」の編集にあたって
今月号の特集は「デジタルアーカイブを支える技術」です。
1990年代以降,「デジタルアーカイブ」という言葉が国内で普及しはじめましたが,当初は各機関が保有するデジタル情報資源を自身のウェブサイトにて直接ユーザへ見せることに主眼がおかれていました。各機関が独自のメタデータや識別子,システム仕様に基づいてデジタルアーカイブを構築し,ユーザはそれぞれのウェブサイトの中で情報資源の検索や閲覧をすることが普通でした。
しかし,その後,メタデータやシステム構築において標準的な技術や規格の普及が進むことで,デジタルアーカイブ間の連携やユーザ側からのアプローチが容易になり,デジタル情報資源の活用が促進されてきています。本特集では,デジタル情報資源の保存・提供・利用を支える基盤であるメタデータをはじめ,デジタルアーカイブの活用をよりよくするための技術に焦点をあてています。
総論では,天理大学の古賀崇氏に,デジタルアーカイブの利用を考える際に踏まえるべき前提を整理したうえで,国際的動向も踏まえつつ,デジタルアーカイブの今後のあり方について論じていただきました。つづいて,国立情報学研究所の蔵川圭氏には,近年の著者識別子に関する様々な動きを概観し,デジタルアーカイブを対象としたデータベースにおいてどのように著者識別子が応用されうるのかを解説していただきました。また,国立国会図書館の福山樹里氏には,ヨーロッパの文化資源を統合検索できるポータルサイトであるEuropeanaがどのようにして国も分野も異なるデジタルアーカイブから膨大なメタデータを集め,管理し,提供しているのかを解説していただきました。
一般財団法人人文情報学研究所の永崎研宣氏には,画像を公開し共有するための国際的な枠組みであるIIIF(International Image Interoperability Framework)と,デジタルテクスト資料の構造化・マークアップの国際デファクト標準といえるTEI(Text Encoding Initiative)について経緯と今後の可能性について採り上げていだきました。最後に,国立国会図書館の前田直俊氏,大山聡氏からはウェブアーカイブの仕組みや事業を支える技術仕様,そしてそれらを生み出した国際的な活動について解説していただきました。
新しい技術の登場とともに,概念自体が変化しつづける「デジタルアーカイブ」について,その今後のあり方を考える際に役立つ,多くの示唆に富む特集とすることができました。様々な立場からその構築や運営に携わる方はもちろん,デジタル情報資源の利用を担うユーザの双方の実践の一助となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:水野翔彦(主査),中村美里,古橋英枝,南山泰之)
総論:日本におけるデジタルアーカイブのゆくえを探る:国際的動向を踏まえた,「より深い利用」に向けての展望
古賀 崇* 情報の科学と技術. 2016, 67(2), 48-53. http://doi.org/10.18919/jkg.67.2_48
*こが たかし 天理大学人間学部総合教育研究センター
〒632-8510 奈良県天理市杣之内町1050 E-mail: tkoga@tenri-u.ac.jp (原稿受領 2016.11.18)
本稿では国際的動向を踏まえつつ,日本におけるデジタルアーカイブのゆくえを考えるための論点を提示した。すなわち,アーカイブズ領域でうたわれてきた「証拠的価値」や,デジタル・スカラーシップの進展とともに意識すべき「学術研究上のルール」を踏まえつつ,デジタル技術のポテンシャルを生かした「より深い利用」を促すため,どのようなかたちでデジタルアーカイブを構築・運用するのが望ましいか,ということを,本稿では論じた。国際的標準・規格や,図書館での「ディスカバリ・サービス」といった横断的・包括的検索システムとの関係も,考慮すべき論点に含まれる。
キーワード:証拠的価値,情報的価値,デジタル・ヒューマニティーズ,デジタル・スカラーシップ,国際的標準・規格,デファクト・スタンダード,IIIF,TEI,ディスカバリ・サービス
Europeanaのメタデータ:デジタルアーカイブの連携の基盤
福山 樹里* 情報の科学と技術. 2016, 67(2), 54-60. http://doi.org/10.18919/jkg.67.2_54
*ふくやま じゅり 国立国会図書館総務部人事課
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1 (原稿受領 2016.10.19)
本稿の目的は,Europeanaが国も分野も異なる様々なデジタルアーカイブからメタデータを収集し,管理し,提供している方法を,公開されている文書類をもとに解説することである。はじめに,メタデータを収集しているアグリゲータモデル,収集したメタデータの処理工程,公開と出力までを概観する。次にEuropeanaのメタデータモデルであるEDMに焦点を当て,その開発方針と特徴を整理する。その後EDMを有効に機能させるメタデータの運用について,品質確認プロセスも含めて説明し,最後にEDMに関わる今後の課題をまとめる。
キーワード:デジタルアーカイブ,Europeana,メタデータ,メタデータスキーマ,品質管理
デジタル文化資料の国際化に向けて:IIIFとTEI
永崎 研宣* 情報の科学と技術. 2016, 67(2), 61-66. http://doi.org/10.18919/jkg.67.2_61
*ながさき きよのり 一般財団法人人文情報学研究所
〒113-0033 東京都文京区本郷5-26-4-11F E-mail: nagasaki@dhii.jp (原稿受領 2016.11.28)
デジタル文化資料のWebでの流通の仕方を抜本的に改革し,より効果的効率的に共有するための規格,IIIFが研究図書館を発信源として国際的に広く支持を集めるようになってきており,英国図書館やフランス国立図書館をはじめ,多くの関連機関がこれに積極的に関わるようになっている。本稿では,IIIFの初期段階の構想を採り上げ,それが現在にどのように実現されているかを明らかにする。そして,IIIFが現在提供する様々な利便性について紹介するとともに,現在国内外でどのように広まっているか,その広がりがどういった状況をもたらし得るか,について検討する。さらに,人文学向けのテクスト資料のデジタル化に関するデファクト標準であるTEIについても触れ,両者の対比と今後の可能性を提示する。最後に,デジタル文化資料の国際的な規格に日本が積極的に関わっていくことの意義を述べる。
キーワード:Universal Viewer,Mirador,SAT大正蔵図像DB,日本古典籍データセット
方法としての著者識別子
蔵川 圭* 情報の科学と技術. 2016, 67(2), 67-72. http://doi.org/10.18919/jkg.67.2_67
*くらかわ けい 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2 E-mail: kurakawa@nii.ac.jp orcid.org/0000-0002-7031-1846 (原稿受領 2016.11.28)
本稿は,様々な学術的文化的データベースにおいて必要不可欠な著者識別子に焦点を当て,昨今の技術的,政策的変革の中で,それらがどのような様態をなして,どのように利用されるようになってきているのかを概観する。著者識別子は,著者名の曖昧性を排除し,学術的,文化的なあらゆる創作活動の結果である著作物を著者に正確に関係づける。著者名寄せとの対比の中で著者識別子を形式的に位置付け,現在流通する様々な著者識別子を品質の観点から整理し紹介する。さらに,グローバルな著者識別子であるORCIDとISNIが学術論文,研究データ,デジタルアーカイブを対象にしたデータベースにおいてどのように応用されるかを示す。
キーワード:著者を識別する方法,著者識別子,著者名寄せ,グローバルな著者識別子,学術論文,研究データ,デジタルアーカイブ
ウェブアーカイブを支える技術
前田 直俊*,大山 聡* 情報の科学と技術. 2016, 67(2), 73-78. http://doi.org/10.18919/jkg.67.2_73
*まえだ なおとし,おおやま さとし 国立国会図書館関西館電子図書館課
〒619-0287 京都府相楽郡精華町精華台8-1-3 E-mail: warp@ndl.go.jp (原稿受領 2016.11.15)
過去20年にわたって世界各国でウェブアーカイブが行われ,法制度の整備,技術開発,人材育成など様々な分野で発展を遂げてきた。とりわけ技術開発においては,IIPCを中心とした国際的な取組の成果が顕著で,その成果は今日におけるウェブアーカイブ技術の基盤を形成している。本稿では,それらウェブアーカイブ技術の中核であるクローラHeritrix,保存ファイルフォーマットWARC,閲覧ソフトWaybackを取り上げ,各国機関における導入状況,開発経緯や仕組みを紹介する。また,NutchWAXやSolrなどの全文検索エンジン,メタデータによる組織化,アーカイブ間の連携を目指すMementoプロジェクトについても概要を紹介する。
キーワード:ウェブアーカイブ,IIPC,Heritrix,WARC,Wayback,NutchWAX,Solr,Memento
次号予告
2017.3 特集=「図書館員のメンタルヘルス:その2」
(特集名およびタイトルは仮題)
- 図書館における問題利用者への抑止策
- ・メンタルヘルスリテラシーからみたストレスマネジメント
- ・呼吸から自分の心と身体を変える
- ・認知行動療法を使ってこころのスキルアップ術
- ・出来事の視点を変えてポジティブに考える
- 連載:情報分析・解析ツール紹介
など